【ネッフリ】シュール映画『6アンダーグラウンド』感想文

《推定ながら見時間:70分》

中東らへんの悪い独裁者を公には死んだことになっている正義のゴースト特殊部隊がやっつける! これ以上ないくらいに単純明快な筋なのだが途中から一体何を見ているのかわからなくなってしまった。
最大の意味不明ポイントは香港での作戦遂行中に鳴り響くSEである。敵の抵抗が思ったよりも強く苦戦を強いられるゴースト部隊、彼らが起死回生の奇策に出たところでぐわぁぁぁんと鳴るのだが、英語CC字幕で見ていたら「THXのサウンドロゴ」とか出ていた。まったく意味不明である。

いやそもそもこのビルに突入するところからして意味がわからなかった。ガードを排除するためにゴースト部隊の頭脳っぽいの担当は笑気ガスを撒いてガードはみんな笑い転げてしまう…って何? それは、なにか、ジョーカー的な?
映画ネタが台詞にやたら出てくるしゴースト部隊の創設者にしてリーダーのライアン・レイノルズは「ブルース・ウェインじゃないんだからっ!」みたいなツッコミをどこかでしていたのでアメコミパロディかもしれない。

レイノルズは元スーパーエンジニアで色んなすごい技術をたくさん作ったが(俺の説明も下手だとは思うが劇中でもそれぐらいしか説明してなかったと思う)いつしかその技術は正義のために使うべきなのではなかろうかと考えるようになりゴースト部隊を立ち上げたのだった。アイアンマンじゃねぇか。

マイケル・ベイ、スーパーヒーロー映画のオファーが欲しかったんだろうか…いやベイほどのアクション監督に打診がないということもないだろうからやっぱりジョークのつもりでやってるんだろう。本丸は独裁者の支配するツルギスタン(なんて適当な名前だ!)のはずなのに香港パートがやたら長いのも、かの町山智浩に「香港パート全部切れよ!」とまで言わせた『ダークナイト』批判に違いない。あくまで、察するに、なぜ今更『ダークナイト』なのかはわからないが…。

しかしアメコミ映画をネタにしたジョーク映画にしては無駄に空気が重い。ゴースト部隊のメンバーは表社会では既に死んだ身、レイノルズが開発したスーパーテクノロジーで全ての存在証明が抹消されどういうあれかは分からないが国を自由に移動したり好きなものを買えたりしても、残してきた家族とかにはもう会えない。その悲哀を7人いるメンバー全員分それなりに時間を割いてしっとり描いたりするのでどういうつもりなのかわからない。

バカと悲哀も上手くミックスできれば『デッドプール』みたいなるとは思うが、この映画ではそこらへん乖離しているのでなんだか躁鬱の人の孤独なブログを読んでるみたいで観ているうちに心配になってきてしまう。爆破! 憂鬱。射殺! 憂鬱。破壊! 憂鬱…の繰り返しって大丈夫なのかマイケル・ベイ。なんかこえーよ。なんかこえーよ…。

一応『ナバロンの要塞』とか『特攻野郎Aチーム』みたいなチームものアクションなのだが敵の設定がなんとなく悪そうな架空の国の独裁者とかフワッとしているのでいまひとつ力を合わせてやっちまえ感が出ない。なんか遺恨があるとかなら分かるがこいつ市民に毒ガス使った悪い奴だからお仕置きして政権から引きずり下ろそうぜっていう動機なのでむしろお前らも結構やばいなって感じである。この架空の国、ツルギスタンのシリアとリビアとイラクとドバイあたりを全部ごっちゃにしたようなアッラーをも恐れぬどんぶり造形も別の意味でやばみが深かった(本当に大丈夫か…?)

ゴースト部隊が基本的に全員無敵の人で敵側にまともに対抗できるキャラが皆無なのもやっちまえ感が出ない一因だったが、その点ではスーパースローモーションをスーパー多用したスーパースタイリッシュアクションも相当に作用していて、冒頭のフィレンツェでの人物紹介を兼ねた長いカーチェイスなんかは…すごい。もう、全然カーチェイスの楽しさみたいなものがなかったとおもう。というのもカーチェイスというぐらいだからカーチェイスが面白いのは車と車が追いかけっこをするからなのに、その追いかけっこを見せないで車でなんか撥ねたり後続車がクラッシュするところばかりをスローモーションとか素早いカッティングを駆使して見せる。

ウフィツィ美術館の内部に車で突っ込む場面にはさすがに度肝を抜かれたが、なにか根本的に間違っているんじゃないだろうか。このへんのカーチェイスなんかはジョン・フランケンハイマーの遺作となった『RONIN』を思わせるところもあったので、真面目に面白いカーチェイスを見せるというよか色んなアクション映画をパッチワークして茶化した映画だったのかもしれない。そう思えば諸々、納得がいく感じはある。

しかし納得したところで面白くなるわけでもない。別に腹を立てるとかそういうことはないがあまりにも映画として適当なのでモニターの前で途方に暮れてしまう。独裁者を引きずり下ろして民主派の独裁者の弟を後釜に据えようとする平和大作戦の杜撰さもすごいし、底抜けザル警備の国営テレビ局をコンビニにタバコを買いに行くぐらいの感覚でジャックして弟をカメラの前に立たせたら民衆が一斉蜂起して軍に殺されまくるのもすごいし、事が終わったらツルギスタンのこととかゴースト部隊のメンバー全員が完全忘却してしまうのもすごい。これ内紛になるだろこの国絶対。

不謹慎ギャグとスタイリッシュアクションの融合は『デッドプール』の人とか『キングスマン』の人とか後続の若手監督たちの方が全然上手くかつ過激にやっているのでもはや慣れてしまってとくに響くところもない。アクションカムを使ったパルクールアクションも今更感が漂って逆にダサい。カークラッシュも爆破もそれなりに多いが見せ方が淡泊なので発破解体現場とか自動車メーカーの耐久性テストを見ているようでエキサイティングというよりもシュールである。

一体なんなんだ。マイケル・ベイのアクション映画なんてむずかしいところは一つもないはずなのに観終わって残るのは困惑ばかり。『アンパンマン』を読むつもりが気付いたら蛭子能収の漫画を読んでいたようなもの。
その容赦ないニヒリズムと全方位的な揶揄と、合間に顔を出す寂寥感は、確かに蛭子漫画と通じるところはあった。大丈夫なのかマイケル・ベイ。でも昔からこんな映画ばかり撮っていたような気もする…。

【ママー!これ買ってー!】


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ベイ、まだフランケンハイマーに憧れてるんだろうか。

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