社会の中で遭難映画『高速道路家族』感想文

《推定睡眠時間:15分》

高速道路のサービスエリアを転々としながら「実は財布をスられちゃいましてね~このままだと家に帰れないんだよな~困ったな~」と駐車客から2万ウォンを借りるふりをして騙し取るという俺も何度かJR駅構内で遭遇したことのある寸借詐欺ってやつで生活をしているホームレス家族のお話なのだが2万ウォンって日本円でいくらぐらいだろうと思ってさっき検索したら2000円。2000円かぁ。風呂はサービスエリアのトイレで済ませてるからタダ、寝る場所はサービスエリアの空いたところにテントを張ってるからタダ、病気にでもならない限りはとりあえず食費だけ捻出できればまぁいいとしても四人家族で一日2000円は結構ギリギリっていうか必要額をギリはみ出してるよなぁ。

それも毎日寸借詐欺が成功するとも限らないわけでしょ。韓国にホームレス支援雑誌のビッグイシューがあるのか知らないですけどそれだったらビッグイシュー売った方が絶対いいよな。ビッグイシューなら売価の半分は販売者の取り分で2023年4月現在のところ日本では売価450円だから225円の利益、一回2000円の寸借詐欺に比べれば安く感じられるかもしれないが一家四人でホームレスなら子供を販促に使える。警備員に販売許可はあるのかと問い詰められはするだろうが、なんとか出し抜けば人の出入りが激しいサービスエリアのこと一日数十冊の販売も夢ではないかもしれない。これなら定住に向けて貯金もできるしなにより寸借詐欺と違って合法だからおまわりさんの目を恐れてこそこそと暮らす必要はない。みなさんも道端でビッグイシューを売ってる人を見かけたら映画スターのインタビュー記事が載ってることも多いしぜひ買ってみて下さいねといや俺は別にビッグイシューの回し者ではないのだが。

でこの映画そんなどん底ファミリーがリサイクル屋のオーナーに寸借詐欺を働いたことから元々狂っていた人生の歯車が更に狂ってしまってというわけなのだがポスターとかに書いてあるような『パラサイト』的サスペンスでは別にない。同じどん底家族ものでも展開や空気感が近いのは是枝裕和の『万引き家族』。『万引き家族』は海外の有名映画賞を賑わせたし是枝裕和はペ・ドゥナとかソン・ガンホとか起用して韓国でこちらもどん底家族映画の『ベイビー・ブローカー』を撮ってるから影響あるんじゃないだろうか。貧乏だけど仲睦まじく楽しい生活、でもその楽しい生活はいつまでも続くわけじゃない、みたいなところなんか実に是枝映画っぽいよな。

だからビックリするようなところであるとかハラハラするようなところは基本的にない。仲睦まじいホームレス家族が必然の崩壊に向けて少しずつバラバラになっていく過程を透明なタッチで見せていく。大仰な演出も声高なメッセージもない静かで地味な作りだからこそ家族の崩壊が痛ましく浮かび上がってくるし、なんでもない時間が愛おしく見えてくる、というわけ。最近の韓国映画で似た感じの映画といえば『声もなく』が近かったな。あれもしっとりしたイイ映画だった。

俺にとって面白かったのはこれサービスエリアを転々とする話だから都会って出てこない。ずっと韓国の田舎を高速沿いに彷徨ってて、それがなんか新鮮。どこの国も同じでしょうけど海外に輸出されるような娯楽映画って基本的にその国の都会が舞台だったりするじゃないですか。岡山のしなびたガソリンスタンドみたいのは舞台にならないよね。いやこれはひとつのたとえでとくに深い意味はないんですけど。だけどこの映画はそういうものではなかったわけですよ。

画面に映るのは韓国のなんの変哲もなく面白味もないサービスエリアと田舎の山奥の廃墟群、あとリサイクルショップ。廃墟群はなかなか絵的に映えるところもあるけれどもサービスエリアとリサイクルショップはどう撮っても映えない。その映えなさが良い。つくづく思うのだが映えない場所、映えない風景にこそその国の独特なところが凝縮されてるんじゃないだろうか。だって考えてごらんよ、ブックオフに観光で行く外国人観光客はいないだろうけど、ブックオフを一時間かけて回れば一週間のツアーで渋谷とか浅草とかを巡るよりも遙かに日本の文化というものをディープに知ることができるってもんじゃないですか。だからあのつまらないサービスエリアの風景、リサイクルショップの風景、スーパーの風景…すごいリアルな韓国を感じてよかったし、なんというかね、言葉にはできないんだけれども感覚的に「あ、こういう社会の中でこの家族はあぶれてしまったんだな」って納得できるところがあんのよ。

とそのように書けば自然主義的な映画と思われるかもしれないがそういうわけでもなく、サービスエリアとかスーパーとかのありふれた風景は一見何の意味もないようで一家の置かれた状況や心情の暗喩のように機能してるし、一家を狂わせるのがリサイクルショップのオーナーというあたり仄かな皮肉が香ったりもする。リサイクルショップがどこから売り物を仕入れてくるかって店を畳んだところなんかからタダ同然で仕入れてくるわけで、社会の残飯で飯を食ってるっていう意味ではホームレス一家もリサイクルショップのオーナーも大した違いなんかない。あくどさでいえばせいぜい2万ウォンの寸借詐欺しかしないホームレス一家よりもタダ同然の物を何倍何十倍の価格で売りさばくリサイクルショップのオーナーの方が全然あくどいだろう。でもそうやって飯を食ってることにこのオーナーはどこか罪悪感を抱えてもいて、一家に施しを与えることでその罪滅ぼしをしようとするがそのせいで…とまぁ自然体と見えてなかなか緻密な脚本になってるわけです。でもそうは見せないのがまた巧いよねぇ。

ってな感じで『高速道路家族』、よかったです。最近のメジャーな韓国映画の全部乗せマシマシ路線にどうも乗り切れない俺のハートにはよく響いたよ。そう、こういうのが観たいんだ俺は! …まぁたまにはマシマシもいいんだけどさ。

【ママー!これ買ってー!】


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『高速道路家族』の父親は寸借詐欺をする時だけジャケットを羽織るのだが『超えもなく』にも主人公の貧乏青年がここぞという時にジャケットを羽織る描写があり、それが切ないのだよなぁ。

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