なんなんだ映画『ゲネプロ★7』感想文

《推定睡眠時間:15分》

よくわからない映画だった。タイトルからしてよくわからないのだが検索するとゲネプロというのは演劇用語で客を入れない以外は本番と同じ条件でやる最終リハーサルのことらしい。7というのは劇中に登場する若者に超人気という設定の架空の劇団の名前。その劇団7のゲネプロに至るまでの数日間を描く映画なので『ゲネプロ★7』。完全なる余談だが現在『ヴィレッジ』が公開中でその次には岡田准一主演の『最後まで行く』の公開が控える売れっ子映画監督の藤井道人がメジャーに抜擢されるキッカケとなった自主映画が『7s』というタイトルだった。

ゲネプロも7もわかったがじゃあ★は? あの★はどこから来たのか? これについては謎に包まれているが監督が堤幸彦ということで若き日の嵐が主演の堤幸彦監督作『ピカ☆ンチ LIFE IS HARD だけど HAPPY』の☆が二十年の歳月を経て変色したものの可能性がある。『ゲネプロ★7』に出ているのもゲスト出演的な竹中直人などを除けばまだ無名に近い若手俳優ばかり、『ピカ☆ンチ』から羽ばたいた…というわけでもないだろうが、嵐のように『ゲネプロ★7』の出演陣にも羽ばたいて欲しいという気持ちの表れかもしれない。しかし予告編にはゴー☆ジャスみたいな道化メイクを施したキャラも登場しており、そちらの説も捨てきれないところだ。

タイトルなどどうでもいい。ほほうそうですか。でもさ、なにそれ? って思わない、このタイトル。俺は思った。で最初テレビの深夜バラエティ番組かなんかの映画版で出演俳優さんたちはその番組に出てる人なんだろうなと想像したんですけど、本当はどういう企画なんだろうと思って公式サイトを見たらとくにそんな記述はない。え、じゃあなんなの…製作はクレッシェンドとクレジットにありこれは確か堤幸彦の映像製作会社であるからどうもオリジナル企画に近いもののようなのだが詳しく調べる気はないので詳細不明。

あれかもしれん、コロナ禍を受けて堤幸彦は舞台やインディーズで活動する河野知美ら三人の女優と密室芝居映画『truth〜姦しき弔いの果て〜』を作り上げており、公開を控える『SINGULA』なる映画はやはり主に舞台で活動するspiという人の1人15役密室会話劇ということで、どうも未だ知られぬが実力ある若手役者をじゃんじゃん世間に知らしめていこうというモードに入っている気配がある。堤幸彦の名前があればぶっちゃけお客は入らないかもしれないが劇場公開はされるので実力の宣伝にはなりますよ的な。とすればこの映画『ゲネプロ★7』が室内会話劇に室内で出来る範囲の殺陣を加えたいかにも予算と撮影日数のない(推定3日)映画であったことも了解できる。プロモーション映画なのだなこれはたぶん、若手役者たちの。

謎は解けたということにしていいかげん映画の内容の話に移ろう。若者たちに絶大な人気を誇るという設定がYouTube風の画面のコメント欄が流れ続けるという簡素な演出で示されるだけの劇団7の新作舞台はシェイクスピちょっと待ってハレーションが出まくってる演出はこれなんなの? 堤幸彦こういうアマチュア的な映像実験好きだからそれで最初の方だけそんな感じでやってるのかなと思ったら全編それじゃん。み、見づらい…これは見づらいよ! 見づらくてもその映像効果に意味があるならわかるがこれ全然意味ないだろう! 出てるね~あ~これは良い具合に出てるね~堤幸彦の悪い癖!

堤の手癖にはひとまず目をつむるがシェイクスピアの戯曲の登場人物が沢山出てきて対決する的な劇中劇の設定もなんだかよくわからない。この劇団7のメンバーというのがどいつもこいつも自分勝手なパワハラ気質で、ゲネプロに向けて稽古をしているうちにどんどん仲が険悪になり劇中劇と現実の区別がつかなくなっていくという筋立てはベタとはいえ面白いが、その劇中劇の設定が無駄に捻っていてよくわからないので劇中劇と現実の境が揺らぐ瞬間や舞台上の人格に現実の人格が重なる瞬間がドラマとして成立していない。堤幸彦のこれまたアマチュアリズムの炸裂したギザギザしたカッティングにより更にドラマは破壊され、結果、なんだかよくわからない。ついでに言えばシーン繋ぎで入ってくる工事現場の実景ショットもまったく意味不明だ。

なんだったんだろうか。映画を観終わったあと、しばし思考が行き場を失ってしまった。夢か? シェイクスピアだけに『真夏の夜の夢』ですか? そりゃ面白いとは思ったよ、わけはわからないけど若手舞台役者たちの熱気迸る演技合戦はなかなか見物、学芸会みたいなえらいチープなひらひらセットを背景に役者たちが叫び悶えブシャアと血を噴いてぶっ死んでいく終盤のカオティックで幻惑的なシークエンスは鈴木清順ほど様式が完成されていないとしても、脳が圧倒されるという点では清順映画に近いものがあった。観て損をしたとは全然思ってない。むしろ良かったよ。でもなんなの? なんなんだこれは、いろいろな意味で。こういうの観ると映画ってまだまだ事故を起こせるなっておもいますね。

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そう面白いもんでもないがそうつまらないものでもない映画というより小劇団の舞台のライブビューイングみたいな映画。プロデュースをしているのが主演の役者3人のためかこちらには堤のわけわからん映像作りたがる癖は入ってません。

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2 Comments
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匿名さん
2023年8月4日 11:15 PM

コメント失礼致します。
質問なのですが、公式サイト等はご覧になられましたでしょうか?ご覧になられたらわかると思うのですが、こちらミステリー映画になっておりまして、あなたの言う監督の悪い癖というのは、この物語における重要な伏線である可能性が高いと考えられています。私も最初、俳優さんから見て、アクション映画だと思っていたのですが、ミステリー映画でした。
それと、名が知られていない若手俳優とお書きになっておられましたが、この映画に出ているほとんどの役者は、刀剣乱舞などのメディアミックスにて活躍されている有名人の方々です。ですので、監督のしたかったことは別にあるのではと私は考えております。
長文失礼致しました。