エクストリームスクール映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』感想文

《推定睡眠時間:15分》

現代日本のような総体的にはとても豊かな国にいれば少なくとも金銭的な事情から小中学校に行けないということは基本的にはないわけで、むしろ義務教育であることから子供たちにとってみれば学校めんどくせ~行きたくね~ぐらいの感じと思われるが、広い世界に目を転じれば家の近くに学校がありそこで学ぶことができるというのは決して当たり前のことではない。だからありがたくお勉強しなさいよなどと血の気の多いガキどもに言ったところではいわかりましたとお行儀良く答えるやつはまぁたくさんいるとしても本心でそう思うやつは存在するわけがないのでそんなお説教は俺は中学は引きこもって通ってませんでしたししませんが、まぁしかしねやはり日本の学校やガキどもがどれだけ恵まれているかということはこういう映画を観れば思い知らされるところです。

世界のエクストリーム学校で教鞭を執る三人の女性小学校教師がこの映画には出てくるのですがまずそのトップバッター、西アフリカのおそらく最貧国ブルキナファソの自宅から600キロ離れた辺境村に赴任する新人先生が直面する状況からしてもうこれ以上に下の教育環境は考えられないんじゃないかというほどのエクストリーム、土かなんかで作られた一室のみの教室は電気もなければドアもなく窓がない代わりに壁に穴が開いている…というのは貧国学校あるあるの可能性もあるがアフリカといえば言語文化の非常に豊かな地域でありこの60人ほどが暮らす村でも5カ国語が飛び交いその一方でブルキナファソ公用語のフランス語を話せる子供はいないのだという。

先生、フランス語しか話せない。まず教室に入ると挨拶程度の言葉も通じずみんな別の言葉で喋っているので勉強どころか意思疎通ができないというエクストリーム加減にいやそれは無理だろ!? と思ってしまうのはやはり豊かな国ジャポンでのうのうと生きてきたヘタレの感想であって、ブルキナファソでは新任教師は一定期間の遠隔地勤務が必須という事情もあるにしても、この先生言葉も通じないのに村の子供たちに懸命に勉強を教えようとする。簡単なフランス語が話せるだけでも将来的に就ける仕事の選択肢は大きく増える。井戸が壊れて飲み水にも事欠いているというこの村とその子供たちにとっては教育を受けられるかどうかは死活問題であり、それがわかっている先生は全然言葉が通じないのに絶対に教鞭を投げだそうとはせず、必要とあらば自らソーラーパネルを買って学校に電灯を導入し夜間学校を開くほどの情熱を注ぐ。

こうもエクストリームだと俺の脳内にある感動腺もシナプスの働きがエクストリームであるが、これは三人のエクストリーム学校先生のうちの一人のエピソードに過ぎない。次に登場するのはシベリアの遊牧少数民族出身のエクストリーム先生、こちらの学校は言うてロシア連邦内だけあってブルキナファソのエクストリーム学校に比べれば電気などもあるし防寒設備もあるし施設としてはちゃんとしているが、町からどれくらい離れているのか知らん雪に覆われた森の中に現在は居を構えている遊牧少数民族の学校なので教室ひとつ生徒は3人、先生はそこに犬ぞりで勤務するというのだから生やさしいものではまったくない。このエクストリーム先生には子供たちに初等教育を修了させるほかもうひとつ個人的な目標があり、それはこの少数民族の言語、文化を子供たちに受け継ぐということ。外は極寒だがその教育闘志はアツい。

最後のエクストリーム学校はバングラデシュの辺鄙な村にあるのだがこの学校はおそらく観光船を改造した屋形船のようなもので、学校としての設備は最低限といった感じだが外側はピンクとブルーを基調に可愛らしく塗装され、あれむしろこの学校普通の学校より通うのが楽しくなりそうでいいんじゃない? と思わせる。だがしかしここもやはりエクストリーム学校、その理由が垣間見えるのはエクストリーム先生の授業中に女子生徒の母親が乱入してきて姉の結婚相手に合わせたいから娘を授業から抜けさせてくれと言うシーン。パンフレットによれば2021年の時点でバングラデシュの女子児童結婚率は18歳未満で51%にも上るのだという。

夫の側は多額の持参金を手に縁談を持ってくるので実態は人身売買に近いものだが、何も金持ちが貧乏人を買っているわけではなく貧乏人が貧乏人を買っているのでこれは結婚によって貧乏人がより貧乏になり、夫も妻もどちらも満足な教育を受けていないのでいつまでも金銭的に自立できないという貧乏の悪循環。そんな悪循環を断ち切ろうとバングラデシュのエクストリーム先生は結婚よりも教育をの信念で授業に臨む。学のない両親たちからは露骨に敵視されている様も見受けられ大丈夫なのか、田舎の貧乏人は野蛮だから殺されやしないか、と偏見丸出しで観ているこっちは不安になるが、エクストリーム先生は動じず子供の教育がいかに将来的には子供たちだけではなく両親のためにもなるかと単身説いて回る。このエクストリーム先生は見た目線の細い若いチャンネーなのであるが大変な度胸と度量のある人なのだ。

うーん、エクストリーム! いやぁ世界は広いですなぁ。なんかさ、こういう映画を観ると自分の抱える悩みとか憂鬱気分なんかがしょせん大したもんじゃねぇなって相対化されて気が楽になりますよ。そんな消費の仕方をするんじゃないと意識の高い人から怒られそうだが俺はそれでいいんじゃないかと思うな。自分も楽になって、それで世界には今こういう問題があるんですよと知ることもできるから、その自分よりもずっと困ってる人とか頑張ってる人たちのために何かできることはないかなとか考えが回るようになりますからね。

っていうことでこれは心と懐に余裕のある人というよりも、むしろ心にも懐にも余裕のない人にこそ観て欲しいドキュメンタリー映画だ。元気出ますよ、先生たちも子供たちも絶望的な現実に屈せず楽天的な雰囲気すら漂わせていてね。楽天ってあのちなみにあれじゃないですから三木谷の方じゃないです。

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『世界のはしっこ、ちいさな教室』はエクストリーム先生のお仕事風景をメインにしたものでしたがこちら『世界の果ての通学路』はエクストリーム学校に向かう子供たちのエクストリーム通学を捉えたドキュメンタリー。この映画のプロデューサーが『世界のはしっこ、ちいさな教室』も製作したらしい。

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