ホラーと思たらカンヌ系映画『PIGGY ピギー』感想文

《推定睡眠時間:40分》

とにもかくにも主演ラウラ・ガランをよくぞ見つけてきたなという映画で見所はラウラ・ガランの一挙手一投足のみといってよいという意味でこれはアイドル映画なのかもしれない。素晴らしい贅肉をつけているのだこのラウラ・ガランという人は。こんな贅肉いままでに他の映画で観たことないと雑に断言してしまいたいほどの贅肉を持つ巨体系女子であり、単に太っているだけの人ならアメリカ映画中心によく出てくるわけだが、ラウラ・ガランの場合はバランスが特殊。太った人、という感じではなく、いや太ってはいるのだが、かなり太ってはいるのだが、なんというか標準体型かつ肉を削げば美形の人に無理矢理肉をくっつけた感じなのですな。ストレスによる暴飲暴食できわめて短期間に急激に太っちゃったみたいな。

たとえばホンジャマカの石塚さんみたいのは「太った人」なんですよ。全身まんべんなく太っているし顔も太った顔をしてるからバランスが取れているじゃないですか。太った顔ってなんだよの問いはひとまず置いておきつつそこはみなさんのコモンセンスに頼るとしてだ、ラウラ・ガランはそういう太った人ではないのです。とくにお腹周りが本当に贅肉。これ掃除機みたいのできゅいーんて吸い取っちゃいたいなぁと思わせる贅肉。太った人として完成されてないんですよね。完成されたデブは美しいかどうかは各々の審美眼によるとしてもこの脂肪邪魔だなって思わせないじゃないですか、これはこの太り体がこの人の完成形なんだなって感じしますよね。でもラウラ・ガランは違うわけですよ。

それが重要なのはこの人が太り体に強烈なコンプレックスを持っているからで、太り体かつ肉屋の娘というポジションにあるこの人は同級生なんかからそりゃもう毎日毎日からかわれてメンタルダメージぐさぐさなのですが、これが完成された太り体ならばそこに居たたまれない痛みは生じません。太っていたっていいじゃないか、これがこの人の完成形なんだからそれはからかうお前らが悪いよ! って感じでこう、観てる方はなんかスッキリしてしまうじゃないですか。ところがラウラ・ガランはかなり太っているにも関わらず完成された太り体ではないし、本人もできることなら痩せたいと思っているように見える、で実際この人が痩せたらきっと美形だろうと思わせるものだから、太っていたっていいじゃないか、これがこの人の完成形! と言うのも逆に無神経な発言になりそうでちょっと憚られますわな。

そんなわけで観ているこちらとしてはラウラ・ガランの太り体およびそれがからかいの対象となることについてどう捉えたらよいかわからなくなってしまい(そりゃまぁからかいがよい行為とは思わないが)居たたまれない痛みが残る。この居たたまれなさというのが『ピギー』という作品の核なのだろうな。序盤はとにかくいじめられて怯えてばかりのラウラ・ガランだが殺人鬼による同級生拉致現場を目撃して以降は良心と復讐心の板挟みで悩み続けてというわけで最初から最後の方までずっと居たたまれない。配給はリベンジ・ホラーを銘打っているがいじめられっ子がいじめっ子をぶっ殺してもしくはぶっ殺してもらってやったぜイェイ! …みたいなテンションの映画では全然ない。どちらかといえばジャック・ケッチャムの残酷青春物語のような居心地の悪さばかりを感じさせる映画じゃないだろうか。

ポスターになっているおそらくは痩せていた時のサイズそのままの水着を身につけたラウラ・ガランのぱつんぱつんだが決してだらしなく垂れているわけではない巨乳と贅肉により某とにかく明るい安村ばりの「履いてますよ!」状態になってしまった下腹部のコンボは相当オリジナルなエロティシズムを放ち、殺人鬼との交流と対決を通して完成されていない太った人から完成された太った人へと変貌していく姿には爽快感というと違うのだがなにやら独特のカタルシスがあり…というわけでラウラ・ガランを観ている分には面白いのだが、これは勝手にそう思ってたこっちも悪いが、どうも作ってる人はこの映画をホラーとしてはあまり作っていないようなので、いじめっ子ばかりを殺してくれる優しい殺人鬼を目撃したいじめられ少女というオモシロ設定が存外ツイステッドな展開を生まず、演出もホラー映画というよりはカンヌ映画祭でよく賞を獲りがちな社会派ヒューマンドラマ×サスペンスっぽい。クリスティアン・ムンジウとかジャック・オーディアールとか。

早い話がだいぶ真面目でわりと眠い映画だったので寝ました。クリスティアン・ムンジウもジャック・オーディアールも好きな監督だが俺いじめっ子がザクザク血を吐いて死んでく楽しい映画だと思ってこれ観に行ったからな。それはやっぱ違うじゃん、違ってくるじゃないの映画の受け取り方というのも。まぁだからこれから観に行く人はこれは血みどろホラーじゃなくていささか気迫がなく淡泊なジャック・オーディアールの映画なんだと思った方がよいです。そうやって観るとね、まぁオーディアールの映画にも社会の除け者同士の愛なき愛みたいなのがよく出てきますし、シリアルキラーと未完成太り系女子の異形の愛と屈折した青春を描いた映画として面白く観られるんじゃないだろうか。

ただしシリアルキラーがなんか男前な感じなのはどうかと思う。あれはやっぱ顔を一目見ただけで人生が終わっていることが哀しいかなわかってしまう汚いオッサンであって欲しかったよな。キモくて殺人鬼だけどいじめっ子を殺してくれるやさしい狂ったオッサンの方がなんというか切実感出るでしょう、なんというか。

※あとラウラ・ガランの両親役のふたりの無知で鈍感だが悪い人ではなくかといって良い人でもないみたいな下町貧乏家庭の庶民感すごいリアルでよかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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相当ちょっとだけなのだが『ハイテンション』にも似てる気がした。『ピギー』の方は全然血の出る映画ではないのだが。

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