石橋義正帰還?映画『唄う六人の女』感想文

《推定睡眠時間:55分》

『オー!マイキー』の石橋義正久しぶりの監督作だなとそれだけ頭に入れて観に行ったものだからエンドロールの頭に製作でYouTuberはじめしゃちょーの名前が出てきて思わぬ取り合わせにほえーとなる。はじめしゃちょー映画なんか作ってたのか。というかじゃあこれは一種のYouTuber映画なのだろうか。といってもはじめしゃちょーは完全なる裏方であり出演はしていないし映画の内容的にもYouTuberっぽい感じはないのだが。

さて1996年の作にしてモノクロという捻くれっぷりだった不条理映画『狂わせたいの』が長編映画デビュー作である石橋義正といえばいかにも90年代感覚のシュールギャグを得意とする人であった。なにそれという状況を大真面目に演じる人たちとそこに紛れ込んだ普通の人のギャップで笑わせるみたいな。ちょっと押井守のコメディ系の実写映画なんか世界観が近いんじゃないだろうか。『紅い眼鏡』とかさ。

予告編を見ればこれも確かにそんな感じの映画っぽかった。山奥に住む正体不明の女たちと彼女らに囚われた二人の男。女たちの行動は突飛でなんだかよくわからず、それが理解できないものに触れるときの恐怖を感じさせつつもどこか痙攣的な笑いを誘発したりもする。とりあえず予告編ではそのような映画と見えた。

しかしながら。いや、たしかにそのような映画でもあったのだが、写真家の竹野内豊と開発業者の山田孝之が山道で衝突事故を起こして目が覚めたら一言も喋らない謎の女たちに囚われ奇怪な拷問(?)を受けるというそのへん不条理とエロティシズムとサディズムとマゾヒズムの入り交じるなかなか魅惑的なそこだけ切り取ればちょっとした『極道恐怖大劇場 牛頭』か? という展開を見せる映画なのだが、それはわりと中盤ぐらいで終わってしまって、以降とっても腑に落ちる感じの…なんというか教育絵本のようなというか…メッセージ性の強い素直で真面目な映画になってしまって…そのメッセージというのは自然保護であったからうんうんその通りだなとは思いつつ…せっかく最初の方はわけがわからず不気味な感じで面白かったのにそんなお行儀の良い着地をしてしまうのかーとちょっとガッカリしたのは隠せない。

ロケは奈良だそうです。奈良といえば日本の霊場。そして河瀬直美の本拠地。河瀬直美のスピリチュアル・エコロジーを石橋義正やはじめしゃちょーも吸い込んでしまったのだろうか。スピリチュアル度数高めの自然映像は美しく眠気を誘うものだったので悪いものではなかったが。悪い映画ではないそう悪い映画ではないのです。しかしどうもやはりこぢんまりとオチちゃったような気がするなぁ。もっとめちゃくちゃやってもいい気がするんですが。めちゃくちゃやった『ミロクローゼ』以降10年も映画撮ってなかったわけだから石橋義正も何か思うところがあったのかもしれないが…。

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不条理コント集みたいな感じなのだがガハガハ笑える映画というよりはその空気感を楽しむ映画。

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