《推定睡眠時間:60分》
むかし『悪魔の入浴・死霊の行水』というおどろおどろしいはずなのに微妙に間の抜けたタイトルの映画があったから『デビルズ・バス』イコール「悪魔のお風呂」と脳内で短絡を起こし同じ題材の映画かなと思ったらとくに関係はないっぽかったが、しかしあえて言えば最終的にみんなで血を浴びる場面があるというのは処女の生き血を浴びて若返ろうとする貴族が出てくる『悪魔の入浴』と通じるところかもしれなくもない。あと「悪魔の」とタイトルに付いているが別に悪魔は登場しないのも共通項といえば共通項であろう。そんなものを探して何になるのか。もちろん、何にもならない。
ということでいったい悪魔のお風呂とはなんなのかという話だが寝ていたのでよくわからない。舞台は18世紀ヨーロッパのド田舎、映画が始まってすぐにふくよかなお母さんが赤ちゃんを滝に投げ捨ててぶっ殺すという不穏な場面があるがそのお母さんが村へ帰る移動場面をゆったりと長回しなんかで撮るもんだからついつい眠く…って寝るのが早いよ! せめてもう少しがんばれなかったの!? まぁがんばれなかったね。がんばるために映画観に行ってないし。映画を観ながらゆったり眠れたらそれもいい体験じゃないが俺のスタンスであるからしてであるが、そうは言ってももう寝る映画を選べと自分で自分に言いたくなるところだ。
ましかし大部分寝ていたとしてもこれが愉快な映画ではないことは主人公の若妻(さっきのお母さんとは別)がなにやら精神的に参ってしまいどんどん奇行に走っていく展開から明白だ。どうして主人公はこんなおかしくなってしまったのだろう。わからんがでもまぁ田舎だしな。きっと神代辰巳版『地獄』みたいな嫌体験がたくさんあったのだろう。オカルトとかではなくフォークホラーという感じでもなく田舎嫌映画である。似た趣向の映画でいえば最近は『ナイトサイレン 呪縛』というのもありましたわね(似た趣向かどうかは寝てたからわからないのだが)
それは良いのだが登場人物が誰一人として18世紀ヨーロッパ田舎の貧乏人に見えないのはだいぶ納得がいかなかった。あまりに見た目が小綺麗すぎるのである。そりゃ現代の役者が演じている以上は300年前の田舎野蛮人のオーラを再現しようとしても限界はあるだろうが、完全再現は不可能でも服なり肌なりを汚すとか本業役者じゃないそこらへんのイモっぽい人を捕まえてきてせめて脇役はそれで固めるぐらいのことはできようものだが、それをしない。単に作ってる人たちにやる気がなかったのかそれとも「昔の話と見えて実は現代にも通じる話なんですよね~」とでも言うためにあえて現代人にしか見えない風貌のままにしているのかは不明だし、そのどっちかで評価も変わってくるのだが、とはいえね、仮にこれが意図的な汚さなさだとしても俺こういうの嫌いですね。
ジュリー・テイモアの『タイタス』ぐらいの過去と現代の入り混じる前衛劇ならまだしも、この「悪魔のお風呂」はそうした実験性のない少なくともストーリー的には昔話なのだから、それはちゃんと昔話らしく世界を作り込んでいただきたいと思う。そういう映画的な充実あってこその「昔の話と見えて実は現代にも通じる話なんですよね~」であって、映画的な充実よりも作り手が伝えたいメッセージを優先してしまうんだったらわざわざ映画にしないでツイッターとかに投稿でもすればいいんじゃないかと思う。
ゆーて最後の公開流血処刑シーンは『残酷!女刑罰史』みたいで面白かったし哀れな斬首死体を田舎の野蛮農民どもが囲んで血を浴びながらキャッキャとはしゃいでお祭り騒ぎ(これが「悪魔のお風呂」か?)という情の無さには好感を持ちましたけどね。子どもが死ぬ場面も急に容赦なく死ぬから良い。しかしその酷薄さを子どもどもに向けるなら、きっちり主人公にも向けてほしい気もする。18世紀ヨーロッパのド田舎なんか急速に近代化する世の中のしわ寄せを受けて(そして恩恵はとくに受けられず)たいていの人が苦しい生活を送っていたと思うので、ただ主人公だけには例外的に同情させようとする露骨な視点誘導は、どうもフェアではないように感じるのだ。
タイトルの「悪魔の風呂」(The devil’s bath)は、鬱状態を示す言葉ですね。
当時は鬱が精神病ではく一種の悪魔憑きとして扱われていて、鬱に陥っていることを「悪魔の風呂に入っている」と言ったそうです。
ストレートなタイトル通り、本編も鬱病+宗教的理由から自死できないの辛さを素直に描いていたので、日本での因習ホラーっぽい売り方はずれてましたね
そういう意味でしたか!なるほど、悪魔の汁(?)にどっぷり浸かっている状態と考えれば、鬱状態を示すになかなか言い得て妙な言葉ですねぇ。
おっしゃるようにこの映画、村系ホラーとして売るのは違うんじゃないかと思うんですが、アメリカでもホラー映画配信サイトのsudder配信スルーとなったみたいで、鬱の映画といっても客は入らないでしょうし、ホラーとして売るしかなかったのかもしれません