異文化交流バカンス映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』感想文

《推定睡眠時間:0分》

知的障害者の集団に邪な目的で悪い健常者が紛れ込んで交流するうちに悪い健常者がだんだんと変わっていく……なんていうのは一昔前のアメリカ映画ならありふれたもので(たとえばファレリー兄弟の『リンガー! 替え玉★選手権』とか)、そもそもアメリカの娯楽映画では異文化交流がひとつの黄金パターン、まったく性格や境遇の異なる二人が行動を共にするうちにすこしずつ相手を理解したり改心したりなんかするアメリカ娯楽映画の傑作というのは『手錠のまゝの脱獄』やら『大災難 P.T.A.』やら枚挙に暇が無いくらいだが、思えば2010年代に入ってからだろうか、そんな大らかで懐の広いアメリカ娯楽映画はすっかり見なくなってしまったなー。

今やアメリカ映画の話題作といったら『エディントンへようこそ』とか『ワン・バトル・アフター・アナザー』とか『シビル・ウォー アメリカ最後の日』とか政治的であったり人種的であったり性別的であったりする様々な分断を自明としつつ、それを解決するのは不可能だから嫌いな奴は殺すしかないねみたいな映画ばかりになってしまった。嫌いな奴は殺して仲の良い人たちだけで楽しく暮らそうという発想は野蛮というほかないと俺は思うのだが、こうした考え方が今のアメリカでは右派だけではなく(上に挙げた映画がいずれもそうした傾向性を持つ監督に撮られているように)左派にも支持されているのが現代アメリカの倫理的崩壊っぷりなわけで、とそんな愚痴を言い始めたら8万字書けるのでそれはまぁいいとして、ともかく、今や異文化交流ものの娯楽映画をよく撮る国といったらフランスだ、たとえば『人生、ここにあり!』……と書こうとしたらそれはイタリア映画だったのだが(しかしハートに響く秀作)、オールゲイの水球チームを題材にした『シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち』とか少し前にちょっとしたプチブームになったフィリップ・ラショーの『世界の果てまでヒャッハー!』とかはフランス異文化交流コメディの佳作だろう。てかなんでこういう映画は邦題に感嘆符が付きがちなの?

とそんなわけでこのフランス映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』(やっぱり感嘆符!)もそんな一本、警察の目から逃れるためにたまたま通りかかった知的障害者のサマーキャンプに潜り込んだ強盗父子がメンバーたちと交流を重ねる中でうんぬんというまぁ言ってしまえばいつものアレ的な映画である。いつものアレだから安定して面白い。粘土で飾りを作ろうレクリエーションでメンバーの一人が鍵十字を作って主人公「おいおい何のつもりだよ……」メンバー「風車を作った!」とか、主人公がニセモノの知的障害者であることを察したメンバーが支援員にバレないようにホンモノの知的障害者っぽく見える仕草を伝授してやるとか、実にいつものアレ的なブラックユーモア満載、この大らかとも無神経とも言える作りは現代のアメリカ映画ではもうまったく出来なくなってしまったわけだが(まだ言うか)、誰も不幸になってないし誰も排除してないのだからこれでいいじゃないか、すべての無神経を抹消しようとする厳しい世界よりもある程度の無神経は許容するゆるい世界の方が明らかに知的障害者の人たちにとっては生きやすいだろうし、ということで俺は大いに楽しんだ。

サマーキャンプのメンバーを演じるのはプロ役者ではなく知的障害持ちのアマチュアの人(一部プロも混ざってるかもしれない)ということでせっかく出てもらってるんだしとそれぞれの見せ場をちゃんと作るのも良い。それぞれの見せ場を優先するので脇道に逸れてばかりとも言えるが、脇道に逸れることが映画の豊かさなんじゃないだろうかと俺は思う。最近のアメリカ映画なんかは……それはもういいよ! までも最近はほら作り手だけじゃなくて観客の方も「無駄」を排除した映画が良い映画だなんて思い込んでるもんでさ、作品にある脇道とか余白とかノイズみたいなものを楽しめなくなっているようにネットでいろんな映画の感想を見ると感じるわけさ。そういう合理主義的な風潮に対するアンチテーゼでもあるよねこういう映画は。なんであんたら大らかに楽しめないの。なんであんたら完璧を求めるの。もっと肩の力を抜いたらいいじゃないの。コスパだタイパだなんだというが、「無駄」を敵視するその合理主義思考は本当はあんた自身を苦しめてるんじゃないの?

てな具合にこれはみなさんの脳みそをもみもみしてほぐす映画と言えるのではないだろーか。サマーキャンプが舞台とあってうららかな陽光の照らすフランス田舎がバカンス映画のムードも醸してそれもまたヨシ、笑えてデトックスして最後はホロリの佳き異文化交流映画である。そして最後に書くべきは、快活で頼れる支援員さんを演じたアリス・ベライディ、かなりだいすき。

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