《推定睡眠時間:45分》
『X エックス』は面白くない映画だったと今でもたまに思い出す。Xといっても某TwitterではなくX指定=成人映画のことで、時はたしか1970年代、ポルノ映画の撮影隊がテキサスかカンザスの農場を借りたらそこの農場主夫妻が殺人鬼だったので主演女優ミア・ゴス一人を除いて全員殺されるというお話なのだが、うまい棒がおいしいというのと同じ意味でとても面白そうなこの映画が面白くない。グラインドハウス・エフェクトを施して70年代風にした擬古調の映像スタイルがスベっているというのもあるが、たかだか低俗スラッシャー映画のくせになぜだか妙に高級ぶっており、テーマなりストーリーなりをわざわざ見せようとしてしまい、そしてそのためにスラッシャー映画のノリとかテンポとかバカバカしさといった楽しさがほとんど失われていたためであった。
擬古調を採用してまで70~80年代低俗スラッシャーの風味を出そうとしているのにスラッシャー映画のあのチープな味わいを再現できていないというのはぶっちゃけ意味がわからないので監督のタイ・ウェストはたぶんホラー映画を面白く撮る才能はないんだろうなとか思っていたらこの映画が当時基準でA24史上最大のヒットを飛ばしてしまい、『Pearl パール』『MaXXXine マキシーン』の2本の続編が作られて三部作となってしまった。まぁスラッシャー映画は無駄に続編作るからなとそれは理解できるが理解できないのはこの2本の続編はスラッシャー映画ではなく、じゃあなんなのかといえば、女優に憧れる3世代の女の人をミア・ゴスが一人三役で演じ、それぞれの時代で遭遇する不幸や試練をホラーとして描いたものだということであった。
いや、意図はわかるよ。意図はわかるけど……それわざわざ三部作トータル5時間とかかけてやるほどのものですか? というのが理解できないし、『Pearl パール』も『MaXXXine マキシーン』も別に悪い映画ではなく面白い映画ではあったけれども、その面白さというのはこのシリーズが標榜する低俗ホラーの面白さではなく、もっと高級な面白さだったので、なんですかね、駄菓子屋さんの看板があったからうまい棒とかブタ麺とかにんじんパフとか食べようと思って入ったら中に並んでいたのは創作フレンチだったしその創作フレンチは見た目はうまそうなんだけど実際に食べてみると見た目ほどはおいしくなかったみたいなそういうズレをかなり感じたというわけで、そうなるとおめーの芸術的ビジョンのために低俗ホラーをダシに使うなやとちょっとムカついてくる。そんなわけで、俺の中でタイ・ウェストはあんまり信頼できない監督のフォルダに収納されることになったのであった。
その監督の初期作をなんで自分から観に行くんですかね。そうだね、それは謎だよね。人間って不思議だと思う。『ハウス・オブ・ザ・デビル』はタイ・ウェストの3本目の長編映画。2009年公開でこの年にはもう一つの監督作『キャビン・フィーバー2』も公開されてるから、このへんでタイ・ウェストは新鋭ホラー映画監督として認められたんだろう。その内容はと言えば女子大生がベビー・シッターのバイトで入った屋敷が悪魔崇拝者のうんたらかんたらというまぁいつものアレなのだが、特徴的なのはこの時点で既にグラインドハウス・エフェクトによる擬古調スタイルを採用している点だろう。物語の時代設定は1980年代のどこかなのでそれに併せて画面を80年代っぽくしているわけで、たしかにかなり80年代っぽく見えるし、言葉で説明しにくいがエンドロールも80年代映画風という拘りっぷりである。
だからなんなのだ。だからなんなのだよ! 80年代再現にとても力を入れているのはわかるが、80年代を再現したら映画が面白くなるのかといったらそんなわけないだろう。そんなわけないのにここでも『X』と同じくホラー映画としてどう面白くするかは二の次三の次で、暗闇の中で腕時計を何度も見たのである程度自信を持って言えるが画面に怖いものが出てくるまで1時間弱もかかっていたと思う。怖いものを出すための前振りで1時間……いや、まぁ、それはそれで80年代低予算映画っぽいと言えなくもないのかもしれないが、でも80年代低予算ホラーの前振りは本当に前振りでしかなかったわけで、殺人シーンとかは撮影が複雑だしお金もかかるからなるべくそういうシーンは温存しておきたい……という身もフタもない貧乏な理由によって作られたものであったから、これもまた言葉にしにくいが画面から見え隠れする大人の事情がやはり駄菓子的な味わいを意図せずして生み出したりしていたものであった。
翻って『ハウス・オブ・ザ・デビル』の前振りはどうかというと大して面白くもないストーリーを語るための前振りなわけで、つまりちゃんとした前振りなのである。伝わっているだろうか。あまり伝わっている気はしないな。ちゃんとした前振りの方が経済的理由による雑な前振りよりも良いに決まってるじゃんかと現代っ子ならば思うのかもしれないが……まぁ伝わらないなら伝わらないでいいけど、俺としてははい面白くありませんでした。真面目過ぎだよこれは真面目過ぎ。タイ・ウェスト真面目過ぎ! いや真面目っていうか見た目だけ重視し過ぎっていうか、映像とかムードはしっかり作り込まれてるけど映画の内容が面白くないっていうか。そのくせ作り込みのガバガバな80年代低俗ホラーに擬態しようとするから変なことになってしまうのではないだろうか。世間的にはこの80年代擬態がオシャレなものとして受け入れられているのかもしれないが……。