砂漠でひとりぼっち映画『ALONE/アローン』の感想

《推定睡眠時間:5分》

二人の兵士と見えざる敵、一人は死んで(または死に体で)残る一人は動けない。砂漠こそアメリカとはジャン・ボードリヤールの弁。死と背中合わせの砂漠の中でアメリカ兵は自問自答。俺はいったいなにものか。

似たようなシチュエーションの砂漠一人芝居ムービーだった昨年の『ザ・ウォール』はかなりのハードコア仕様でこれはすげぇ、あのセレブ臭がぶわぁっさぁとしている業界人監督ダグ・リーマンがこんなインディーズ実験映画みたいのスクリーンにぶん投げてくるとかすげぇしシネコンに回した配給の英断もすげぇ、すげぇけどマジで全然おもしろくねぇやべぇ、みたいな感じだったんですがアーミー・ハマーの砂漠一人芝居はもっともっと遙かに見やすくておもしろいし幻覚の中で結構いろんな人が出てくるので実質的にアローンな一人芝居ではなかった。

一般的な商業映画の枠組みで(ジョン・シナが出ているぞ!)劇伴ほぼない、回想とか舞台の変化もほぼない、風景の変化もない、ドラマティックな出来事もさして起こらない、従ってたいへん眠くなるしまた実際に1時間ぐらい寝た高純度の抽象映画が『ザ・ウォール』であったからそれに比べれば『ダイ・ハード』ばりの一大スペクタクルだ『ALONE/アローン』は。
物語が幕を開けてすぐにドキドキ状況。テロ関係の要人暗殺の任に当たる凄腕の狙撃手アーミー・ハマーと観測手のトム・カレンが砂漠を見渡す切り立った崖の上に身を潜めてターゲットの到着待ち。

果たしてテロリストっぽい人はいかにもテロリストっぽい武装ボディガードを伴ってやってくるのだった。一方、その反対側からも厳かな空気を漂わせながら何者かがやってくる。
これは明らかにテロ会談的なやつ! 無線が狙撃命令を下す。今だ、殺れ。ところが、なぜか、どうしたわけか、アミハマは躊躇ってしまう。

そうこうしているうちにテロリストっぽい人のテロリストっぽい護衛に気付かれて銃撃戦、からの逃走そして地雷原突入、とこういう展開になるので砂漠一人芝居もののネガティブイメージを払拭する快調な出だし。
詳しいことはわからないが気が付いたら狙撃手に狙われて身動き取れなくなってましたぐらいなスカし加減の『ザ・ウォール』なんぞとは全然違いましたよね感情の揺さぶられ度が。

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でこのアミハマが命令を拒否った理由。距離が遠すぎてターゲットと同定できないと言うが絵的にはスコープを通してガッツリとテロリストっぽい人の顔が映っているので詭弁も甚だしいのですが(テロリストっぽい人がリアルにテロリストかどうかは物語の中では明らかにされないが)、その皮相が砂漠サバイバルチャレンジの中でベリベリ剥かれていって段々と撃てなかった本当の理由が見えてきてしまう。

やぁよくできたお話ですね。あのテロリストっぽい人たち最初にちょっと出てきただけですぐ退場しちゃったから『ザ・ウォール』が大胆に取っ払った観客サービス要員(だってテロリストっぽい人たちが出てきた方が盛り上がるだろう映画として…)でしかないんだろうと思っていたがどっこいストレートなストーリー要員でしたよ。
アミハマは何を撃とうとして何を撃てなかったのかみたいなそういう。ただ後半はアミハマの心象風景が地雷の周囲に(文字通りに)築かれるので撃つ撃てない問題は後景に退いて砂に埋もれてしまうんですけど。

まだ『君の名前で僕を呼んで』の記憶も生々しく残っているので砂漠の過酷に喘ぐアミハマがなまめかしい。それは見る側の事情だとしてもしかし、マゾい。
この人は心身ともに傷つく己のイメージに酔えるタイプの人なのではないすかね。そのようなかおりがある。そのようなかおりが男臭濃い砂漠サバイバルチャレンジをフェミニンなメロドラマに中和するのでわりと、こういう設定ではあるけれども『ザ・ウォール』とはまた別の意味でソリッドシチュエーション的な面白さあんま無し。

そう来るか、とも思うがそう来てしまったか、と思わないこともない。最後の方なんかメロ感が過剰で少女漫画的な…との形容が適切かは少女漫画は川原泉ぐらいしか読まないのでわかりませんがぶわぁっと溢れるエモーションが砂漠を雨の降りしきるインナーユニバースに変えてしまうのでうぅむ、おもしろいけれど、おもしろいけれども胸焼けが。
アミハマの激エモいセルフ被虐は本人が製作総指揮に名を連ねてるくらいだからこんな俺を見てくれ的なプレイの可能性あるなこれ。可能性もなにも演技だからプレイなのですが。

機能主義的なシナリオはあれもこれも悩めるアミハマに奉仕する記号の体系に押し込めてしまうので最終的にはとにかくアミハマに萌える映画の観、典型的な「賢い現地人」などアミハマにとって都合が良すぎやしないかと鼻白むところもあるがじゃあですよ、じゃあAVで女優をエロく見せるために記号的キャラクターを演じる男優に文句を言う奴がいるのかとそういう話でしょうよ。そういう映画だと思いましたよ俺は。

【ママー!これ買ってー!】


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上ではクソミソ言ってますが異様にギラついていて実はめちゃくちゃ嫌いじゃないのである。好きとは言わないが『アローン』より好印象なぐらいめちゃくちゃ嫌いじゃないのである。おもしろくはないと思う。

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