甘くて痛いゴス・ノワール映画『ザ・クロウ』(2024) 感想文

《推定睡眠時間:20分》

『クロウ』といえばアレックス・プロヤス監督×主演ブランドン・リーのバージョンが撮影中の事故でブランドン死亡というエピソードのためにある種神格化されてしまっているきらいがあるが、元々はコミックらしく続編とかリメイクとかたしか5本ぐらい出てたんじゃないだろうか、というまぁそういうシリーズなので、何度目の映画化作品かわからないこの『ザ・クロウ』をプロヤス×リーの『クロウ 飛翔伝説』と比べたりする必要はたぶんないだろう。『クロウ 飛翔伝説』はおそらくアメコミ映画が『ダークナイト』のようなリアル路線に飛翔する最初の一歩となった記念碑的作品ではあるとしても(それ以前の1989年に公開されたドルフ・ラングレン版の『パニッシャー』も忘れてはいけないが)、それは別に『ザ・クロウ』とはなんの関係もない話なのである。といいつつ、『ザ・クロウ』はポストパンク楽曲の多用など結構『クロウ 飛翔伝説』を参照しているところがあるのだが(『クロウ 飛翔伝説』といえばブランドン・リーがカラスに導かれて復讐の旅路に出るシーンで流れるナイン・インチ・ネイルズのジョイ・ディヴィジョン「デッド・ソウルズ」カバーである。このシーン超最高大好き)

さてさて『クロウ』とはいったいなにか。ここで衝撃の事実であるが、俺はよく知らない。たぶんアメコミだと思うが日本には入ってきてないんじゃないの。『クロウ 飛翔伝説』がMCUブームの時に作られた映画だったら原作コミックも翻訳されて書店にならんだかもしれないけどその20年くらい前だからなー『クロウ 飛翔伝説』が公開されたのー。原作を知らないので俺の知っている範囲のコンテンツで説明するとこれはだいたい『真・女神転生 デビルサマナー』である。『デビルサマナー』はなにやらオカルト的な目論見に巻き込まれて死んだ凡人主人公が三途の川で渡し守のカロンと出会い、葛葉キョウジなる悪魔召喚師の死体に入って現世へ戻り、いろいろあって恋人をさらったオカルト的な悪者と戦うというアトラスがまだマニア向けのゲームメーカーだった頃にマイナーゲームであるが(ネットのみんなが大好きなライドウのシリーズ一作目なんだぞ!)、これなんか当時のアトラスは岡田・金子体制だからこの二人が『クロウ 飛翔伝説』を観ていないはずがなく、そして嫌いなはずもなく、たぶん『クロウ 飛翔伝説』が松田優作のテレビドラマの方の『探偵物語』なんかと並んでこのゲームの元ネタの一つになってるんじゃないだろうか……って全然『ザ・クロウ』の話をしない!

まぁだからとにかくそういう感じなのが『クロウ』シリーズ、でこの『ザ・クロウ』は悪いヤツの悪いことを目撃してしまったがために悪いヤツに殺されてしまった恋人の仇を討つべく三途の川ならぬ三途のプラットフォームから現世にリターンしてきた元ひとりぼっちヤンキーの超人主人公が悪いヤツを殺しに行くお話。超人といってもこの主人公はとくに攻撃スキルを持っているわけではない、というのがポイント。『ザ・クロウ 飛翔伝説』はブランドン・リーが身体能力の高い人というのもあってクロウもちゃんと強かったと思うのだが、こちらのクロウの所持するスキルは「死なない」というただそれだけであった。カタナで斬られても銃で撃たれても死なない! 一見とても強い能力のようだが、あくまでも死なないだけであって痛みなどは普通に食らってしまうため、死なないというよりも死ねないに近く、何をされても死ねないクロウが恋人を殺した裏社会の悪党どもに立ち向かっては被弾し悲鳴、立ち向かっては被弾し悲鳴、というその光景はスーパーヒーローとは程遠い。『幽遊白書』の最終巻とかにそういう回があったが死なないことを敵に利用されて拷問部屋になど閉じ込められたら地獄であるし、必ずしもメリット能力とは言えないだろう。

その死ねないクロウが痛みに悶絶しながら時に一歩一歩悪党に迫っていく過程ははっきりいってアクション的なカタルシスとか全然なく、ゴア描写もなかなか本格的とあって痛ましいだけである。だがそれがいい。恋人を死なせてしまって自責の念に囚われた男の冥府魔道は演じるビル・スカルスガルドのいかにも不健康そうな見た目も作用して実にメロくエモいのだ。その暗く甘い世界観は石井隆の『GONIN』なんかとも通じるところがあり、ゴス・ノワールとかネオ・ノワールとか、とにかくなにかしらの冠を付けたノワールと呼ぶのがたぶん適切なレッテルだろう。監督はルパート・サンダースだが、思えばこの人が監督したハリウッド版の『ゴースト・イン・ザ・シェル』もノワール感が比較的強いものだった(これも好きな映画だった)

面白かったけどただフランチャイズ展開的なものを狙っているためかエピソード0感がこれまた『ゴースト・イン・ザ・シェル』同様かなり強く、クロウと恋人シェリー(FKAツイッグス)の馴れ初めパートはやたらと長く、クロウが復讐の冥府魔道に入るまでもやたらと長いので、そんなもんちゃっちゃとやっちゃえよとかは思ってしまった。散々焦らされた先にあるのは超絶アクションとかではなく結構地味なノワール的決着なので、そのへんももうちょっと盛り上がっていただいても……とか。でもまぁ、ノワールのムードを楽しむ映画と思えば、三途のプラットフォームの廃墟美術は美しいし、クロウの被虐っぷりにもグッと来る、なかなかよい映画だったんじゃないかとおもいます。そうだな後はやっぱりもう少し『クロウ 飛翔伝説』みたいにアイコニックなシーンやショットがあってもよかったかもしれない……比べる必要はないと自分で言っただろ!

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