衝撃の暴力恋愛映画『きみの瞳が問いかけている』感想文(オチバレないが多少ネタバレあり)

《推定睡眠時間:0分》

キラキラを浴びたいのに映画館でやってない。最近はもう予告編はおろかポスターすら見ず(っていうか映画館に貼ってない)タイトルの語感からキラキラ映画と判断し観に行くようになってしまったが、ゆーてもこの映画に関しては一応フィルマークスであらすじの一行目だけ読んでおり、書き始めの「不慮の事故で視力と家族を失った」で(キラキラだ…)、キャスト欄の「横浜流星」で(キラキラだ…!)、もう間違いないだろうと思われたが、その横浜流星くん演じるなにやらワケアリ感漂う寡黙な主人公がビール配達をするオープニングがやたらとやさぐれており、dekadekaと画面に映り込むソープランドの看板などを見るにどうも怪しい。

これは本当にキラキラ映画なのだろうか。まだ横浜流星くんの役が実は家庭の事情でドロップアウト&家出した高校生でたまたま出会った健気かつ真面目に生きる盲目の女性・吉高由里子との交流を通じて復学を目指すなどのキラキラ20難病40純愛40ぐらいの比率での混成キラキラ映画が期待できないこともこの時点ではなくもなかったが、その願望は横浜流星くんは元地下格闘技のファイターでありながら地下格闘技パトロンでもある半グレ組織の末端として振り込め詐欺に加担させられておりそのかどで懲役3年の実刑を食らうと同時に罪には問われなかったものの半ば自分の責任で人を死に追いやったことで重い十字架をその青すぎる背中に背負い込んだカトリック系孤児院出身で母親には無理心中された過去を持つチャンピオンの将来を嘱望された天才キックボクサーとかいう驚愕設定が開始40分くらい経って明かされるや弾道ミサイル直撃クラスの衝撃と共に防弾効果もむなしく粉々に砕け散った。

なんだそれは! まるで韓国映画じゃないか! コリァ驚いた! コリァ驚きましたよあなた、吉高由里子だって盲目の弱みにつけ込んだ勤め先のストーカー上司に自宅でぶん殴られながら強姦されそうになりますし、その場に駆けつけた怒りの横浜流星くんによってbokkiした上司ボッキリ指折られてましたからね。「次は、殺す」。どう考えても完璧にキラキラ映画ではなく韓国恋愛ノワール。

いやぁ、パクリとはいえ日本でもついにこれぐらい濃い内容のメジャー恋愛映画が作られるようになったんだなぁ。韓国映画的なコクには欠くがこれだって決して悪くない、こんなメジャー映画が当たり前のように作られるようになれば邦画の未来も明るいだろう。やっぱね最初はモノマネですよモノマネ。沁みた! 痺れた! 泣けた! 惚れた! これだーッ! って思ったらメモれコピれメイクマネーですよ。そうやって文化は育っていくんだね~しみじみ。でもしみじみしながらエンドロールに入ったら原案が韓国映画『ただ君だけ』になってました。リメイクじゃねぇかそりゃ韓国映画っぽくなるわ。

『見えない目撃者』に続いてまた韓国映画のサイレントリメイクか。メジャー邦画にしては攻めるな~って好感抱くやつがだいたいリメイクとかお前ら企画力がないにも程があるだろ。と言いたくもなるが主題歌はBTSだし9割女の人だった客層からするとあの劇場内で韓国映画のリメイクだということを知らなかったのは俺ぐらいなもので、観に来ていた人の大半は韓国恋愛映画ファンとかだったのかもしれない。『ただ君だけ』が『きみの瞳が問いかけている』に変えられたら普通わかんねぇだろとか思いますが。

韓国映画のオモシロをパクった和製韓国映画として観れば相当ハイレベルな映画に思えたものも、リメイクと知ればリメイクでこれぐらいか~みたいな感じにならないでもないのだから不思議なものだ。いや別に出来は全然悪くないですけれども元があるって知っちゃうとさぁ、このオモシロのほとんどはオリジナル由来だろうしなぁってなるじゃんさぁ。やっぱ韓国映画らしくぐわんぐわん強引にうねるシナリオが面白い映画でしたしね。どの程度そこにリメイク版のオリジナル展開とか設定が付与されてるのか知りませんけど、カトリック系孤児院とか地下格闘技とかたぶんオリジナルの要素をそのまま引き継いでるので…推して知るべしというか。

とはいえ何度も繰り返しますが繰り返しますが! 元地下格闘技ファイターで前科持ちの天才キックボクサーが強姦ストーカー上司の元で苦痛を押し殺しながら働いている不遇な盲目の人と不器用かつプラトニックかつ傷だらけでありつつ慎ましい恋愛をしていたところ半グレの卑劣な影が忍び寄り…的なお話が面白くないわけないのでかなり面白かったです。ニオイ等々の盲目ディティールも効いてました。

それに映像も綺麗だった。劇的な照明効果はいかにも韓国映画的。横浜流星くんのファイトシーンだって本格派ですよ。日本映画だからどうせそのへんオリジナルに比べてぬるいんでしょうとか斜に構えてるそこのお前! 横浜流星くんはフルコンタクト空手の黒帯所持者なんだぞ! いや興奮したね。これまでもキラキラ映画の物語上とくに必然性のないような喧嘩シーンでガチの擬斗を披露してきた流星くんだから今回はもう水を得た魚ですよ。ファイトシーンの動きキレてたなー。

まさかそこがちゃんと映画の見所になっているとは思わなかったっていうかそもそもそういう映画だと思ってなかったので…いやだって普通思わないでしょ、これ流星くんの身体能力をフルに生かしたファイトシーンもガチですけどメジャー邦画恋愛映画のくせにちゃんと車横転させてちゃんと生きた人間を燃やしてちゃんとナイフで人を刺したりあと指折ったりとかするもん、ガチなんだもんそういうの、よくあるメジャー恋愛邦画と違って。それは半グレ組織が微妙に幼稚に見えたとしてもサプライズで何割増しかで面白く見えるよ。

やっぱこういうのが面白いんです。主に女の人向けの恋愛映画だからと作り手が勝手に忖度してノンバイオレンスの穏健路線を取るのはもうやめて、これからは『きみの眼が問いかけている』を見習って車があれば横転させてみるとか燃やせそうな人がいたらとりあえず燃やしてみるなどの軽はずみなバイオレンスであるとか主人公の超設定に根ざしたその世界半径何メートルなんだよ的な因果応報の超展開などをガンガン邦画の恋愛映画にも盛り込んでもらいたいものです。

なんか俺が話盛ってるみたいな感じになってますけどそういう映画だから実際。実物はもっとメロメロしてエモいっすけどね。流星くんが本当はその手で吉高由里子の手を握りたいのに汚れた自分の証である手の傷を知られたくないからそっと隠してしまう場面とか…泣けるナァー!!!!!!

【ママー!これ買ってー!】


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オリジナル版で流星くんの役を演じていたのはソ・ジソブらしい。最初、吉高由里子が流星くんをオッサンと勘違いする場面があって、声聴けばもっと若いってわからなくないかとか思ったんですけど、ソ・ジソブなら確かに声が渋いので納得。オリジナル版に準拠した台詞だったんだろう(その他もろもろ翻案に多少無理があるように感じたリメイク版であった)

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