映画の感想:『ヒトラーVS.ピカソ』『ねじれた家』

寝ないで観たのに内容が頭に入ってこなかった映画と観たことをすっかり忘れていた映画の感想を二本立てスタイルでお届け。
ドキュメンタリー『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』とアガサ・クリスティ原作ミステリー『アガサ・クリスティ ねじれた家』です。

『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』

《推定睡眠時間:0分》

10連休終了間際に観てしまったのでまったく映画に身が入らない。ぼく時給労働者。減収分は連休連日ウーバーイーツで爆走して補填するつもりだったが体調悪くして大して走れず。お金どうしよう、あぁ歯が痛いから医者行かなきゃ、でもお金ないなぁ、困った胃も痛いから医者行かなきゃ、でもお金ないなぁ、なんだか全身がだるいし力が入らない、もしかしてガンだったりするんじゃない? いやいやそんな、そんなことはないだろうがでも待てよ、仮に今後ガンになってしまったら今の給与水準で俺どうするんだろう、どうやって生きればいいんだろう、あぁ…映画どころではなかった。

それは100パー俺が悪いが映画の方もキャッチーな邦題に反して取っ付きにくい…というわけでは別にないのだが、軸が定まらない。
『ヒトラーVS.ピカソ』というのは客寄せ用のミスリード題で、副題の『奪われた名画のゆくえ』の方が内容に即している。実際、ピカソなんかロクに出てこないしヒトラーだって主役ではない。

一応の主役は第三帝国によって略奪され散逸した絵画の数々で、その数奇な運命を関係者のインタビューやアーカイブ映像を交えつつ映画は追っていくが、俺が勝手に呼ぶところのナビゲーション映画なのでインタビュー以外には特に映像素材を撮ってるわけではない。新たに判明した驚きの事実! とかそういうのはまったくない(俺は知らないことばかりでしたが)

ナビゲーション映画と書いたが教養番組に近いエッセイ映画というべきかもしれない。教養番組であれば何回かに分けて描かれるような事柄がエッセイ的にひと繋ぎになっているので、さっきまで散逸絵画の話をしていたかと思えば今度は絶滅収容所のイメージ映像が、松明行列や焚書が、というようにわりかし自由に話題が移り変わっていく。

散逸絵画と並んでもう一つの主役となっているのは悪名高い「退廃芸術展」と「大ドイツ芸術展」だったが展示された絵や作家そのものはさほどフィーチャーされず、概要や成立に至った流れを押えるに留まっていたのはう~んといえばう~んなところ。
っていうか根本的な疑問なんですがナチスのプロパガンダはその包括性に一つの特徴があるんだから問題を提起するにせよ啓蒙するにせよナチスが芸術「を」政治に利用した点じゃなくて(そんなのどこでもやってる)芸術「も」政治に利用した点を中心に映画を組み立てた方がよかったんじゃないすかねぇ。

そのへん視座が定まってないっていうか、いや、まぁ、教養エッセイだからこれはこれで別にいいんですけど、面白くなかったわけではないんですけど、でもこの内容なら映画より本で読みたかったなぁみたいなところはあったなぁ。

『アガサ・クリスティ ねじれた家』

《推定睡眠時間:15分》

こっちは連休前に観たのでお金の心配などはまだ頭に入ってきておらず(前もって考えておかないから後で一気に心配事が押し寄せてくるんだ…)寝ているは寝ているが『ヒトピカ』よりも映画に集中できたのだが、映画館を出るや否や観た内容がところてんのように頭から出ていってしまった。

なんだかものすごく消化に良い感じの映画である。今時このおかゆじみたクラシックスタイルはすごい。テイスト的には市川崑の『犬神家の一族』とかあぁいう感じだったんですが『犬神家』にあったケレンを血飛沫や死体も含めて全部抜いて豪奢な不気味お屋敷と癖はあるがそんなにエキセントリックな感じではないわりと普通の金持ち一家を残したようなというか。
ゴージャス版の『湯殿山麓呪い村』みたいなというか…探偵が殺人の起ったお屋敷の住民ひとりひとりに話を聞いていく下りをスカした編集とか演出なく時系列通り淡々と繋げていくあたり、まるでファミコン時代のテキストアドベンチャーをやっているようでもあった。

その余裕っぷりが見所なのかなぁ。確かに雰囲気はよかったですね。マジックアワーの屋敷の不気味さ。とっくに修復不可能な崩壊人間関係。斜陽の名家の幻想にそれでも縋り続ける人々の滑稽と憐れ。タイトルに反して少しもねじれていない作劇は殺人よりもそうしたものを際立たせて、優雅な装いを与えていた。

そういう意味ではわりと舞台劇的なところがある。グレン・クローズ、テレンス・スタンプ、ジリアン・アンダーソン、ジュリアン・サンズ、それからグレン・クローズとは『天才作家の妻 40年目の真実』に続いての共演となるマックス・アイアンズとー、なかなか豪華な顔が揃っているが、淡泊な演出の中で誰が前に出るということもない。
スタァの顔よりも曲者たちのアンサンブルを楽しんでくれってことでしょうね。それもまたクリスティ流フーダニット映画のめちゃくちゃ王道。

肝心のトリックはかなり甘いので俺は原作を読んでいないからそこそこ面白がることができたが既読の人はどうなんだろう。
まぁ殺人とかトリックとかそういうのはあんまり関心のない俳優の芝居を観る映画っていう面が強かったので、あまり変わらないかもしれない。

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ナチスに略奪され戦後オーストリアが所有していたクリムトの名画を取り戻そうとがんばる人たちのお話で、マックス・アイアンズ出演作。クリムト展、めっちゃ混んでるみたいっすね。

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4 Comments
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さるこ
さるこ
2019年5月10日 8:26 PM

こんにちは。
ピカソのあれは、「これはお前の仕事か?」「いいや、お前らの仕事だ!」ってやりとりを大きくしたんですね。
クリムト展、地方巡回もするので楽しみにしてるんですが、映画が来週で終わっちゃう…
ところでピカソのフルネームはご存知ですか?

さるこ
さるこ
Reply to  さわだ
2019年5月11日 3:38 PM

そうそう!寿限無寿限無みたいな。
和訳すると最後は〝ツルハシ便利〟だとか(真偽のほどはさだかでない)。