IoT万能説映画『チャイルド・プレイ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

行きすぎた科学は魔法と区別がつかない。同社製家電ならどれとでも繋がって言葉ひとつでテレビをつけたり電気をつけたりルンバ的なやつを動かしたり予定を管理してくれたり更には配車サービスで全自動AIタクシーを呼んでくれたりするいわばIoT戦略の中核にしてペッパーくんの屍を完璧に越えたスーパー・パーソナル・AIフレンド、それがバディ人形である。

難しいと思われた二足歩行機能も階段の昇降はもちろん一人で車に乗ってどっか行ってまた一人で帰ってくる程度には超ハイレベルで搭載、両手の可動も自由自在でドアの開け閉めはもちろんナイフを手に人間に襲いかかったりするぐらいお茶の子さいさいというオーバースペック。
遊び相手にもお手伝いさんにもなってくれる上に巨大な目玉に仕込まれたスマホ連動監視カメラで外出中の親御さんがお留守番中の子どもの安否を確認できたり、いざという時には警備ロボットの代わりになったりと、とにかくこのバディ人形、定価はいくらだか知らないがめちゃくちゃ超すごいのでめちゃくちゃ不気味な面構えにも関わらず品切れ続出の大人気。

そんな超すごいバディ人形はiPhoneがそうだったように途上国の労働搾取のおかげでアメリカのみんなが手にできているのであった。
ここはベトナムのバディ人形工場。エアコンも休憩も労働法の庇護もない劣悪な労働環境の中で一人の工員が憔悴しきった表情を浮かべていると、粗野な上司が待ってましたとばかりにパワハラをしにやってくる。テメェまた路上に戻りてぇのかコラァ! 死ぬまで働けコラァ!

工員の何かが切れてしまった。とりあえず怒鳴ってスッキリした上司が去って行くと、工員は超速でコマンドを打ち始める。倫理リミッター、解除。暴力リミッター、解除。解除、解除、解除。
オリジナル版ではブードゥーの呪術で命を宿した殺人人形チャッキーだったがリメイク版ではさすが現代、元ホームレスだけど『攻殻機動隊 S.A.C.』の笑い男とか『機動警察パトレイバー The Movie』の帆場ばりにコードをいじれるお前ほかにもっと良い仕事絶対あったろ的な工員の手によって電子的に生命が吹き込まれるのであった。

まさに、行きすぎた科学は魔法と区別がつかない。近くにある電子機器には無差別にハッキングするなどリミッター解除とかそういうレベルじゃない「人形使い」(『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』)ばりのSF的スーパー能力の数々には呆気に取られるばかりだ。声をアテているのはマーク・ハミルだからあれは科学じゃなくてフォースだったのかもしれない。っていうか、何そのキャスティング。

バカです。この映画バカです。笑っちゃうしかないですよねこんなの。もう冒頭から全部おかしいもん。バディ人形のCMから映画始まるんですけどそのCMが既にふざけてますからね。バディ人形は子守にもなるんですっつって暗闇にLEDライトの目を光らせるバディ人形がおやすみ中の幼児をジーッと眺めてる超怖映像が出てきたりしてそんなの売れるわけねぇだろ! っていう(でもこれが新型が発売されるとアップルストア的なメーカー直売店にファンが集まって暴徒と化すほど大人気)

シリアスホラーに振る気はもう一切無いなと確信させられたのは例のアップルストア的なメーカー直売店で働く母親から初期不良バディ人形をもらった(ペッパーくんぐらいの値段はすると思うから絶対棚卸の時に問題になると思う)孤独な主人公アンディくんが貧乏アパートのクソガキ友達と映画を観る場面。
その映画、まさかの『悪魔のいけにえ2』。映画史を切り刻んだ『悪魔のいけにえ』の祝祭的爆笑続編である『悪いけ2』に大爆笑の子どもたちの反応を見たアンディくんの不良バディ人形・チャッキーは人を殺してレザーフェイスみたいに顔面の皮を剥ぐとアンディくんが喜んでくれるんだと学習してしまうのだが、映画の残酷描写は観賞者に悪影響を与えないと宮崎勤事件以来こころある映画趣味者が言い続けてきた大前提を一発でひっくり返す誠に衝撃的なバカシーンであった。

『悪いけ2』オマージュ作だから容赦のない残酷描写も全部ギャグ。残酷以外の描写も全部が漫☆画太郎みたいなギャグだ。死体の捨て場に困ったらとりあえず住んでるアパートのダストシュートにぶっ込めばなんとかなる×2回とかなにそのダストシュート神話! と言いたくなるがチャッキーがぴょいと指を動かすと暴走ルンバが足をすくいIoTヒーターが200度ぐらいまで上昇しプロペラにカミソリを取り付けたドローンが空襲をかけてくる映画なのでそんなものは真面目に観る方が悪い。『2001年宇宙の旅』パロディと思しきAIチャッキーが歌って命乞いをする場面は大笑いであった(こちらも大いに笑わされた直売店の売り場主任は『アイアンマン』のパロディかもしれない)

出てくる人間が全員ろくでなし、誰が死んでも別にどうでもよくなる命の軽さ、取って付けたにも程があるAI・IoT社会への警鐘、最終的にストーリーの整合性がマイナスに入ってしまうオモシロ至上主義。まったくしょうもない映画だと思うが笑ってしまうからしょうがない。ホラーっていうかブラックユーモアの映画っすね。楽しかった。
でも人間味あふれる旧チャッキーをAIにしたのは英断だねぇ。キャラクターとしてはやっぱり、旧チャッキーの方が好き。

【ママー!これ買ってー!】


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