エクストリーム映画『フリーソロ』感想文

《推定睡眠時間:15分》

こういうのはフリークライミングと呼ぶのかと思ったがフリークライミングは登攀には手と足しか使わないが安全ロープとかは使うらしい。通常数メートル程度の岩とかを補助具なしロープなしで登るのはボルダリングと物のサイトには書いてある。ボルダリングスタイルで山を登っちゃうのがフリーソロ。なるほど狂っている。
その業界のスタァで今回フローソロでほぼ垂直の岩壁を970メートルぐらい3時間ぐらいかけて登るのがアレックス・オノルドさん。その異形いや違った偉業を追ったドキュメンタリーが『フリーソロ』という映画。全然(登れる)意味がわからない。

命知らずの登りっぷりが衝撃的なオノルドさんはプライベートも衝撃的。人里離れたどこかにトレーラーハウスで住んで適当な草と缶詰の豆を雑に炒めたやつをフライパンとヘラのまま食ってレンタルシャワーを浴びながら一緒に履いてきたズボンとか踏んで洗って(?)しまう孤独死一直線の独身男性っぷり。あとはひたすらトレーニングとフリーソロということでやっていることは未知の世界だがとても他人とは思えない(この人は講演とか本の出版とかで本人曰く“成功した歯医者”ぐらいは稼いでいるらしいのだが…)

そんなオノルドさんにもちゃんと恋人がいるのでアメリカというのは不思議の国。恋人と山のどっちが大事かとディレクターに聞かれて平然と山と答えたり山デートの最中にも斜めに倒れたあぶない倒木を見つけて恋人そっちのけで登ったりしてしまうオノルドさんなのでこれ一緒にいて楽しいのかと思うが恋人は楽しいっぽい。愛の形もいろいろある。

オノルドさんはシャワーもないトレーラーハウス暮らしで問題ないが恋人はそうとはいかないので二人で暮らす家を買う。ここにソファーを置いて、ここは何部屋にして…と買ったばかりの家を見て回りながら楽しそうな恋人に対してオノルドさん冷蔵庫の設置とかはちゃんと手伝ってくれるが関心的には完全上の空。
登りたい。ということで一度は挫折した憧れのエル・キャピタンでのフリーソロにオノルドさんは安定生活を捨てて挑むのだが普通そこらへん安全か挑戦かみたいな葛藤が出ると思うがそんなの全然なかったので逆にハラハラを覚えてしまう。

度々エル・キャピタンを訪れて登りたい欲を募らせていくオノルドさんの目は獲物を物色しながら昂ぶっていくシリアルキラーの目。映画を観る限りではオノルドさんとてーも平和なやさしい人のようだったが人間やっぱそれぐらいヤバイ人に近づかないと偉業は達成できないということだろう。生の実感のためには死をも厭わないという点でシリアルキラーもオノルドさんも似たようなものだ。

ラストのエル・キャピタン登りはスポーツ中継的なスタイリッシュ編集のおかげてわりとカジュアルに見れてしまうが控えめに言ってどうかしているのでたいへんな見物。
登攀途中で遭遇する謎のユニコーン、口を手で覆うばかりで(画面上は)仕事をしないカメラマン兼エル・キャピタン挑戦企画のディレクターみたいな人などなど奇妙なユーモアもあっておもしろかった。

ちないちばんスリルを感じたショットはフリーソロではなく無事フリーソロを終えたオノルドさんの休憩に入った土木作業員みたいな、それが単なる退屈な日常でしかないような眼差し。やばい(良い意味で)。

【ママー!これ買ってー!】


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こちらもエクストリーム狂人ドキュメンタリー。こっちの狂人は高層綱渡りです。

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