大人の感想『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(ネタバレあり注意)

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制作第一報を聞いた時には恐竜でどんだけ食うんだよと東宝&小学館に呆れると共に『のび太の宝島』で唾棄すべき泣きドラ路線をヒットさせやがった脚本の川村元気にヘイトが向かったがパンフレットを読んだら恐竜もので書いてくれという発注だったそうなのでむしろ川村元気にちょっと同情さえした。もうF先生はドラえもんで恐竜ネタやり尽くしてるから…だそうですが確かにそうですよね。心なしか元気のない川村元気インタビューであったよ。

新恐竜というタイトルですがこれは「新・恐竜」ではなく「新恐竜」の意。つまり新しい恐竜、未発見の恐竜ということ。ストーリーの下地は言うまでもなくまたもや『のび太の恐竜』ですが「新恐竜」というのがギミックで、ネタバレありって書いちゃったしパンフレットのインタビューで川村元気も一行目からバラしていたので言ってしまいますが『のび太と竜の騎士』が混ざってます。

『のび太の恐竜』でのび太が見つけたのはフタバスズキリュウの卵の化石でしたが『新恐竜』では謎の新種。ありゃあこの恐竜いったいなにもんじゃろな。なんか滑空とかできるが羽毛とか生えてるし翼竜とは違うようだ。そもそも翼竜は恐竜類じゃないとものの本には書いてある。ドラえもんが出してくれたお馴染み宇宙完全大百科にも載ってないらしい。

その正体は『竜の騎士』であった。全日本在住者が既に『竜の騎士』を100回観ている前提で書いてますが『竜の騎士』って言ったらやっぱりあの巧妙などんでん返しよね。謎の地底世界でこっそり生きて独自の進化を遂げた恐竜族。自分たちを地底に追いやった哺乳類どもの殲滅を誓った恐竜族はやがてタイムマシンの製造に成功し、歴史を変えるために恐竜が地上から姿を消した白亜紀末へと飛ぶ。

だがそこで恐竜族が目にしたのは巨大隕石の衝突であった。これが絶滅の原因だったのか…! 自らの過ちと歴史の残酷を目の当たりにして途方に暮れる恐竜族であったがそこにドラえもんが丸い手を差し伸べる。秘密道具で地下に巨大な待避壕を作れば恐竜たちは生き残れます! これこそが謎の地底世界であり(正確にはその最初の空間)、恐竜族が生まれた理由であった。

『竜の騎士』を既に100回観ている全日本在住者なら「竜の…」と言っただけでああそのネタね! と勘づいてしまうでしょうが、要はそこを『新恐竜』はもっとマイルドに新種の恐竜の秘密として転用してるわけです。新種の恐竜の正体は恐竜と鳥のミッシングリンク。同じ卵から生まれた二匹の恐竜キューとミューのうち片方は綺麗に滑空できるのにもう片方は不器用でどんくさいから羽ばたこうとしちゃって滑空できない。

でもその不器用さとどんくささ故の羽ばたきが実は恐竜が鳥として生き残る第一歩となった。テメェは世界最強の早撃ちぐらいしか能がないくせに滑空できない恐竜のキューを飛べ飛べ飛べるさお前は飛べると熱心に追い込んだのび太のおかげで、キューは最初の鳥/恐竜となったのです。おしまい。

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よく出来ていたな。これでオリジナルシナリオと呼べるかどうかはわからないしラストの大仕掛けに固執するあまり細かい部分、たとえば恐竜たちの避難島となる飼育用ジオラマセット(ここらへんは『のび太の創世日記』とか『のび太と雲の王国』っぽいところだ)に巨大隕石落下に伴う気候変動から恐竜を守る効果があるのかどうか説明が不十分だし(天気を自在に変えられると言われても気候変動の影響は天気だけじゃないだろう)、『のび太の恐竜』ではピー助が大きくなって家では飼えない→公園の噴水池にとりあえず移す→それはもっと無理があったから白亜紀に還す、というワンダーとリアリティの渾然一体となったドラえもんらしい理に適った展開が描かれていたが、『新恐竜』では飼育用ジオラマセット使えばそのまま現代で飼えるじゃん? って思わせてしまうので白亜紀に恐竜を連れていく展開に必然性が感じられない。でも良く出来ているとは思った。よく出来ているというか頑張ったんだろうなと思った。

川村元気の脚本は良くも悪くも総花的なところがあり、とにかく、出す。恐竜をたくさん出すしひみつ道具もたくさん出す、伏線いっぱい張る、旧映ドラオマージュいっぱい入れる、小ネタいっぱいバラまく。ギャグもそこそこ。それはそれで面白いのだが、各要素に有機的な繋がりがないので散漫な印象を受けたりするし、せっかくの大仕掛けもカタルシスがあまりない、軸が弱いから全体の構成は歪だし、肝心なところは情でほだそうとするのでなんだか誤魔化されたような気になる。

『のび太の恐竜』が映画ドラえもんの最高傑作だとかほざく方々もたくさんいらっしゃる世の中であるから映画ドラえもんは「泣ける」ブランドとして一般に理解されているのかもしれないが、F先生が自ら原作大長編を手掛けた映画ドラえもんは客を泣かせようなんて軽薄な意図は微塵もなかったし、機能主義的というか、とにかく一部の無駄も余剰も残さない明瞭にして精緻なストーリーや演出こそがその魅力であって、今の映画ドラえもんと比較すれば淡泊を通り越して無機的にさえ見えるそうした冷徹さが映画ドラえもんに永遠の命を吹き込んだのだと俺は思う。

たまご探検隊? それ、『竜の騎士』に出てきたミニ探検隊じゃあダメだったんですか? 足跡スタンプ? それ、たまご探検隊と役割が重複してませんか? もしF先生だったら…なんて言っちゃあおしまいなのだが、でも一つの要素にまとめられるものは可能な限りまとめるとか、重要な要素と副次的な要素(つまりネタ)を明確に切り分けて優先順位を付けるとか、そういうことを丹念にやってシナリオの密度を濃くすると共に展開にダイナミズムを生んでいたのが旧映ドラだと思っているので…水増しとまでは言わないが、『新恐竜』は映ドラの核である(あった)はずのシナリオがどうも練り上げられていないように感じられてしまう。『のび太の恐竜』と『竜の騎士』がそうであったように悪役不在の非活劇となれば、やはりその点は気になってしまう(『竜の騎士』にも活劇性はあったのだが)。

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ドラマ路線の映ドラで限りなくリメイクに近い内容をやってF先生の大長編よりも面白くすることは不可能と言ってよいので、『新・日本誕生』みたいなおそらく新映ドラのリメイク・シリーズの中で唯一オリジナルを真正面から超えた(かもしれない)大傑作リメイクを除けば、そうは言っても相当に健闘した映画だろうとは思うが…健闘ねぇ。そんな偉そうに書きたくないんですよ本当。すげードラえもんすげー! って興奮したかったんですよ俺は。でもさー、俺もそれなりに歳とったので感性の鈍りも否定できませんけどさー、面白いけど興奮させないっつーか、なんか白けちゃう映画ではあったんです。

ピー助のゲスト出演なんかどう受け止めろっつーのよ。観客サービスかもしれないけどそんな見え透いたサービスやめて欲しいよ。しかもそのシーンがまた全然必然性ないし。本当に必然性がなくて単なるサービスなんだよ。大人が作った映画だなーってガッカリするよな。そんなこと言ったらF先生だって旧映ドラの大半を手掛けた芝山努監督だってみんな大人なんだけどさ。だけど大人の心にも切っても切れないガキ精神ってのがあるじゃない。そういうのが『新恐竜』本当なくてさ…そうだな、なんでそこそこ面白かったのにこんな白けちゃってるって、そこなんだろうな。恐竜を育てることとか恐竜を生で見ることに対する欲望がないんだ。

結局、「恐竜もの」っていうお題ありきの映画で、恐竜でどんなことができるかっていう題材の掘り下げはされないし、その原動力としての恐竜への興味が作り手にないので、『のび太の恐竜』とか『竜の騎士』とか、『雲の王国』とか『創世日記』とか、既存の恐竜系ドラ映画をパッチワークすることしかできない。全体としてあまりバランスの良い映画とは言えないとしても、その結果はなかなか上々で、作り手としてはクライアントの要望に見事応えたというところかもしれないが、少なくとも俺は、そんな大人の事情が透けて見えるウェルメイドな作品を観たくて映ドラを観に行ってるんじゃないのだ。

散々不満をぶちまけたので最後にもう一つだけ不満をぶちまけると、これはなにも『新恐竜』に限ったことではなくF先生死後の映ドラは全部そうと言えますが、哲学的だったり社会的だったりするテーマとか題材を避けすぎ。もう冒涜なんじゃないかとすら思うね。なにやってるんですか? バカに非難されたり子供集客できないかもしれないのが怖いんすか?

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あのね、『竜の騎士』は人類と決定的に対立する異種族との共存の道を探る話だし、『宇宙小戦争』はナチスをモチーフにしたと思しき独裁政権とレジスタンスの闘争の話ですよ。『海底鬼岩城』は核開発競争がもたらす破局の話だし、『夢幻三剣士』は現実と夢の関係を観客に問いかける幻想譚、『アニマル惑星』『雲の王国』『創世日記』の三作は人類の戦争の歴史とその背後に立つ神の概念についてのF先生の考察じゃないですか。

映画ドラえもん、そういう難しいことも子供向けだからって逃げたりしないでちゃんと描いてたんですよ。辛うじて異色作『ひみつ道具博物館』とか前作の『月面探査記』は社会性もそれなりに取り入れていたと思いますけど…小学館とか東宝の映ドラ担当は数字ばっか見てないでそこを見て欲しいしそこに挑んで欲しいよ。売れるコンテンツだからって当たり障りのない新作ばっか作ってるとコンテンツ自体潰れるぞそのうち。

※なお恒例のエンドロール後予告ですが、なんか『スターウォーズ』風だったので『宇宙漂流記』のリメイクか、もしくは『宇宙漂流記』や『宇宙小戦争』なんかをベースにしたマッシュアップ新作でほぼ確定。これは楽しみですね。『宇宙漂流記』なんかはアクション編なので今の技術でリメイクした方が面白くなると思うんですよ。

※※ちなみに売りのはずの恐竜は3DCGで描かれ、おそらく最新の研究成果を反映するための判断なのだと思うが、まずリアル過ぎてドラえもんの世界から超浮くし、ストーリーにあんま関係してこないし(関係するのは新種恐竜だけなのだ)、ドラえもんとかスネ夫が生態を解説するようなシーンも、生態を活かした展開というのもほぼほぼ無いので、恐竜の魅力が伝わらない。恐竜題材の映画でそれはいいのだろうか。でかいからすごいとかそういうことじゃないだろ。これだったら『銀河超特急』の恐竜の星の方が恐竜ワンダーが詰まってたんじゃないの。

【ママー!これ買ってー!】


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冒険感は薄いし明確な悪役はいないしゲストキャラは可愛くないしで旧映画ドラえもんの中ではあまり目立たない一本だが、シナリオ面では確実に映画ドラえもんの最高峰。いぶし銀の傑作。

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