どうぶつ暮らしは大変映画『鵞鳥湖の夜』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , ,

《推定睡眠時間:5分》

ビニール傘の使い方が印象的な映画で冒頭の傘使いもそうなのだが終盤に出てくるビニール傘殺人事件に思わずええっ! 絶惨公開中の壊作ホラー『妖怪人間ベラ』に出てくる殺しとまったく同じ手口なのであった。なんでそんなピンポイントかつマニアックなネタ被りが同時期公開のまっっったく関係のない映画で起こるのか。だいたいビニール傘の先端丸いんだからかなりの力で突き刺しても人体貫通しないだろ。地下鉄サリンの実行犯だってコンビニで買ったままのビニール傘じゃサリン入った袋破れないからって先端削って尖らせたんですよ。急に、不謹慎! まぁ悲劇の記憶を忘れないということで…今年で地下鉄サリンから25年。黙祷。

さて冒頭のビニール傘使いというのは雨に濡れて曇ったビニール地の向こうにぼやぼやっと人影が浮かんで背後からのネオンやら列車のヘッドライトを浴びながらその人影が万華鏡のように形を変えていく…傘を閉じるとその人影がダブル主人公の女の方である娼婦グイ・ルンメイであることがわかるのだが、よくできた映画は冒頭でテーマとかモチーフをそれとなく提示したりしているもので、これもなるほどそんな映画だったなとエンドロールを眺めつつ思った。

ぼやぼやっとした人影、人がいるっぽいことはわかるがそれが誰なのかわからない状況。ダブル主人公の男の方のヤクザ者フー・ゴーは敵対ギャング・グループとの局地抗争の最中、眼前に現われたぼやぼや人影を敵対ギャング(ちなみにこのギャング見た目的には小林勇貴みたいな感じでした)だと思い込んで殺してしまうが、実はその正体は警官だったというわけで懸賞金まで掛けられて怒った警察の大包囲網に囚われてしまう。

見分けがつかないことで巻き起こる悲劇惨劇はなんだかどんどん喜劇じみてくる。男主人公が逃げ込んで女主人公はそこを仕事場にしている鵞鳥湖の周辺地域各所で巻き起こるギャングと警官と住民が入り乱れての銃撃戦は誰がどこのポジションなんだかよくわからんままとりあえず死体だけが積み上がっていく。ギャングの放った流れ弾を食らって死ぬ住民の妻に「警察です! 犯人追跡中です!」とギャング。そんなあんたコントじゃないんだから。

この鵞鳥湖は管轄が曖昧で誰がどこをどう管理してんのかようわからんと男主人公を追う警官が説明してくれる。実際に映画を観てメタファーやアレゴリーを読み解く楽しみを削いでしまうようでもしまわないようでもあり多少なりとも若干の申し訳なさを感じなくもないわけではないが、まぁ、ブラックですっとぼけた現代中国批判ですよね。こちらも映画に負けじと曖昧文法。

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誰が誰だかわからん状況を作り出しているのは誰が誰でも同じという体制であった。この体制は何も党とか中央政府とかそういうでっかいもののことではない。序盤、地域統括ギャング主催のバイク窃盗講習会なるものが出てきて可笑しいのだが、講習会が終わると主催ギャングはそこに集まった様々なギャンググループの前に地図を広げて各ギャングのシマを割り振っていく。

これと同じ図式は誰がどこの地域を担当するかを決める警察の捜査会議の場面でも繰り返されるし、更には再開発計画を巡る鵞鳥湖の住民集会にも表われることになる。共通するのは上意下達の割り振りともうひとつ、少数意見の封殺であった。ギャング集会では廃れた地域を割り振られた血気盛んな若手ギャングが繁華街のシマよこせよとか言いだしてしまったので血の雨が降るが(ここで、男主人公が「その地域は今は廃れているがやがて再開発される」といって若手ギャングを諭そうとするのは中盤以降の展開のために覚えておきたい)、警察の捜査会議でも銃の試し撃ちがどうのとかいう捜査官の意見が即座に却下、住民集会でも再開発に伴う立ち退きに反対する古参住民の意見が無視されることになる。

ギャングも警官も住民だって結局のところみんな同じ。同じ体制に同じやりかた、同じような形ばかりの機会平等があるだけだ。割を食うのは少数派で、誰もがそれを知っているが、幸運にも割り振りで当たりを引けば他のやつより儲けられるから唯々諾々とその不透明で不平等なシステムに従ってしまう。ああ情けなや現代中国の人々、あるいは現代資本主義社会の住民たち。過剰なほどのノワールが溢れるスタイリッシュな映像につい目を奪われてしまうが、本質的には諦観まみれのシニカルな社会批評映画でしたな。

再開発後はきっと消えてしまうであろう地元サーカス小屋に主人公ふたりが迷い込む生臭くも幻惑的な場面があるが、そこに出てくる凹面鏡は現代中国を笑ってしまうくらいに歪めて映し出すこの映画そのものだ。みんな同じ格好をしているから誰が誰だか見分けのつかない水浴嬢と呼ばれる娼婦、そこに重なる鵞鳥のイメージ、警官たちが男主人公を追って踏み込む動物園のペンギン部屋にはみすぼらしい水場を誤魔化すために嘘くさい北極のペンキ絵が描かれているが、鵞鳥湖の海水浴場には大きな工事フェンスに描かれたピカピカと光り輝く再開発後の超近代都市イメージ図がある…。

しょせん我ら憐れなペンギン、ニセモノの希望に囲われエサを貰って芸をする。で、そんな諦め動物園から無謀な脱出を試みるしたたかで勇気ある人物を、意外にも(?)『鵞鳥湖の夜』は生暖かい眼差しで見守ってやる。日用品や家電を使った珍奇な人でなし犯罪と人を食ったオフビートなジョークがいっぱい、あどけなさと退廃の同居するグイ・ルンメイのファム・ファタールな眼差しも背徳的で素晴らしい。はい2020年ベスト面白映画候補。

【ママー!これ買ってー!】


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どうも現代中国ノワールは「雨」とか「もや」とか「回想」とか「善悪の反転」とかっていう古典ノワールの記号化された諸要素を現代中国批判の武器として利用しているようだ。『迫り来る嵐』もまたそんな一本。これもめちゃくちゃおもしろかった。

※現代中国批判の映画として見るなら『迫り来る嵐』は最近作られた映画なのに2008年、『鵞鳥湖の夜』は2012年が舞台になっているのは意識しておくべきポイントだろう。それが何を意味するかは中国現代史を知らないのでわかりませんが…。

3 Comments
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さるこ
2020年9月28日 9:39 PM

こんにちは。
こんにちは。
歩きやすい靴でどんどん町を歩いていくような気分の良い映画(不謹慎)。カメラワークのせいでしょうか?道具使いも面白いです。潜入捜査官たちの光るスニーカーに笑ってしまった。タバコの銘柄とかも分かると楽しいのかも。リウ刑事、前にもどこかで、大勢の中で懐かしい音楽踊ってなかった?既視感…と思ったら『帰れない二人』でした。あれは2001年からの20年を描いた、とありましたが。
ミューズが最後に殺られなくてホッとしました。

さるこ
Reply to  さるこ
2020年9月28日 9:40 PM

ごめんなさい。あいさつ二回も…