日本を学ぶ映画『牛久』感想文

《推定睡眠時間:0分》

軽い気持ちでパンフレットを買ったら映画パンフレットなんてものではなく入管問題ハンドブックといった体で解説論考じつに七本インタビューは数ページに渡り収容制度概要から真っ黒に塗りつぶされた開示請求資料とか戦前にまで遡る些細な入管年表までついている。このパンフレットは映画を観てない人でも入管問題なり人権問題なりに興味があれば通販とかで(あるのかどうか知らないが)買うべきナイス肉厚内容だが、それをパラパラと眺めながらはてこう様々な角度から既に論じられているなら俺は何を書くべきかと考えてしまった。考えに考えて一回ゲームを始めてしまったほど考えた結果、これもう俺が書くことなんかねぇんじゃねぇかの答えに至る。

いやぁだってもうねぇ、映画の内容的にもこれはすごい面白い映画ですけど私小説ならぬ私映画に近いドキュメンタリーで、監督の人と牛久入管に長期収容されている外国人の人の面会でのやりとりと電話でのやりとりを何人分か重ねて入管の(少なくとも収容者にはそう感じられている)実態を暴き出していくっていう意味で社会的な広がりがあるんですけど、監督の目から見た世界から映像は飛び出さないし、何か劇的な瞬間を捉えているわけでもないからストロングスタイル。

たった一人の収容されてる人を入管職員のオッサンたちが数人がかりで押さえつけまったく会話にならない興奮状態(※収容者の人じゃなくて入管職員のオッサンの方ね)で延々同じ言葉を怒鳴り続けるとかいう酸鼻を極める光景はショッキングではあるがこれはその様子を施設側が撮影したビデオの開示資料であるし、ショッキングというのはこういう壊れた恫喝オッサンを俺たちは…とまで主語をでかビッグにしていいのかどうかはわからないがよく知っている。コンビニとかファストフードにたまにこういう人来る。

だからこれは「そんな酷いことが!」というよりは「そんなレベルの人が…」というショック。入管職員ということは公務員のはずだから大学とか出てるわけだし国家試験も通ってるわけだしコンビニで恫喝難癖つけてる下町のチンピラオッサンとは多少は良識レベルに知性レベルが違うだろうと思ったら一緒だった。そんな人に他人の人生を左右させる仕事をさせちゃいけないよね。人権とかなんとか言っても理解できないでしょこの人とこの人を擁する組織の人は、つまり入管は。

ま俺は人がいいからこれって要はコミュニケーション訓練を誰もまともにしてなくて組織ルールを通してしか収容者の人と関わることができないってことだと思ってる。だから収容者の人が対話を求めると壊れたロボットみたいになるんだよね。どう接していいかわからない。クレーマーの人ってだいたいそうです。こんな風に考えると入管の問題はもっと広く日本オッサンと日本オッサンが仕切る日本型組織の問題だし、ひいては一対一の対話を拒みがちな日本社会の問題でもあるんでしょう。

ある意味でこの映画には日本人がよく知っている光景しか出てこない。じゃあこの映画を海外の人はともかく日本の人が観る意味あるのってもちろん超あるわけで、それっていうのは日本人が当たり前に感じている光景やコミュニケーション(拒絶)の様式が、この監督はアメリカの人ですけれども、外の目から見たらどれだけ異様に映るか、どれだけ暴力的かということが当事者の証言を通してまざまざと浮かび上がるわけです。結構貴重でしょ。そういうのって中から見てるとわかんないからね。

外に出る(仮放免)ために何度もハンガーストライキをしてやせ細っていく収容者の人を見てテメェらなんとも思わねぇのかー! ってつい思っちゃうけどさ、それは外から見てるからで組織の中にいると「何あいつ意味不明w」ってなっちゃうんだよ、日本人は対話ができないから。対話ができないというのは個として他者に向き合うことができないってことで。日本人同士でもできないのに文化も言葉も違う外国の人に対してなんかもっと無理でしょ。

まとにかくそういう映画なので人の振り見て我が振り直せってなもんで観ておくと自分にとって大変お得。情けは人の為ならずって言いますしね。いろんな人に観てもらえればいいなぁと思いますよ。牛久牛久って言いますけど牛久入管なんかぶっちゃけ問題じゃなくて、これは入管制度とそれを作り出した日本社会の在り方の問題で、それと無関係な日本の人は日本全国津々浦々あまねく探しても一人もいないはずですから。自分たちの問題は他人任せにしないでちゃんと自分たちで考えていかないと…そのうち総理大臣がプーチンになるぞ!
(なんだ、書くことないとか言いながら結構書けたじゃないか。個人としての率直な偏見とか我田引水上等の持論をぶちまければ感想なんていくらでも書けるものだ。対話というのもこんな風に自分の考えで人を殴る(※比喩)ことから始まるのだから、間違いとか批判を恐れずにどんどん自分の考えを言っていったらいいんじゃないだろうか)

【ママー!これ買ってー!】


『ルポ 入管 ――絶望の外国人収容施設』 (ちくま新書)

去年公開された『東京クルド』っていう映画も仮放免処分中の在留クルド人青年のドキュメンタリーで、これ面白かったからリンク貼ろうと思ったんですけどソフト化とかはされてないらしい。というわけで読んだことない本ですが『ルポ入管』を。

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