バットノワール映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』感想文

《推定睡眠時間:0分》

今回の一応メインヴィランになるリドラー役のポール・ダノの芝居がかなり90年代の佐野史郎っぽくてまずだってつるんとした顔面にノン整髪料の髪型+ダサメガネっていう見た目が似てるし人の神経を逆なでする喋り方も思い通りにいかないときの「んんんんんん~!!!!」っていう悶絶声とかもうわ~90年代のサイコサスペンスとかで狂人を演じてる時の佐野史郎~って感じがすごくてそれで興奮気味に上映後に「ザ・バットマン 佐野史郎」で検索したんですけど全然ヒットしなくていや納得いかねぇよ佐野史郎だろあれ!リドラーっていうかむしろシノラーですよ! それはまた別の人!!

似ているといえばその佐野史郎も当然のように出演している映画版の『帝都物語』に俺の感覚では『ザ・バットマン』結構テイストが近かった。雰囲気とか展開とかは全然別物なんですけど魔都を舞台に怪人悪人の入り乱れる都市群像劇っていうの共通するところ。抑揚のない弛緩した演出もまぁ似ていないとも言えない。それは半分冗談にしても『ザ・バットマン』は引用オマージュ大量系の映画で全体の構成と土砂降りの雨はデヴィッド・フィンチャーの『セブン』を下敷きにしているしゴッサムシティの美術デザインは『ブレードランナー』、警察やらなんやらの汚職が絡んでくるところは『L.A.コンフィデンシャル』を思わせるしリドラーの仕掛けるゲームは『ソウ』シリーズも彷彿とさせたりする。葬儀のシーンのモノクロ衣装はペンギンも出てることだし『バットマン リターンズ』由来でしょうね。リドラーが仕掛ける殺しの謎かけを解くべくバットマンとゴードン警部がタッグを組んでゴッサムを東奔西走するあたりは超ネガティブ版の『ダイ・ハード3』のよう…でもないか。

なかなか節操のない映画だが元祖劇場型殺人鬼ゾディアックをリドラーのモデルにしていることを思えばこのいささか稚拙な引用過多っぷりもリドラーみたいに作った映画、ということで正当化できるのかもしれない。そうですゾディアックです。ゾディアックは自作の暗号文を新聞社に送りつけて警察を挑発しましたがリドラーも自作暗号文でバットマンを翻弄します。ゾディアックが湖畔でカップルを襲った時の目撃証言を基にした似顔絵ってのがあるでしょ。あの四角い頭巾みたいの被ってその上からメガネかけてる異様だけどちょっと間抜けなやつ。リドラーの戦闘コスチュームってあれを気持ちスタイリッシュにした感じなんですよ。例のマークみたいのもアレンジして使ってるしね。

未解決なのでシリアルキラー界では大御所扱いされているゾディアックではあるが今日の目からすれば厨二の一言。通称とかマークとか湖畔の時の頭巾ファッションとかどうしたら恐怖の殺人鬼を演出できるかすげぇ一人で考えたんだろうなぁ色んな漫画とか小説とか読みながら…って想像したら少しだけおもしろい。要は中身がない人なわけですけれどもこの点リドラーもしっかり踏襲しており何もないから何かになろうとする。ここわりとこの映画のキーになるところです。

真実を暴け! とリドラーはバットマンとゴッサム市民を煽るわけですけれども実はそんなもんないんですよね。いやあるにはあるし暴いた方がいいことではあるんですけど暴いたところで…みたいな真実にリドラーは執着していて、それはまぁネタバレ配慮で詳細は一応伏せますけど概要だけ書くとゴッサムが今みたいに治安最悪になった隠された原因で、それを暴けばゴッサムが綺麗になるってリドラーは主張する。でも世の中そんな単純じゃないんで今の世がこうなった原因なんて見方次第でいくらでもあるよね。リドラーは目覚めちゃった人で、なんでゴッサムと俺はこんなに悲惨なんだって思い詰めている時に偶然ある言葉を見つけて「これだー!」ってなったんですけど、陰謀論的なというかさ、まぁそんなのは大抵「真実」じゃないっていうか、不合理な人生に納得するための防衛機制的な合理化でしかないわけですよ。誰だってあるでしょ、あのときああしてれば俺の人生は今頃バラ色の…みたいな無意味なたらればって。それと同じですよ。

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バットマンの映画シリーズではバットマンとヴィランの危うい鏡像関係が一つの見所になるわけですけど今回はその関係性の面で結構踏み込んでて、バットマンの自警活動がある種の模倣犯としてのリドラーを生み出すに留まらず、バットマンのシャドウとしてのリドラーがバットマンを育てるって感じになる。リドラーの空疎な謎かけの本質はこうだ。「何がお前をそんなに惨めにした?」その答えを持っているらしいリドラーを憑かれたように追ううちにただでさえ足元のおぼつかないロバート・パティンソンの根暗バットマンは自分の足場を見失っていく。だが最後はリドラーが用意したものではない自分なりの答えを見つけてヒーローとして再誕するわけだ。ふと思い出したのでチャールズ・マンソンとティモシー・リアリーのこんな会話を引用しよう(ティモシー・リアリーが何者かは各自検索すること)

「誰も責任なんか持ちたくないんだよ。何をしろとか、何を信じろとか、何がホントに本当でホントに事実なのか誰かに教えてほしいんだ」
「で、君は彼らのために答を持ってる、と?」
「みんな聖書に書いてあるぜ。ムショにいるご利益だな。聖書を読む時間ができる。俺にはすべてがわかったんだ。世の中うまくいかなくなったのはなぜかわかる?」
ティモシー・リアリー『神経政治学』山形浩生 訳

単に作りが下手なだけとも言えるが悪党は何人もでてきても明確なヴィランといえる敵の存在しない、いわば答えのない今回の『帝都物語』的シナリオはその歯切れの悪さがヒーローとしてやるべきことはなにかという作品のテーマを浮かび上がらせる構造になっていて、かなりシブい。『ダークナイト』を超えたとは思わないがその延長線上で何ができるかを模索した意欲作としてなかなか立派な映画なんじゃないだろうか。このシリーズって色々と犯罪者に影響を与えがちなので実際の模倣事件を意識したとすれば尚更立派(それは正しくないよと言っているわけですから)

までもね好きなだけど面白くない映画ってあると思うんですけどこれわりとそっち系なので面白いかどうかで言ったらそんなに面白くない。カメラが全然粘らないからアメコミ映画にしては一つ一つのシーンにケレンが圧倒的に足りないんすよね。ここのアクションはこうやってこうやってこうやって撮るぞーどうだ面白いだろー! みたいな圧を感じるアクションシーンがないし、それは人を撮る時も同じで、バットマンのロバート・パティンソン、キャットウーマンのゾーイ・クラヴィッツ、リドラーのポール・ダノ、ファルコーネのジョン・タトゥーロ、それからペンギンのコリン・ファレル…と錚々たる顔ぶれがしっかり「ゴッサムに棲む人」を演じているのに見せ場として盛り上げてくれない。

『帝都物語』タイプの映画であるから悪党のうごめくゴッサムシティはもう一人の主人公といえて、その終わりが見えないほど奥行きの深い風景の地獄的酩酊感は素晴らしいものだが、それを活かしたシーン設計には基本的になっていないのでなんだか書き割りのように見えてくる。そんなわけで序盤から中盤ぐらいまではわくわくどきどきで観ていられるがそこからはわりと飽きがでてきて、それを吹き飛ばしてくれるようなアクションとかも別にないので、かったるいなぁ…好きだけど、ってなる。謎かけそのものには意味がないっていうのはわかるがリドラーの謎かけもぶっちゃけ大してフックのあるものじゃないですし。

とはいえポール・ダノのリドラーは佐野史郎で最高だしバットマンが真のバットマンになる物語としてもかなり満足感ある。葬送行進曲みたいなメインテーマが重々しく響き渡る闇にまみれたゴッサムの街景(そうそう、みんな大好きエドワード・ホッパーの引用もありましたよ!)にはうっとりとさせられるし、そこに蠢く群衆はレンブラントの描く民衆世界のようでグロテスクな迫力がある、だいたい今時のアメコミ映画にしては珍しくポストクレジット映像がない肝の据わった映画をそう悪く言えまいて!

【ママー!これ買ってー!】


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闇を抱えた人物が多数登場する、主人公も病んでいる、そんな主人公を翻弄するのは佐野史郎…実質的に『沙粧妙子 最後の事件』じゃないか『ザ・バットマン』は! ポール・ダノは佐野史郎ではないわけだが…。

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暗面堕つつ
暗面堕つつ
2022年3月14日 11:59 AM

佐野史郎に沙粧妙子…笑
出てくる喩えにマジに笑いました笑
なんだか(日本の)90年代っぽい作風を感じる自分がいたのですが、それが佐野史郎要素だったとはー笑
冬彦さんは勿論、死霊の罠2の怪人サイコ史郎が好きな自分としては今回のリドラーはまだカッコ良すぎ。もっと恥ずかしくなるくらいの変態猟奇キラーだと良かったのですが。
セブンやナイトホークスや汚職系ノワールだとかで固められたみんなが大好きな最高の雰囲気。
でも結果、雰囲気一発勝負の映画だなぁという印象です…あんまり面白くならない話に3時間はさすがにキツい(泣)
作風と役者は凄く良かったのでこれで120分とかだったらダークナイトとはまた違った決定版が出来たと思えたのですが。(3時間あるから出せた雰囲気なのかもしれませんが)この路線の実写バットマンはこれ以上はそうそう出来ないでしょうから、今度はMrフリーズ路線のカラフルバットマンでお願いしたいです。