怖くないけど味はある映画『ザ・ディープ・ハウス』感想文

《推定睡眠時間:15分》

湖の底に沈んだ呪いの屋敷の恐怖を描くこの映画だが水中もののホラー映画といえば最近だと『海底47m 古代マヤの死の迷宮』があった。女たちがスキューバダイビングで潜った先はマヤの遺跡のサメ地獄! というそのまんまな映画だがぶっちゃけ怖くない。まずスキューバダイビングで水没遺跡に入っちゃったりなんかしちゃったりすること自体が俺にとってはちょっと怖く、サメに襲われることも俺にとってはやはり怖いのだが、その別種の怖さが掛け合わさるとアラ不思議、なんか怖さと怖さが相殺しちゃってどっちの怖さも消えてしまうじゃありませんか。怖い×怖い=もっと怖いの必勝方程式は成立しなかったりするのだからホラーとは無神経に見えて案外繊細なジャンルなのである。ジェイソンとサメに同時に襲われる映画がもしあったらそれ確実にコメディにしかならないしね。

というわけで水中もののホラーを撮りたければ変にジャンルを掛け合わせたりせず純粋にダイビング中の事故によって水上に浮上できなくなる恐怖とかそういうのを『海底47m 古代マヤの死の迷宮』の前作『海底47m』みたいにやるのが無難。ダイビング×幽霊屋敷とかいうかなりの異種配合を試みたこの映画『ザ・ディープ・ハウス』なんかは…みなまで言わすな!

大したお話でもないが一応どんなお話の映画か書いておこう。主人公のカップルは廃墟探検YouTuber。再生数の伸び悩みに不満な彼氏は水没廃墟屋敷探検を思いついて彼女と一緒にダイビング。単なる廃墟探検のバリエーションのつもりだったがしかしそこはなにやら魔の憑いた屋敷のようで、カップルは酸素残量低下による溺死の危機と幽霊の呪いアタックをダブルで浴びてしまうのだった…なんだか本当に大したお話ではないね。

YouTuber設定だから全編そうというわけではないのだがPOV手法も取り入れて、実はダイビング×幽霊屋敷×POVという三身合体。このカップルYouTuberで生計を立てようとしてるくらいの貧民マインドを持っているくせに水中探査のための機材は無駄に完全装備なので2人分のダイビングスーツと水中アクションカメラと更にはカメラ搭載の水中ドローンまで持っている。どこから出ているんだその金は。そっちの方が年収200万バイトの俺にはよほどホラーなのだがまぁそんなことはいいとして話を進めよう。

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水中恐怖譚に何かを掛け合わせると怖くなくなるというのは先に書いたがこの映画の場合はとりわけ怖さを感じず、どうしてかと考えてこのような仮説が浮かび上がった。夜真っ暗な部屋に1人で寝ているとなんだか部屋に怖いものが来るような気がしてくる、という経験はたぶん全人類がしているだろう。人一倍臆病な俺はそんな恐怖に囚われてしまった時にはおそらくこれも大抵の人が経験しているだろうが布団に潜って怖いものから逃げようとしていた。果たして布団にどの程度の防御力があるのかは不明であるが、とにかく全身を何かで覆って目をつむってしまえば、なんとなく怖いものは自分に触れられないような気がしてくるのである。

陸上の幽霊屋敷探査の場合はいわば布団がない状態で恐怖のいけにえたちは幽霊と対峙することになる。対してこの『ザ・ディープ・ハウス』はというと、ダイビングスーツで全身を覆っている。これはどうでもいいように思えて俺の中で恐怖度が大幅にダウンする要素だった。全身を覆う服は布団のようなもので、登場人物がそれを纏っているとなんとなく幽霊との間に安全な距離ができてしまうように見えるのである。

そういうわけで幽霊が襲ってこようがなんだろうが全然怖くないのだが、その襲ってくる幽霊も2人+α程度という地味さ。出せばいいというものでもないがせっかくの幽霊屋敷探査なのにこれはちょっと…しかもその2人の幽霊、幽霊っていうか『サンゲリア』の水中ゾンビみたいな挙動で襲ってくるし。幽霊なんだから水中抵抗なんかなくてもいいのに律儀に現世の物理法則に従うんかい。サメでさえ物理法則を無視するぞこのご時世。

とまぁそんなわけで怖いか怖くないでいったら圧倒的に怖くない。暗い水中の不鮮明な映像も恐怖を感じさせるというより単に何が映ってるのかわからなくて退屈。心霊ホラーらしく劇伴は少ないのでポコポコいう水中効果音ばかりが劇場に響き渡り、スローな展開も相まって眠気を誘う。…と書けばなんだかダメ映画のようだが、ただ俺この雰囲気は嫌いじゃないっすよ。例の水中ゾンビ的幽霊だって怖くはないとしても半分泳ぎながら一歩一歩主人公に近づいてくる姿は前衛舞踏のような趣で妖しい魅力があったし、水中に幽霊屋敷を作るという前代未聞とまでは言わないとしても相当チャレンジングな要望に応じた美術スタッフの仕事っぷりはなかなかのもので、あまり観たことのない水中ゴシックの世界がカメラの前に広がっていた。

そもそもこの映画を監督したジュリアン・モーリー×アレクサンドル・バスティロの『屋敷女』コンビってあんまり怖い映画は撮ってないんですよね。どちらかといえば怖さよりも奇妙さを感じさせる映画を多く撮っていて、これも象徴派やシュルレアリスムの絵画から着想したんじゃないかと思わせるところがある。怖くはないけど変な映画として観れば、なかなか楽しめる映画なんじゃないでしょーか。

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これも怖いというよりシュールで奇妙なジュリアン・モーリー×アレクサンドル・バスティロ監督作。人は選ぶでしょうがなかなか良く出来てると思います。

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