エモスプロイテーション映画『アイスクリームフィーバー』感想文

《推定睡眠時間:0分》

アイスクリームの映画といえば忘れがたいのがラリー・コーエン監督・脚本作の『ザ・スタッフ』でこの映画にはアイスクリームに化けて地球侵略を企むエイリアンが出てきて当然それを食った可哀相な人々は凶暴ゾンビとなりアイス食え~と襲いかかってくる。そういえばジョン・カーペンターの『要塞警察』にはアイス販売車にアイスを買いに行った女児が中に潜んでいたギャングに撃ち殺されるというショッキングなシーンもあったし、アメリカではアイスを食べるのも命がけなんだなということがこれらの映画からわかる。アイスを食べても死なない日本は実は平和だったのだ。ちゃんちゃん。

さて困ったなんと感想を書けばいいだろう。う~んこれは、う~ん、まず構成について言えば、これは川上未映子という小説家の人の原作を映画化したものであるから骨格はある程度ちゃんとしている。しかしう~ん、しかし、率直に言ってしまえば、なんというか、もうちょっと真面目にやれと思った。なんだろうなその、あのねあるんですよあるんですこういう感じのね、キラキラ映画とかね、あれに似てるねちょっとだけあれに、『殺さない彼と死なない彼女』っていうあれね。いやキラキラ映画っぽいのはタイトルだけで中身はキラキラ映画感ないんだけどさ。こう、若者の生きにくさっつーかね。わだかまりとかね。渋谷の街の上での…あそうそうこれ渋谷ロケ映画なんですけど、街の上でのささやかな交流を通してそういう人たちがちょっと前に進めるようになるみたいなね。それをそのシャレオツなMV風映像で描くっていうね。うん。

そうあるんですこういう映画は。たくさんあるんです最近の邦画には。それもこえよりもっと優れたものが。でもこれは俺の嗅覚が感じ取ったことなので実際はどうか知りませんがこの監督、なんか映画畑の人ではなく広告畑の人らしいんですが、この人はそういうの不勉強で観てないでしょう。だって観てたらこれはちょっと恥ずかしいなと思って撮れないショットとかたくさんあるんだもの。前にこういうのがあったから自分はちょっと捻ってこうやろうというような意識も見えない。純粋に「これ面白いでしょ? カッコいいでしょ?」と思って撮っている、ように見える。しかしそれが面白くもないしカッコよくもない。

音楽の入れ方とか選曲も含めて本当ダサくてね。広告畑の人なのに実景ショットの美意識のなさには少し驚いてしまったが、それは美意識の問題というよりは先行する多くの作品(それは何も映画だけではなくミュージックビデオでも写真でも絵画でもなんでもいいわけでありますが)から型を学ぶという作業を怠っていることに由来するんじゃなかろうか。型破りな表現は型を学んでこそできることで、型を知らない型破りなど単なる無知の発露でしかない。

稚拙なのは映像表現だけではなく演出もで、この監督はよほど顔が広い人なのか女性誌系の著名役者やモデル、お笑い芸人などが多く出演しているが、その役柄や物語に見合った演技をつけられているようには見えない。この世界観にはこういう演技が必要だろうという監督の側の思考の形跡がまるで見えない。役者さんに得意な芝居をやってくださいと丸投げしているように見える。見えないのですよ、こうしたいああしたいという意志が、とにかく。どうしてもこれを作りたいという感じがしない。どうしてもこれを撮りたいという絵がない。もちろんどうしてもそうしたいという展開もまたない。なんとなく面白そうだから撮った、とそんな軽薄さ以外に俺はここから何も読み取れなかった。

観ている間もさっさと終わらないかなと何回も時計を観たし(そこで切っちゃえばいいのにというシーンが何回も続いて一向に終わらないのだからムズムズしてきてしまった)今だってこんなしょうもない映画のために思考リソースを割きたくはないので、今更になるがあらすじでも適当に書いて感想を終わるか。渋谷にアイス屋があってその周辺をイタリアの葬式みたいな格好をしたモトーラ世理奈がうろついてるんですがそのころ昔はエロゲメーカーのアリスの社屋がある街として知られていた(※)ものの最近は若者の街に変貌しつつあるらしい高円寺の小杉湯が廃業の危機に瀕しており小杉湯ヘビーユーザーの会社員ウーマンのもとに死んだ姉だかの娘ということは姪かその生意気な高校生姪が訪ねてきてお前の所に住ませろそして父親探しを手伝えと強要するのでした。

映画としては破綻しかかっているが有名人はやたら出演してるので集客力はある映画といえば山本晋也監督のコメディ・ポルノである。とすればこの映画もまたある種のポルノというかエクスプロイテーションなのかもしれない。渋谷スプロイテーションまたはエモスプロイテーションとでも言おうか。ちょっと前にツイッターでミーム化した「パターン化されたエモ気持ち悪過ぎるんだよ」を地で行く映画だ。映画としてはかなりダメだが、ポスターとかはオシャレな感じだし出演者の顔ぶれも豪華なので、渋谷で観たがお客さんは結構入っていたと思う。

【ママー!これ買ってー!】


殺さない彼と死なない彼女

『ももいろそらを』『恋は光』などちょっとズレた青春群像を日常会話的な台詞やシニカルなユーモアを織り交ぜて描く小林啓一によるキラキラしきれないキラキラ感が絶妙な学園映画。

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