自主映画フェス『第四世界』初日行ってきた感想文

君は『第四世界』を知っているかッ! ちょっとだけ説明しよう! 『第四世界』とは自主映画監督であり自主映画興行師としての顔も持つ二階堂方舟氏が手掛ける自主映画のフェス的上映イベントである! 1本1本の矢は非力でも3本集まればそう簡単には折れないとの故事もある…ならば1つ1つは集客力のまったくないかもしれない自主映画も何十本と集めればお客が来てくれるに違いない! のか!?

というわけで初日行ってきました。上映作品は1週間で計44本、日替わりなので作品の重複はなく、実は観たいやつは別日の上映だったのだがその日はカナザワ映画祭に行く都合で行けず、とりあえず初日だけでもということで(本当は明日も行こうと思っていたが片道2時間弱かかって疲れるのでやめた)。どのような意図をもってプログラムの選定が行われたのかはわからないがもしかすると初日のテーマは「愛」だったのかもしれない。形は違えどどの作品も愛についての物語という点で僅かながら共通するところがあった。

『第四世界』は本日2023年9月2日(土)~9月8日(金)まで。場所は横浜・黄金町の老舗ミニシアター横浜ジャック&ベティで上映開始は各日20:15より。まぁ詳しいことは公式ページhttps://keihinvideoplanning.com/the4thfrontier/をご確認の上、ちょっとでも気になったらぜひ行ってみてください。それじゃあ、初日の上映作品を簡単にレビューしていくぜ! 果たしてどんな珍作奇作があるかな~?

※白々しい宣伝っぷりにみなさんお気付きかとは思いますが知り合いの人がやっている映画祭です。ちゃんと言ったのでステマではなくダイレクトマーケティングです。宣伝したところで私には当然ながら一銭も入ってきませんが。

『ブキニョボキ』(作ったひと:宙崎抽太郎)

もし俺が初日のプログラムを組むとしたら絶対に最初にこれは持ってこないと思う。他にどれが適切かというとかなり迷うが、まぁなんにしてももう少し穏当なというか…予算はなくてもちゃんとプロットがあって撮影とか音声がちゃんとしててみたいな「お金が一円もないプロ」みたいのを最初に持ってきて、観客を安心させたところでもう少しディープな映画に繋げる。ところが今回の『第四世界』はこれが一発目である。一発目からこんなディープなものを持ってこられたらドキドキしてしまう。大丈夫かなぁ…お客さん帰ったりしないかなぁ…とか思って。つまりそういう映画である。

主人公のアラフォー男(童貞?)は神になるために人間の素になるグロいマンドラゴラみたいな肉塊を家の近くの植え込みに植えた。ほう。ある日肉塊の発育具合を見に行ったらそこに主人公が後輩と呼ぶふんわり系の女子がいた。ほほう。二人は一切噛み合わない会話をして些細なことでキレた主人公は後輩女子を撲殺して死体を解体する。ほお? しかし翌日も後輩女子は普通に生きており二人は公園に釣りに行き、魚が釣れたぞ! と小芝居を打つ主人公に後輩女子は冷たいツッコミを浴びせる。…ほ~ん!

あえてジャンルを分けるとすれば今回の『第四世界』でも上映されるカルト自主映画作家・繁田健治のあの世界と近いと書いたところで誰が繁田健治のあの世界わかるんだよという話なのだが、分かる人にだけ伝われば別にいいです。棒読み台詞や若いチャンネーとオッサンの噛み合わない会話、唐突な転調など繁田映画と通じるところは多いが、「あえて」の感じが強い繁田映画に比べるとこちら『ブキニョボキ』はもっと天然度が強く、どこへ行くのかわからないハラハラ感がある。面白いかどうかはわからないが、ハラハラしている間に終わってしまって「もう?」と思ったので、作品としては成功なんじゃないだろうか。意味はぜんぜんわからない。

『愛のセオリー』(作ったひと:伊藤徳裕)

これは問題作である。主人公は職業不詳の陰謀論マニアでコンビニでJFK暗殺に関する記事をコピーしていたらふんわり系の女子高生っぽい人(なんでふんわり系女子ばかり連れてくるんだよ自主映画作家)と出会ってしまいふんわり系の死んだ母が新型ワクチンに関する重大な秘密を握っていたことから国家権力との戦いに巻き込まれていくという壮大かつめちゃくちゃ都合のいい映画なのだが、俺の頭もすっかり老いてしまったので通例こういうキャラ設定ならば主人公が女子高生との関係の中で自らが陰謀論マニアとなったきっかけの事件(東日本大震災で親を亡くした)を見つめ直し陰謀論を卒業する…とこのような展開になるだろうと思いきや、ここは我々が普段住む世界ではなく『第四世界』である。

陰謀論マニアが陰謀論を卒業することはまったくなくむしろ女子高生との出会いによって彼は陰謀論の正しさを確信し国家権力と戦うことになるのだが、その戦いは吉祥寺周辺を国家権力の書いた手書きの手紙の指示通りに時間内に走って回るという…急になんかものすごいスケールのちっちゃい『ミッション:インポッシブル』みたいになっちゃった! 主人公の名前が来栖トムってその伏線だったの!? こう、なんというか、いろいろな意味でドキドキさせられる。ふざけたところがなくてすごく真面目に撮ってるので本気感がハンパない。ある意味本家『ミッション:インポッシブル』よりもサスペンスフルな映画体験だった。

『ベジタブルバスケット』(作ったひと:蔵岡登志美)

初日の上映作の中ではいちばんちゃんとした映画で5分程度の短編なのだが台詞はすべて手話と筆談という実験的構成、そのため最初の方はなにをやっているのかよくわからないのだが、見ているうちにこれがろう者の日常をスケッチ的に切り取ったものであることがわかってくる。発話をしないというだけで見知った光景も別のものに変貌する面白さと、変貌した世界が実は見知った日常世界と同じものだったと分かる、その二重の面白さ。ラストにはこの映画を作るきっかけとなったというろう者の店主が営む八百屋さんも出てきて、短いながらも豊かな世界が広がっておりました。

『愛惨惨』(作った人:二階堂方舟)

イベンターである二階堂方舟さんの監督作なのだが上映作品一覧を見ていたら毎日二階堂さんの映画やるじゃん。おい! これちょっとした二階堂方舟映画祭だろ! 映画祭の私物化! …というのは冗談ですから気にしないでくださいですが(たぶん足りないコマを埋める形でこうなったんだろう)、なにやら穏やかではないタイトルに反して内容は友人女子に超能力があるんじゃないかと疑う恋する女子学生とその友人がカフェで恋バナをするだけという他愛のないもの。友人に超能力があるかどうか試すために透視検査で使う例のカードを主人公がおもむろに取り出したときには笑ってしまった。本当にカフェで恋バナしてるだけなのでそう面白い話ではないが、モテないそして見た目も冴えない女子学生の恋バナというのは案外ありそうであんまりないので、なんか新鮮でよかった。

『6分間の片思い』(作った人:健道虎吉)

エンドロールの曲目リストを見たらなんか不安になったが大丈夫なんだろうか。大丈夫ですね大丈夫ということにしておこう。えー、気を取り直しまして内容の話に移りますが平成! ごっつ平成! めちゃくちゃ平成感覚のオカマバー会話劇! ゲイバーとはちょっと文化が違うんだよなオカマバーなんだよな、本人たちもそう自称してるし。どんだけー! の世界っていうかさ。エグい下ネタがもうバリバリ。そのダーティトークにノれるかノれないかがすべてとも言えるが終盤はバーのママのちょっと切ない初恋話になる。その顛末もまためっちゃ平成感覚であった。

『月のきまぐれ』(作った人:杣林翔馬)

技術的にいえば初日上映作の中ではもっとも優れた俺言うところの「お金が一円もないプロ」の映画だったのでこれは映画学校に通ってる人かなんかが作ったんじゃないだろうか。とくに技術力が光っていたのは音声で、自主映画の最大の弱点は音声というほどにこれが失敗している映画は多いのだが、この映画はそんなことなし、極めてクリアに音声を拾えていた。演技もしっかりつけていてテレビドラマの一場面と言われればへーそうなんだと思ってしまいそうな程度の説得力はある。まさしく「お金が一円もないプロ」の作品である。

ただ面白くない。会社をクビになった男に社長の娘が話しかけてきて仲良くなる(そういうパターン多すぎないか自主映画!)というだけのプロットはいくらなんでももう少し捻りようがあったんじゃないかと思う。台詞も良く言えば自然な感じに欠けていると言えるが、それは裏を返せば個性的な台詞が作れていないということで、総じて撮影技術力の高さにシナリオの技術力が伴っていない印象を受ける映画だった。

雑感

自主映画を観るたのしみというのはなんといっても商業映画にはできない表現が出てくるところにある、と個人的には思う。そういう意味でとにかく数を集めて自主映画を流しまくる試みは面白いし、今日観た6本も出来不出来の差があまりにも激しいのでそもそも比較が無意味という感じで、世の中いろんな人がいるな~とか思いながら楽しく観ることができた。今日だけじゃなく明日明後日とそれから木曜日も変な映画満載な気がするので行けるなら観に行きたいんすけどね(いや本当に)

作品の感想とは別に映画祭絡みの感想をいうと、なんかチラシ見たら日程と上映作品は載ってたんですけど各プログラムのトータル上映時間が載ってなくて、何分間自主映画の異世界に呑み込まれるのかわからない。あらすじも載ってないのでこれはあえて闇鍋的なものを狙ったのかもしれないですけど、うーん、やっぱ普通にトータル上映時間と各作のあらすじはチラシか公式サイトのどっちかに超わかりやすく載せた方がいいと思います…。

いや、あらすじはともかくさ、これ上映開始が20:15で、しかも場所が横浜の黄金町っていうわりとなんというかディープなところじゃないですか。これは俺の場合なんですけど家からそこまで何本か乗り換えて1時間40分ぐらいかかるんですよ電車で。そしたら終電がやっぱり心配。上映後に監督たちの舞台挨拶もあったようなんですけどそれは見ないで上映終了後すぐ映画館を出て、それでも終電一本前ぐらいでギリギリ帰れたってぐらいだから、興味はあるけど場所と時間がな~っていう人は俺以外にもいたんじゃないかなって思う。もうその時間になると黄金町の駅から横浜方面の電車なんてポンポン出ないしね。

やっぱ変な映画ってたくさんのお客さんと一緒に観たほうが楽しいと思うんで、まだ終わってませんが次回開催あるならそのへんをなんとかしてもらえますと一観客としては助かりますって感じすかね。とりあえず、そんな感じです。9/8(金)までやってますので気になる人はぜひどーぞ。

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