カナザワ映画祭2023を振り返る記事(映画感想たっぷり12本)

振り返るといっても三日間開催のうち俺は一日目の途中から参加して二日目の途中で引き上げてしまったのでこれはあくまでも俺が観た行った範囲で振り返るという記事とご理解くださいしたねはい理解したねしたことにして話を続けますがいやー公式サイトのタイムテーブルを見ておっ今年は上映間隔に余裕があるなラッキーとか思った俺が甘かったよ! カナザワ映画祭といえば作品間の休憩時間がF-ZEROのタイムアタックでもやってんのかというほどに切り詰められており観客は朝から晩まで休む暇なく映画漬け、全作制覇しようと思えば飯などとても食っていられないというスパルタンな映画祭である。ところが今回は会場(金沢21世紀美術館)の都合か上映作品間の休憩時間が予定上は各20分。おいおい急げば休憩時間で近くのマックまで行けちゃうんじゃないのという優雅なタイムスケジュールだったんである。あくまでも予定上は。

それが机上の空論に過ぎなかったことは俺の金沢2023二本目の鑑賞作品にあたる『リプライズ』で早くも発覚、これは短編プログラムの一本目の上映作品だったのだが、短編プログラムというから休憩とかなく一気に上映するのだと思いきや『リプライズ』の上映が終わると場内の明かりが点きなにやらゴソゴソとスクリーン前で準備が始まる。そこでそういえば監督のオンライン舞台挨拶があるとか書いてあったなと気付くわけだがいや普通こういうのってプログラムの全作品上映が終わってからやらない? 短編一本上映するごとに準備して舞台挨拶して撤収してまた上映ってやってると効率だいぶ悪くない?

というわけで時間は押しまくり各20分あったはずの上映時間は一日目に限って言えば最短5分にまで削られた。疲れた。どっと疲れたよ一日目は…まともな睡眠など取れない高速バスに前日仕事終わりから直で乗り込み早朝金沢に入っているので睡眠時間約二時間、とりあえず金沢市内の名湯であるスーパー温泉「和おんの湯」に一時間半入り浸って疲労を回復したとはいえ映画鑑賞のコンディションとしてはかなり厳しく、そのうえでカナザワ名物の鬼スケジュール。頭痛薬および自律神経発作薬の逐次投入で乗り切ったがそんなドーピングをしないと乗り切れないとはなんという映画祭かと思う。

とはいえこのDIY精神と即興性によるアットホームなライブ感がカナザワ映画館の楽しいところ、野外上映とかやると商業的に完成された映画祭みたいに会場までの丁寧な案内とかないもんなここ。自分で探してこっちで合ってるのかな~? そんな気配全然ないけどな~? とか不安になりながらそれっぽい人に「あの~野外上映ってこっちで合ってますか?」と聞いたりして辿り着くっていうね。で辿り着いたら映写トラブルで一時間上映遅れてるとかね。そういう感じなんですよここ。ハードだけどゆるいっていう独特の空気があって、参加者が自分から積極的に求めれば多くのもの(※おもに映画)が得られるけど、求めなければそれなりの体験しか得られない。だから一から十まで運営側がお膳立てしてくれる大きな映画祭のようなものを期待して行くと結構腹立ったりするんじゃないかと思うんですけど、そういう場なんだってわかって行くと、逆に大きな映画祭にはないものがたくさんあって楽しいんですよね。

つーことで前置き長くなりましたが今回観てきた長編短編合わせて計12本の本邦おそらく初公開映画の短い感想。カナザワ映画祭ってこれまでは埋もれた傑作とかカルト作を中心に上映してきましたけど数年前から傾向変わってきて新人発掘目的で邦画自主映画のコンペを主軸とするようになった。今回はその対象を海外まで拡大したので(こちらは商業映画も対象)、関連上映企画「タテマチ屋上映画祭」で上映された『シェフ 三つ星フードトランクはじめました』を除いて洋画邦画すべての上映作が新作かつ新人監督の作。そこんところ踏まえた上でどうぞ。

※なおタテマチ屋上映画祭でプレミア上映されたカナザワ映画祭スカラシップ作品『地獄のSE』の感想は田舎は平和すぎて天国の地獄だ映画『地獄のSE』感想文にあります。

長編

『蝉時雨』 Song of the Cicada

アメリカって田舎に葬儀屋っていうのがあるじゃないですか。日本だったら死体が出りゃとりあえず警察に病院にとかなるんでしょうけどアメリカ映画観てると葬儀屋に死体安置してそこで防腐処理とか死化粧とかなんかそういうのやったりする。だから死体と住民の距離がアメリカの田舎って近いよね。その近さから『ファンタズム』とか『ペット・セメタリー』とかああいう映画の発想が出てくるんじゃないかなって思うんですけど。

でこれはその葬儀屋さんのドキュメンタリーで都会に暮らしているとほとんど目にする機会のない人間の死というものが実はわれわれのごく身近に本来はあるもので恐れたり嫌悪したりする必要はないんだよとそのお仕事をする姿を通して現代社会における人間と死体の関わり方の再考を促すような映画、と思われるのだがほとんど寝ていたのでよくわからないすいません。

『コール・オブ・ジ・アンシーン』 Call of the Unseen

タイトルでピンとくる人はピンとくると思うんですがクトゥルーもの。ただしクトゥルーものといってもホラーではなく、駆け出し画家が異界の呼び声に吸い寄せられて失踪した先輩画家を追いながら様々な異形と出会い、その経験を通して画家として人間として成長していくというなんとこれはクトゥルー・ファンタジーである。不気味なものは頻出するもホラー演出はなく、ラストもきっちりハッピーエンドで、原作クレジットがあるわけではないから厳密にはクトゥルーものではないのだが、こんなにハッピーなクトゥルーものが今までにあっただろうかと目から鱗。

世界観も独特で一言で言えばウェス・アンダーソン系ということになろうが、パステルカラーを基調としたオモチャ的で非現実的な色彩、ファッションショーみたいな実用性は全然ないが見栄えはすごい衣装(あとヘアスタイル)、レトロフューチャーなコンピューターや電話のデザイン…とこれまたクトゥルーものとは思えぬ映像世界、そこにギレルモ・デル・トロ的なファンタジーやカフカ的な不条理、テリー・ギリアム的なユーモアも少しだけ入ってくる。

好みは分かれそうだがきわめてユニークな映画であることは間違いなく、これ今後日本でも一般公開されるんじゃないかな。

『キック・ミー 怒りのカンザス』 KICK ME

映画というのはやはり学びがあるものですね。アメリカのカンザスシティという街は州をまたがって位置しており、ミズーリ州側のカンザスシティはなんというか身も蓋もなく言えばお金があり発達していて、一方KCKの通称で知られるカンザス州側のカンザスシティはお金がなく荒廃しているらしい。この映画の主人公である人の良い高校の校長先生は目を掛けている生徒のために彼の住むKCKに入るのだが、そこで主人公を待っていたのは異常な人々と異常な状況、KCK地獄巡りであった…。

途中で寝たので後半の展開がよくわからないとはいえテンポ良く繰り広げられる異常景と無自覚に状況を悪化させてしまう主人公の姿に大笑いできる映画でたいへん面白かったのだが、監督舞台挨拶でこの映画がKCK在住の監督の見聞に基づいて制作された愛するKCKへのラブレター兼観光振興映画だったと知り腹抱えた。こんな笑えるけど怖い映画観たら誰もKCK行かなくなるよ! 「みなさんが観たのはKCKの夜の風景で昼間はもっとマシですよ」とは監督の弁だが、いやはや…みなさんカンザスシティ集合と仕事で言われてもくれぐれもカンザスシティだからカンザスだろと早合点してKCKに入ったりしないでくださいね! ちなみにこの映画、たぶん来年の日本一般公開が決定しているそうです。

『アデュー、ゴダール』 Adieu GODARD

エロビデオ鑑賞が趣味のインド僻地の貧乏老人が間違って(?)ビデオ屋に渡されたゴダールの『勝手にしやがれ』を観たことでゴダールにハマってしまい村でゴダール映画祭(無許可)を開催しようとするというあらすじが反則級に面白かったので半ば出オチのバカバカしいコメディと思いきや結構いや相当ハードなインド社会風刺映画であり、インド社会の構造的なミソジニーをゴダール映画のフィルターを通して炙り出しつつ、ゴダール映画に感化されたかのような変則的な構成で観客を混乱させるという一筋縄ではいかなさ。エロビデオ鑑賞が趣味のジジィという設定も単なるネタ振りではなく説話的オチのために用意された周到かつ辛辣なもので、あらすじから受ける印象と内容のギャップに戸惑ってしまった。それも作り手の狙いだったのだろうか。

その右翼性や男尊女卑的な側面が見事にスルーされてインド映画大作『RRR』が日本で大ヒットしている今こそ広く観られてほしい映画だが、演出は荒削りで起こる出来事の大きさに反して物語に起伏が感じられないので、まぁ映画マニアしか観ないだろう。ゴダール映画に自分と世界の変革の夢を見たエロジジィの末路に映画マニアきっと苦笑いもしくはどんより。でもあの痛切なラストは、フェリーニの『道』みたいなもので、ジジィは確かにゴダール映画で変わったのだと示す、痛ましくも希望のあるものだったのかもしれない。

短編

『リプライズ』 REPRISE

ベッドで眠る二人の女。目覚めた二人は朝セックスをしていると…実はそれは映画の撮影だった。その主演女優はなにやらハラスメント告発的なことを考えているらしいのだが…実はそれは彼女と同居している男の妄想だった。男は担当精神科医のクリニックの二階を自分の家だと思い込んでいるようなのだが実はそれは…という無限後退の物語。スマートな映像と悪夢的構成がデヴィッド・リンチを思わせるちょっとカッコいい一編。

『今昔鴉』 The Old Young Crow

今年のカナザワ映画祭海外短編部門の受賞作。実写と手描きアニメを融合した作品でイランから日本の学校に転校してきた少年がお墓で『雨月物語』を思わせる怪談に遭遇する実写ドラマと、少年が日本で体験した様々な出来事や文化を落書き調で描いたアニメパートから成る。これは見事な幻想譚。イランの文化と日本の文化が幻想と回想の中で交錯する詩的感性は素晴らしく、この監督はそのうちすごい傑作を撮るんじゃないかと思った。なんか日本留学中(早稲田)にキアロスタミ特集に通ってて思いついた話らしいです。

『身体』 KARADA

刀とSMを巡る抽象的なイメージ映像のような短編で、身体の緊縛で表現される男性教授と女子学生の力関係が、女子学生が日本刀に魅了されたことで逆転する…と書いていてもなんかよくわからないのだが。この映画はフォルムが美しくて、緊縛された身体はハンス・ベルメールの球体関節人形を思わせたし、刀はフェティッシュに切り取られる。美意識の高いアートな映画です。

『オイラーの等式』 Euler’s Identity

台詞というか台詞のトラックがなく映像に合わせてピコピコした8bit風SEが鳴りまくる変形サイレント映画。クラスに持ってけばバズり確定のグッズ(オモチャ等々)が売ってる謎の自販機にハマった女子高生か女子中学生がバズグッズを買いすぎてついには自分がフィギュア化して自販機の商品になってしまった、って『笑ゥせぇるすまん』かい。中華圏のどこかの映画のようなのだが具体的な国や地域は不明。社会風刺が込められている気がするのでどこの映画なのか気になった。まぁでも先進国どこの国もこんな感じか。バズるためにネタを買いまくっているうちに自分を見失ってみたいな。

『レトロ・ゲーマーズ』 Retro Games

オーストラリアにすごいゲームオタクがいてこの人はレトロゲームの蒐集家なのだが徹底した懐古趣味者で未だにCTRモニターにMSXみたいの繋いでゲームやってるし最新機種は持ってないと豪語、Xboxコントローラーのアナログスティックをなんだこの動かしにくいスティックはと腐してやはりこれだよねとジョイスティックを取り出す。今の統合型ゲームパッドよりも断然ジョイスティックの方が操作しやすいという。そ、そうですか…。

この人と同じくらいのマニアがたくさん集まるレトロゲームの東京ゲームショーみたいなイベントにカメラは潜入。濃いレトロゲームマニアの話をたくさん聞いて出品されたゲームの数々を見ていくというだけのあまり捻ったところのない素朴なドキュメンタリーだが、レトロゲームとそのマニアたちが画面を埋め尽くしてなんだか幸せ。

『ザ・スプレイヤー』 THE SPRAYER

ストップモーションアニメ風のCGアニメ。ナチスを思わせる死の舞台が街中の雑草を枯らしていくがあるとき一人の兵士は雑草に何かを感じて見逃してやる。その芽は少しずつ生長しやがて街中から硬いコンクリートを突き破って雑草が芽吹く。どんな圧政も民の声を完全に封じることはできず、ほんのささやかな善意の一押しさえあればいつか必ず圧政を覆す、ということだろう。これもどこの国の映画か忘れてしまったが制作国が気になる映画だな。キャラクターデザインは『JUNK HEAD』みたいな感じでサイバーだけどポップでキュート。

『USE BY YOUTH』

ジャンケンして勝った方が負けた方を殴りどちらかが倒れたらゲーム終了という謎の喧嘩ゲームが大流行中の街に言葉を話さず手を包帯で縛り付けているためジャンケンのできない最強の男がやってくる。ジャンケンができないので男は相手が「じゃ~んけ~ん――」とか呑気に言ってる間にぶん殴って全戦全勝。ありなのかと思うがそれにより男は街のジャンケン野郎たちの恐怖の的となる。

超広角の単焦点レンズとかそういう特殊なものを使ってる風の奇抜な映像やリズミカルな編集が面白く、この監督は武蔵美在学中にしてMV監督として名を馳せているらしいということでなるほど納得。変なシーンがたくさんあって楽しい映画だが少年漫画から着想したと思しきシナリオは未整理で途中結構ダレるのとクライマックスに向けてドラマが盛り上がっていかないのが難点。そのあたりもMV出身監督らしい気がする。

『闇の経絡』

東日本大震災で息子を失ったことをまだ受け入れられない女が被災地訪問で遭遇したのは威圧的な黒いピックアップトラック。どうやらこのピックアップトラックは被災地にときおり現れては遺族などをひき殺していく車の幽霊らしい…。意思を持った車が襲ってくる映画は数々あるが車の幽霊というのは初めてかどうかは知らないがかなり珍しいんじゃないだろうか。スタントチームも入ったカーチェイスシーンは自主映画ながら力が入っており、車が人をはねるショットが予算と撮影日数の問題からか入っていない点は惜しいのだが(マネキンでいいから撮っちゃえばよかったのに)、高橋洋率いる映画美学校出身の監督らしい「透明な悪意」のテーマとジャンル映画の興趣が奇抜なアイデアの下にコンパクトにまとまった、なかなか面白い佳作だった。ちなみにこれ映画美学校の修了制作だそうなのでそのうち美学校映画祭みたいなやつでも上映されると思われます。

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