MCU子供向け回帰映画『マーベルズ』感想文

《推定睡眠時間:70分》

もはや『キャプテン・マーベル』など記憶の銀河のはるか彼方でビデオ屋に墜落して先輩格の男を殴り倒した、ぐらいしか内容を覚えていない。その後もブリー・ラーソン演じるキャプテン・マーベルはアベンジャーズの幽霊部員みたいな感じでちょくちょくMCU映画に顔を出したが大抵はしかめ面でモニターかなんかに映ってるだけでこれといった活躍もせず、このまま旧アベン勢の一人としてフェイドアウトしてくんかなぐらいに思ってたので、今更続編が作られてふーんなんか知らんがMCUも勢い落ちてきたから新ヒーローじゃなくて名前の売れてるヒーロー引っ張り出して興行成績テコ入れしたかったんかな、とかつまらないことを考えてしまった。

ところですっかり銀河の果てに飛んでいってしまった一作目の記憶は冒頭で一応キャプテン・マーベルが超速回想してくれるので(それでもぶっちゃけキャプテン・マーベルがどういう状況にあるのか全然わからなかったが)いいのだが、もう一人の主人公といえるガキンチョヒーローのミズ・マーベルはMCUドラマのキャラクターだそうで、こちらはディズニープラスに入ってすらいない俺にはほぼ初見の知らない人なのだが、自己紹介などはろくにしてくれずせいぜいキャプテン・マーベルに憧れてヒーローになった女子という程度の情報しか画面から得られない。更にもう一人主役格で宇宙飛行士の女の人が出てきてキャプテン・マーベルの古くからの知人だということのようなのだが、この人に関しては名前どころか見たこともないのでまったくわからない。誰? ニック・フューリーぐらいはさすがに俺でも知っているがなんで宇宙ステーションにいるのかはわからなかった。この人いつもアベンジャーズの基地で怒ってる人じゃなかっただろうか。

その三人が謎のリングの力でスーパーパワーを共有し位置も交換できるようになったらしい。スーパーパワーを共有して位置も交換できるようになったらなんかいいことあるのだろうか。場面が変わるとどこかの星の宇宙的会議室で知らない宇宙人と知らない宇宙人が会議をしているがどっちも知らない宇宙人なので事情が飲み込めない。どうやら片方の宇宙人種族は難民になって困っておりもう片方の宇宙人種族は優越的な立場にあるらしいがそれとキャプテン・マーベルがどう繋がるのだろう? その疑問はとくに興味を惹くものでもなく、なんでもいいか最終的になんか悪いやつ倒すんだろキャプテン・マーベルと他の二人が。ということで仕事帰りで疲れていたこともあってこのへんで就寝。おやすみなさい。

まぁあれだね、これはもう映画だけ観てる人向けには完全に作られてないので俺なんか招かれざる客です。映画を楽しみたかったらディズニープラスに入ってねということでしょう。はいはい。そこまでくると映画というよりもディズニープラスの宣伝だ。映画好きが目の敵にしがちな日本のテレビドラマ劇場版だって大抵は映画だけ観ても楽しめる作りになっているというのに、天下のマーベル映画がこんなセコイ商売をするのだから、マーベル映画が落ち目というのはたぶん本当なのだろう。そのうち映画なんか作らないでドラマだけ作るようになるんじゃないだろうか。俺は別にそれでいいと思うのだが。

アクションにも特筆すべきものはないというか、今回舞台のほとんどは宇宙だし、敵もなんか規模が小さく、ビームだの巨大化だのといった見た目に派手な能力を使ったバトルではなく最終的にマーベルズの三人と悪役が殴り合いで勝負を決めてたので、その泥臭さは嫌いではないが盛り上がる感じはとくにない(因縁もよくわかんないし)。ブリー・ラーソンはかっこよくて良かったがなんかちょっとキャラ変わってる気がする。あと口から触手が出るネコが宇宙人助けのためにたくさん宇宙人食ってた。すぐ吐けば消化されないから収納に使えるらしい。ふーん。なんかそこで『キャッツ』の曲流れてたよ。ネコがたくさん出てくる場面だから『キャッツ』というこの捻りのなさ。俺この監督MCU映画に全然興味なかったと思うな。この人が前に監督したリブート版の『キャンディマン』はかなり大人向けの映画だったから、こんなのどうせガキ向けの映画だろと思って撮ったんじゃないか。

まぁMCUも今年で十何年目になるか知りませんけれども息の長いコンテンツだからやっぱ方向性はいろいろ変わります。最初は明らかにガキ向け映画だった。恥ずかしいコスプレをした大人が悪いやつを倒す映画なのだから当たり前よね。それが『キャプテン・アメリカ』シリーズあたりからちょっと変わってきて、アメリカの政治状況なんかを取り入れた大人向けを模索し始めた。それでいい歳した批評家なんかもこれはすごいと持ち上げまくった時期があったわけですよね、ええ。でも思うのだけれども、そうやって大人向けを模索して、正義とは何かとか、悪とは何かとか、アメリカが戦うべき敵とは何かとかテーマを深めるうちに、正直行き詰まっちゃったんじゃないかしら。

俺『アベンジャーズ/エンドゲーム』にかなりガッカリしたんですよ。あれはさ、サノスの問いかけに対する答えには全然なってないよね。理屈なんか無視してとにかくサノスよりも大きな力でサノスの思想を封殺するっていう、それでみんなで殉教者アイアンマンを追悼して神格化するっていう、MCUが大人路線で探求してきた正義論からすればこれは大幅な後退だと思う。で実際それ以降MCU大人路線やんなくなっちゃったんだよな。ただし『エターナルズ』は例外で、ここでは新たな宇宙を作るために古い宇宙を破壊することは許されるのかという哲学的な難問がテーマに据えられてた。この宇宙は素晴らしいから勝手に破壊するのは許されないと感情的には傾いてしまいがちですが、素晴らしい今の宇宙もまた素晴らしかったかもしれない前の宇宙を破壊して誕生したわけだから、その出自からいって自分たちだけ生き残りを主張する権利なんてあるんだろうか?

『エターナルズ』はそうした、俺が思うにMCU最大の挑戦と言えるほどの大きな問いを投げかけつつも、それに答えは出さず、宇宙の破壊と誕生を一旦「凍結」するという形で幕を閉じた。その答えによって大きな犠牲の避けられない、だから答えが出せない問いは、そうとでもするしかない。場当たり的な解決をするぐらいならたとえ根本的な解決にはならなくても問題を先延ばしにした方がいい。この幕引きには巧いものだなと思った一方で、その後とくにMCU映画で『エターナルズ』の物語に進展が見られないことから、ここがおそらくMCU大人路線の終着点なのだと俺は思ってる。それ以上のテーマの深化はたかだかハリウッドの脚本家や監督の手によっては不可能だろう。

こうしてMCUの大人路線は少なくとも今のところ放棄され、この『マーベルズ』となると難しいことなく宇宙に住む正義のヒーローが宇宙のどっかの悪いやつを倒してちゃんちゃんよかったねの勧善懲悪おとぎ話、一気にキッズ向け映画と化してしまったが、そもそも大人路線の時期が異常だったわけで、MCU映画なんか別にこんな単純なキッズ映画でいいんじゃないかと俺としては思ったりする。だってさ、今ほらイスラエルがパレスチナのガザ地区に侵攻して、イスラエルはあくまでもハマスの戦闘員をピンポイントで殺害してるんだなんて主張してますけど、空爆しまくってパレスチナの子供の死体が山になってるような状況なんだから、そりゃ殺された何割かはハマスの戦闘員だとしても全員がそうだなんて主張は完璧に破綻してるよね。ってことはこれはパレスチナの民間人を殺しまくってる戦争犯罪だ。

でも、イスラエルに巨額の軍事費を供出して、イスラエルと対立していてハマスの後ろ盾になってるイランの攻撃からイスラエルを守るために空母を近海に派遣してるアメリカの、こともあろうに大統領ともあろう人が「私はシオニストだ」とか「ハマス管轄下にあるガザの保健省により死者数発表は疑わしい」なんて、パレスチナ人に対する差別心丸出しの発言をして、イスラエルの戦争犯罪を見て見ぬ振りしてしまう。国連安保理で停戦決議案、休戦決議案も出されたが、いずれもアメリカとイギリスが拒否権を発動して、こうなるとむしろアメリカはイスラエルの戦争犯罪――ガザ地区の民間人に対する直接的な攻撃・殺害と、補給路の封鎖によるガザへの生活物資の供給停止による間接的・集団的な殺害、要するに虐殺――に積極的に加担していることになる。

そんな時代にあってアメリカ人のヒーローが悪を倒す物語をいったいどのようにしたら無邪気に楽しめるだろう。ま、その答えはわかってるんですが。つまり、現実的な要素を可能な限り希薄にして、あくまでもガキ向けの寓話にすることだ。だからこの映画はストーリーはほとんど理解することができなかったが、とくに難しいことも考えずに素直に楽しめた。これでいいんだと思う。もう今後、MCUはこれしかできないんだと思う。そういう意味ではMCUのマイルストーンのような映画かもしれないなこれは。なんかこっからまたキャプテン・マーベル中心に新アベンジャーズみたいの結成する流れになるっぽいし。もう誰も知らないけどね。

【ママー!これ買ってー!】

およそ8年間にわたりおねだりし続けたこのコーナーですがAmazonのアソシエイトプログラムが画像を提供してくれなくなったので今回でとりあえず終了することにします。テキストリンクはできるので今後は文中に関連作など出てくればそこにAmazonのリンクを貼ると思われますのでよろしく。

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okaka
okaka
2023年11月13日 10:47 PM

キャプテンマーベルの、他国の政治に介入してその国を滅茶苦茶にした過去→アメリカの自己批判的描写ですが現在起きてる問題と色々重なってしまうので、今エンタメでやるにはあまりにセンシティブなのかもしれませんね。全体的に軽いノリの映画にして良かったのかもと思いました。しばらくはマルチバースでわちゃわちゃぶん殴り合ってた方がみんな幸せなのかな…。作品自体はさくっと見れて面白かったですが、ドラマの劇場版なのはほんとにそうですね!ディズニーのやりくち笑。

匿名さん
匿名さん
2023年11月15日 7:06 PM

まさか『ママー!これ買ってー!』の終焉を見るとは…
お疲れ様でした…