軽妙アメリカリベラル映画『僕らの世界が交わるまで』感想文

《推定睡眠時間:30分》

金曜夜の仕事終わりはやはり同日封切りのジャンル映画でも一本観てから家に帰りたいものだが、最近は俺が仕事終わりに行ける21時過ぎから観られる封切りジャンル映画がなんか上映時間の長いものばかりで、間に合う時間から始まる映画は観終わった頃には終電が過ぎており、終映時刻が終電に間に合う回には映画が始まるまでに劇場にたどり着けないというケースが多発しており、まことに遺憾である。

ということで本当なら今日2024年1月19日きんようび封切りなので話題の『ゴールデンカムイ』の実写映画版を観たかったのだがこれを前述の問題により断念、なにか仕事終わりで観られる封切り映画はないかなと探していたら一件だけヒットしたのがこの映画『僕らの世界が交わるまで』であった。アクションとかホラーとかのジャンル映画ではなくヒューマンドラマだが、上映時間が潔く88分。そのため映画を観終わってもあまりにも終電余裕。映画は短ければいいというものでもないだろうが、金曜夜に映画館でかける映画なら長いよりも短い方がいいので、その点とてもありがたい『僕らの世界が交わるまで』なのであった。

内容的にははっきり申し上げてどうでもよい。DV被害者のシェルターを運営する母親ジュリアン・ムーアと自称人気ライバーの反抗期息子16歳がそれぞれ思いがけないところからお互いの距離を縮めていくというものだが、A24映画らしいミニマルなドラマなのでこれといった事件も起きず大きな悩みもなく印象的なショットもなく、なんとなくありそうなアメリカの都会の今を軽いユーモアを交えて切り取ったスケッチのようなもの。88分の映画ならばそんなものかもしれないが、それにしたって何も起きなさすぎるような気もしないでもない。

強いリベラル志向が見られるのもこの映画の特徴だがそれで別に映画が面白くなるわけでもないというか、むしろ俺は思弁よりも行動を重視するアメリカのアクティヴィズム的リベラリズムには思弁を重視するヨーロッパ的なリベラルの立場から否定的な方だし、イスラエル・ハマス戦争においてリベラルの民主党バイデン政権が積極的にイスラエルの戦争継続を支持している点、およびそうした自国の現状に対してアメリカのリベラルメディアやリベラル言論人が目立ったカウンター運動を起こしていない点に大いに失望したので、アメリカのリベラルたちはこんなに人権擁護や環境保護に熱心なんですよ(※息子16歳が惚れた同級生はリベラル政治活動に熱心だったので息子も彼女を理解すべくアメリカ・リベラル思想に染まっていくという『いちご白書』みたいな展開)みたいなのを今このタイミングで観ても白けるばかりだ。まぁ2022年の映画だからこれに関しては映画が悪いわけではないのだが。

監督は役者のジェシー・アイゼンバーグでこれが初監督とのこと。演出にこれといった特徴はないが職人的な軽妙タッチは見やすくて良いしなにより上映時間88分、これはやはり再度強調しておくべきだろう。88分! 88分の映画で30分も寝るなよと思うがやはり金曜夜の仕事終わりは疲れているし…そういう意味ではちょうどいい映画だったかもしれないな。とくに深刻になることもなくとくに面白くなることもなくふわっとさらっとアメリカの(都会の)リベラルの日常を映し出す。疲れた脳にやさしい仕事終わり向け映画であった。

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