B級貫徹映画『ザ・ガーディアン/守護者』感想文

《推定睡眠時間:15分》

メジャー資本の大作映画は上映時間が長くなるというのはわりあいどこの国にも昔から見られる現象なのである程度は仕方がないと諦めるがそれにしても最近の韓国映画はハリウッド映画と肩を並べてみんな上映時間がやたら長い。正確には日本に輸入されて大規模に公開される韓国のメジャー娯楽映画は、と言うべきだろうが、2時間に収まる映画の方があくまでも体感ではあるが珍しいというぐらいで、アート映画とかドキュメンタリー映画なら10時間でも観られるが娯楽映画ならサクッと観たいというタイプの俺は、無駄に長いアメコミ映画も最近は観なくなってしまったのと同様に、韓国映画もなんかあんまり興味なくなってきてしまった。

そんな中で彗星の如く俺の眼前に現れ世間的には全然話題になっていないのがこの『ザ・ガーディアン』というタイトルからしてB級丸出しにも程がある上映時間98分の映画であった。98分! なにもポンポさん的な映画90分信者というわけではないが日本に入ってくる他の韓国映画が軒並み2時間超え当たり前という中で98分はやはりハートに響いてしまう。監督・脚本・主演はチョン・ウソンというわけでそう言われてもパッとどんな映画に出ていた人か浮かばなかったのだが(のちに『グッド・バッド・ウィアード』の良いヤツだったことが判明)韓国役者の監督業進出作といえばイ・ジョンジェの『ハント』があまりにも激アツだったことが記憶に新しく、ウソンもこの映画にジョンジェのライバル役で出ていたことだし、これはきっと今の俺が求めている韓国映画であろう。

はたしてその通りの韓国映画であった。韓国映画というか、求めていた娯楽映画だった。主人公は10年ぐらい臭い飯を食って出所したばかりの韓国マフィア構成員、前のカミさんとの間にいつのまにか出来ていた子供を見て俺もカタギになんなきゃなとか思うが、義理立てで兄弟分に会いに行ったらそいつらは不動産業で表社会に出てきていて良いご身分。それはまぁいい、勝手にしろなのだが、不動産グループの頭目に成り上がった兄貴分の右腕にして主人公の弟分であった小物感満載のホテル支配人がこのままではあいつが俺のポジションを奪うのではと邪推したり兄貴は主人公を煙たがってるのではとか勝手に忖度したりし、配下の地上げ殺し屋に主人公殺害を依頼。かくして一度は暴力の世界から足を洗おうとした主人公は再び暴力の世界に絡め取られていくのであった。

うむ。これは…これはとてもベタな映画だ! すごく何度も何度も観た気がするストーリーとかキャラ設定だ! とはいえハリウッドB級映画的なベタはこの映画に限らず韓国娯楽映画のお家芸といってもいい。最近のメジャーな韓国娯楽映画は『非常宣言』とか『デシベル』とかその典型だという気がしたが、ひとつひとつはベタな要素をミルフィーユみたいに何重にも重ね、パニック映画のベタとアクション映画のベタとサスペンス映画のベタとホラー映画のベタという感じでベタかけるベタでベタベタにすることでオモシロ度数を観ていると疲れてくるぐらい爆上げする手法を取りがちである。ベタとは王道であり王道とかみんなが好きなものなので、こうして韓国娯楽映画は世界に売れるコンテンツとなったわけである(火付け役はまた違いますがね)。

そうした今のメジャーな韓国娯楽映画のトレンドを考えればこの映画『ザ・ガーディアン』はとても単純で人によっては物足りない映画である。なにせここにはベタが一つしかないのだ。ジャンル違いのベタを無理くりドッキングさせることで様々なジャンルを横断することもなく、ベタを別のベタで上塗りすることでそんな無茶なというびっくりどんでん返し展開に持っていくこともない。ヤクザ/ギャングものB級アクションのベタそれ一つを貫徹する。それがこの映画というわけで昨今のベタベタ韓国娯楽映画に胃がお疲れ気味の俺としてはこれはとても好ましいものと映った。

なにも単に観るのが楽だからということじゃないぞ。そりゃあそれも当然ながらありますけれども、なんかこういう一つのことだけをちゃんとやる映画っていうのが潔くて好きなんですよ俺は。人間だってそうじゃないですか。いろんなジャンルに手を伸ばしてあれもできますこれもできますなんて人はデヴィッド・リンチやジョン・カーペンターのような例外もあるとはいえ大抵の場合は信用できないもので、それに比べれば一つのことしかできないとしてもその一つのことを極める職人さんというのはやはり人間として信頼できる気がするってなもんです。

無邪気に笑いながら人を殺す狂犬殺し屋男と爆弾作りが趣味の女のカップルのこの…この…前にもどっかで観たな感! ウソンのちょっとトム・クルーズに似てきた無表情横顔に漂う色気のこの…この…B級臭! イイんだよ、こういうベタな映画はイイ。ベタだベタだとさっきから言っているがベタに甘えた映画ということもなく、ヤクザ/ギャングもののB級アクションのベタという枠組みの中で、高級車をマックスターンさせて裏社会のモブたちを薙ぎ倒していく意表を突くカーアクションであるとか、改造して連射できるようにしたネイルガン・ライフル、ガチャポンのケースの中に爆薬を仕込んだお手製手榴弾であるとか、そうそうあと懐中電灯にナイフを巻いて暗闇の中でウソンが連続ギャング殺傷事件を起こすシーンね! ナイフの先から伸びた光線が暗闇の中で乱舞してライトセーバーみたいに見えるんだよ! かっこよかったなあれ。そういう映画を面白くする工夫は地味に結構している。そこがまたシビれるんだよなぁ。大仕掛けじゃなくてディテールで魅せる映画っていうね。

『非常宣言』や『デシベル』を観たときにはいろいろ派手なことはやっているがその代償としてディテールが蔑ろにされていてガッカリしたもの。しかし、日本にあまり入ってこないというだけで、こういう風に地味だが細部に拘って丁寧に作られたB級映画というのもちゃんと韓国娯楽映画界にはしっかりあるのだ。イ・ジョンジェの監督としての力量はすごかったが、チョン・ウソンもまたそれとは別の方向で確かな力量を持つ映画監督だということがわかる『ザ・ガーディアン』、よき韓国B級娯楽映画でございました!

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