《推定睡眠時間:60分》
主人公の名前がグレイ・アリスだったのでお前らええ加減にせぇよと思ってしまった。この主人公を演じるのはミラ・ジョヴォヴィッチ、監督はその夫ポール・W・S・アンダーソンだが、アリスといえば二人の初コンビ作『バイオハザード』の映画オリジナル主人公の名前であった。題材が『モンスターハンター』でも主人公に妻ジョヴォヴィッチを立てる愛妻家ポールとはいえ二人が出会うきっかけとなったアリスの名前まで使い回すのはさすがに妻大好きが過ぎないか……いやまぁ原作ものだから原作の主人公がグレイ・アリスだったのかもしれないが、しかしこの夫婦ならやりかねないと思わせるポール&ジョヴォヴィッチ、ということでハリウッドきってのおしどり夫婦のまたお前らか的な『ロストランズ 闇を狩る者』である(ちなみにこのグレイ・アリスは魔女という設定なのだがミラ・ジョヴォヴィッチはリブート版『ヘルボーイ』でも魔女役をやっていたのでそこも「またかよ!」と思わされるところだ)
舞台は文明崩壊後の近未来……か? どういうあれかわからないがこのポストアポカリプス世界では封建制とともに魔法が復活していてネオ中世ヨーロッパと化しているらしい。主人公のアリスは魔女は悪いに違いないということであわや処刑されるところだったが魔女パワーで危機を脱し酒場でコワモテの無頼漢ボイス(デイヴ・バウティスタ)と出会う。それからなんかいろいろあって王様の願いだかなんだかを叶えるために魔物蠢く危険ゾーンに入っていったりするらしいがすいませんもうこのへんで早くも寝ているのでよくわかりませんでした。とはいえまぁ、テイスト的にはそういう感じである。
こうあらすじを書けばポール&ジョヴォヴィッチの前作『モンスターハンター』と同じやないかと思ってしまうのだが実際に観ると印象はだいぶ違う。なんかダークなのである。ポールの作風はもともと明るいよりはダーク寄り・ホラー寄りだが、根本の世界観は健全というか、欲にまみれていたり性格がねじくれていたりするキャラクターは出てこなくてみんな真っ直ぐなところがあった。ところが今回の『ロストランズ』は狂っていたり欲得ずくのキャラばかりが出てきて王座を巡る権謀術数と殺し合いも描かれる。ここらへん原作が『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョージ・R・R・マーティンだからなんだろうが、そのためにいつものなんだかんだ元気で明るいポール&ジョヴォヴィッチ作品を期待するとわりと面食らう感じである。
おそらくポールとしてはこの映画、結構な野心作だったんじゃないだろうか。今までの自作にはないオトナの世界にチャレンジしたというのもあるし、映像面でもソフトフォーカスとハイコントラスト、ハレーションの多用(ていうかハレーションしてない光源なかったと思う)とセピアに近いカラーグレーディングによって『シン・シティ』や『スリーハンドレッド』のようなグラフィック・ノベル映画に近い、眩暈を覚えるような幻想的な画面を作り出しているのだ。はっきり言ってあんまりおもしろくない。かなり寝ているのにおもしろくないと断言してしまうのもどうかと思うが少なくとも『バイオハザード』とか『モンスターハンター』的な意味ではおもしろくないのだが、ただこうした新機軸によって存外見応えのあるそれなりに重厚な作品にはなっていて、とくにポストアポカリプス的な朽ちた金属建築と中世ヨーロッパの美意識がイビツに融合した美術はすばらしい、これは陶酔的であった。陶酔的だから気持ちよくなって眠ってしまったのだ。
今では誰も覚えていないと思うが元々ポールはプレ『トレインスポッティング』と言えなくもないスタイリッシュ近未来若者犯罪群像劇『ショッピング』で映画監督デビューしたビジュアル派の監督である。『バイオハザード』の商業的大成功によってポールのそうした面はまったく評価されないってかそれ以前に意識されなくなってしまったが、やろうと思えばこれぐらいの見事な映像は作れるんだよなこの人は、それも比較的低予算で。ということでおもしろいかどうかはともかくポールの映像作家としての底力を思い知らされる作品になっていたのではないでしょーか『ロストランズ』は。
ただあれだなミラジョが思ったよりアクションをしないのはなんなんですか、年齢的なものと言うにはまだかなり若くないですか。なんだろう撮影してるとき体調悪かったのかな。その点はやはりマイナスだし(だってミラジョがかっこよく悪いやつをやっつけるの観たいじゃん……)その相棒のバウティスタも思ったより活躍しない、というかこれはバディもののアドベンチャーというよりもお話の主軸は王座を巡る権力闘争にあるのであって、そのために尺の都合上ミラ&バウティスタの超おもしろコンビが躍動する余地がなくなってしまったように見える。短編小説とはいえ原作はジョージ・R・R・マーティン、ということでその壮大重厚な世界を100分の上映時間にまとめるのは少し無理があったのかもしれない。いまどき映画をきっちり100分でまとめるポールの姿勢はまことに立派だとは思うけれども、100分でやるなら権力闘争かポストアポカリプス大冒険のどっちか一方にシナリオを絞った方がよかったかもしんないね。もちろん俺の希望は完全に後者。DVDが出るならエクステンデッド版みたいな感じでミラ&バウティスタの大冒険を増量したバージョンを作って欲しいところです。せっかく見事に魅力的な異世界を作ったんだからもっとそれを活用してくれ!