あの頃の風景を追跡映画『万博追跡 2Kレストア版』感想文

《推定睡眠時間:45分》

なんでも歌姫ジュディ・オングが主演を張った1970年万博記念(便乗?)のこの映画、製作国の台湾でもすっかり存在が忘れられていたそうで、数年前にそれが発掘されて今回の日本公開に至ったのだとか。そんな秘宝感満載の映画とくればいったいどんなものかワクワクである。大体タイトルからしてワクワクではないか。『万博追跡』! 万博は広いからきっとジュディ・オングが万博会場を巡るだけの無味乾燥なつまらない映画なのではないだろうか。言っていることがものすごく矛盾している気もするが人から嫌われるタイプの映画好きなので一定水準を超えてつまらなそうな映画には期待に胸が膨らんでしまうのだ。

ところがショック! 万博、これほぼ関係ないね!? 映画が始まるやすぐに華麗な衣装のダンサーたちによる謎のダンスシーン、そしてうら若きジュディ・オングがステージで二曲披露するという豪華なのか安普請なのかわからない作りのこの映画、一言で言えばジュディ・オングの自分探しアイドル映画であった。映画内のジュディ・オングは正体不明の足長おじさんに生活費や学費を援助してもらっている苦労人という設定。足長おじさんのおかげで大学にも進学できたのだからこれは是非とも実際に会ってお礼したいし、なんでそんなに自分に良くしてくれるのかも当然気になるところだ。

そんなおり、ジュディ・オングは応募していたEXPO’70の中華民国パビリオン(中国が独立国として認めていない都合、現在では台湾は中華民国名義で万博にパビリオンを出すことはできないが、この頃は中華民国として参加できていたらしい)のコンパニオン・ガールに採用される。謎の足長おじさんはどうやら日本にいるらしい……というわけで万博でコンパニオン・ガールを務める傍ら、ジュディ・オングは足長おじさんを探すことにする。日本といっても案外広い気がするがいったいどうやって探すのだろうと思ったが正面突破の正攻法であった。「すいません、○○さんという人を知りませんか?」ジュディ・オングは万博をてくてく歩きながら道行く日本人に片っ端から聞いてみるのである。何をバカな、いくらなんでもそんな愚直な方法で……「あぁ、その人なら奈良にいますよ」見つかった!!! 奈良にいるという情報もまた漠然とし過ぎている気がするが、さすが日本人の約半数が訪れたという70年万博、誰かしらは謎の足長おじさんを知っているものである!

ということでジュディ・オングは足長おじさんを求めて奈良へ京都へ、って早くも万博関係ないな! その後はバッテリー残量の都合で俺が自動スリープ状態に入ったので何が起こったのかはわからないが、なにやら爆発音がして目を覚ましたりしたのでおそらく日中戦争などの回想シーンと思われるが謎の足長おじさんには比較的重量級の過去があるようであった。どのような文脈かは不明だが最終的に足長おじさんと思われる人がジュディ・オングに「お前こそ……真の中国人だ……ガクッ!」とか言っていたので1970年、まだ日中戦争の記憶の残る人も日本中国台湾には大勢いた時代なのだなぁとしみじみである。

そこらへんのストーリーもちゃんと観ていれば当時と今の台湾の立ち位置の変化などを踏まえていろいろ興味深いと思うのだが、寝ていた俺にとってはゲリラ撮影だったという万博の風景の方が興味深かった。どのへんがというと和装でめかし込んでいる中高年女性などが多かったところで、男の方はだいたい背広だった気がするが、70年万博は庶民にとって冠婚葬祭の如し大イベントだったのだなぁとなる。2026年の今ではどこか行楽に行くときにビチっと服装を整えるなんてことはしない人が圧倒的多数だろうし、良い服を着ていくにしてもそのチョイスは自分にとってカッコよかったり可愛かったりというカジュアル服であることがほとんどではないかと思われるが、70年万博においてはオッサンは背広オバサンは着物と単に自分好みの服という感じではなくこうなんていうか他の人たちに失礼がないようにみたいなフォーマルな服装がチョイスされたわけである。

昨年は大阪万博がなんだかんだ盛り上がったというが、万博に行くからと正装した人はおそらく皆無に近いだろうから、盛り上がったといってもその意味合いは70年万博とは全然違うだろう。月の石が象徴するように70年万博は庶民の世界から遠かった。遠いものを見せてくれるからこそ人々は大挙して押し寄せたのではないだろうか。でも2025年万博は近かった。マスコットキャラクターのミャクミャクがゆるキャラ的に人気を博したことからしても、それは庶民の世界から遠いものを見せてくれるものではもはやなく、庶民の世界に降りてきた、ある意味では夢のない万博だったのかもしれない。夢がないからこそ、日常を潤すちょっとしたイベントとして多くの人に親しまれたのではないだろうか。

それはこの映画の主題では全然ないのだが、ともあれ70年当時の万博なり台湾なり日本なりの風景がふんだんに映し出される映画なので、この55年でそうしたものがどう変化したかいろいろ考える材料にはなる。おそらくそんなに出来の良い映画ではないとしても、年月を経れば経るほどそうした価値が高まっていくのがこれみたいな風俗映画の面白いところだなぁとか思う。ジュディ・オングのステージも見られるし。

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