心のサメを解き放て映画『デンジャラス・アニマルズ 絶望海域』感想文

《推定睡眠時間:20分》

一組のカップル未満ヤング男女が旅行先で訪れたのはなんでも鉄製の檻に入ってサメを超間近で鑑賞できるという個人営業のうらぶれたサメ観光船。なるほど、チラ見したポスターにはたしかサメが映っていたからこれはきっとサメ映画、檻に入ってサメ鑑賞してたら出られなくなっちゃって大変な『海底47m』というサメ映画もあったからあれと同じようにこちらでも檻から出られなくなってサメの餌食になるということか。などと思いながら見ていたら二人、檻の中からサメ遊泳を見て普通に船の上に戻ってきてしまった。海中から眺めるサメたちの姿は後光が差す美しさ。まぁ後光というか太陽光なのだが、これはあれだな、最初は美しいなぁと思ったサメだが何らかの海難事故に遭って二人とも海に檻なしで放り出されてもうサメ美しいとか言ってる余裕が全然なくなるとそういうパターンか……とそこでまさかの展開、なんとサメ観光船の船長が突如としてカップル未満ヤングのマッチョ男をぶっ刺したではないか!

実はこの船長の正体は連続殺人鬼、トビー・フーパーの『悪魔の沼』ではネヴィル・ブランドが殺した人をワニに食わせて処理していたが、こちらのサメ船長は殺した人をサメに食わせる人であった。ただし『悪魔の沼』のネヴィル・ブランドと違うのはこのサメに食わせる死体処理をサメ船長がビデオカメラで撮影することである。殺してしまったからサメに食わせるのではないのだ。サメに食わせるために殺しているのだ。人間がサメに食われる姿を撮影して後でそのサメ地獄ビデオをワインなんか片手にじっくり鑑賞することが趣味という実にマニアックな変態殺人鬼である。

サメ地獄スナッフビデオというネタは過去にも若くして事故死してしまったB級職人デヴィッド・R・エリスによる『シャーク・ナイト』で扱われていたが、『シャーク・ナイト』のサメ地獄スナッフビデオ制作者たちが単に金儲け目的だったのに対してこちら『デンジャラス・アニマルズ』は変態殺人鬼である。その違いは作風にも反映されているようでサメ映画かと思ったら実は連続殺人鬼映画だったというジャンル転換を見せた『シャーク・ナイト』に対して『デンジャラス・アニマルズ』はほぼ連続殺人鬼サスペンス。ときおり万引きとかしながら根無し草のように暮らしていたサーファーの主人公がこの変態殺人鬼のサメ観光船に囚われてしまい、さてどうする、逃げるにも鎖で繋がれているし鎖は外せたとしても海上だし……というかなり積んでる状況での変態殺人鬼との攻防がメインになる点で、どちらかといえば『シャーク・ナイト』よりも「海の悪いけ」こと『レイキャビク・ホエール・ウォッチング・マサカー』の方が類似点が多い映画かもしれない。

そんなわけでサメだけでも怖いのに連続殺人鬼まで! みたいなお買い得感はほとんどない。サメは単にサメなので積極的に襲ってくることもなければ空を飛んだりすることもない。あくまでも敵は人間の変態殺人鬼なのだ。たしかにサメは出てくるとはいえこれはサメ映画を期待する人にはちょっと残念に映るかもしれない。俺はといえばとくにサメ映画ファンというわけでもないので普通におもしろかった。設定が多少アホっぽい点を除けば奇を衒ったところのないオーソドックスな変態殺人鬼監禁サスペンス&バイオレンスなのだが、サメ観光船という狭い舞台をなかなか巧く活かした攻防戦は結構ハラハラ、主要登場人物も5人ぐらいしかいないのだがその使い方も巧く、愛犬を連れたジジィの出てくるタイミングとかベタながらも的確でなんか嬉しくなる。これは午後ローでたまたま見たらかなりの当たりだな。

サメ映画的には残念かもしれないと書いたがそれはサメパニック映画を想定すればという意味で、サメが出てこないわけでは全然ないのでその点はご安心いただきたい。あれはホオジロザメかな、かなりでけぇサメがね、船の上で愚かな人間どもが争ってるところに……という感じで見せ場をかっさらうんですよ。そこはちょっとカッコよかったよね。サメは人間の尺度では物事を考えませんよっていう。サメはあくまでも人間とは無関係にサメの世界に生きてサメの哲学で思考してるんですっていうのをこういう風にちゃんとやっているどうぶつ映画としてのサメ映画というのは実は珍しいのではないか……?

あと主人公の根無し草サーファーを演じたハッシー・ハリソンはジェニファー・ローレンスを更に(更に?)ヤンキー寄りにしたような風貌で野性味があってかなり好きでした。コンビニでアイスを万引きした後に知り合った男と即興でワンナイトするこの自暴自棄っぷり、観客の感情移入を拒んでいて逆に好感度高いですよね。その自暴自棄の根無し草が例のワンナイトした男との関係や変態殺人鬼との対決の中で変わっていく物語でもあるのだが、ラブストーリーとか人間ドラマに転びそうで転ばずあくまでも連続殺人鬼サスペンスに留まるところ、ラストを無駄に引き延ばさずスパッと終わってくれるところなど、なかなかどうして作り手にB級映画かくあるべしの志が見えるおもしろいサメ関連映画でありました。変態殺人鬼が放つこの台詞は明日から使っていこう。「俺はラブストーリーよりもホラーが好きだ!」

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