ダーク佐藤二朗スタンド発現映画『名無し』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ここのところ福田雄一映画とかに出てるオモシロおじさんと思われた佐藤二朗が『爆弾』では正体不明の爆弾魔を怪演し監督・脚本作の『はるヲうるひと』では売春島(いつまでかはわからないが本当にそういう場所はあったのだ)をテーマとするなどダークおじさんに開眼してきているが脚本を手掛けたこの『名無し』もその一本、見えない凶器を手に通り魔殺人を繰り返す謎の人物を自分で演じて50人ぐらい殺傷していが、『爆弾』では連続爆弾魔として取り調べを受けているため殺傷数は200を超えるのではないかと思われ、佐藤二朗はおそらく現代日本映画界でもっとも人を(スクリーンの中で)殺している人物である。もはやオモシロおじさんどころではない。

ただしその作風は少し風変わりなところがあり単なるダークおじさんでもなさそう。見えない凶器を手に……とくればなんのこっちゃと思うが、これは要するに『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドである。佐藤二朗のスタンドは一度握ったことのある? かもしくは心に思い描いた凶器を目に見えない形で具現化できるというもの。目に見えないし佐藤二朗が手を放すとその凶器は消滅するので現場の監視カメラ映像を見た刑事などは大いに困惑である。こいつ何やってんの? ていうか犯人なの? 凶器持ってないけど……。

そんな設定の上で淡々とダーク佐藤二朗の凶行が描かれ、それと並行して右手を縛った謎の浮浪児のお話も語られていくという映画なのだが、低予算&早撮りで真価を発揮する城定秀夫が監督だけあって無駄なく淡々と凄惨な暴力を見せていくあたりなかなか異様な迫力があって面白いも、全体的な印象としては内容に対してちょっとシナリオを削りすぎで、もうちょっとドラマなり人物像なり設定なりを掘り下げた方が良かったんじゃないかと思ってしまうのであった。なにせランタイムが81分である。取るに足らない普通のティーン向け恋愛映画みたいなのでもランタイム120分を超えることが珍しくなくなってきた昨今の邦画界にあって81分という思い切ったランタイムは立派な気がするが、とはいえなにも映画は短ければいいってもんでもない。

たとえば、佐藤二朗と同棲しているMEGUMIは佐藤二朗が凶行に走ったひとつの理由になったようなのだが、そのMEGUMIが具体的にどんな人物で何を思っていたのかがわからない。佐藤二朗に関してはなんとなくその人生が察せられるようにはなっているけれど、いろいろ思うところありつつも正常な世界に留まり続けた佐藤二朗が殺戮の世界に踏み出すきっかけとなったのがMEGUMIなら、そのドラマは10分ぐらいでいいから時間を使って掘り下げないと、なんだか記号的というか、人間じゃなくて単なる設定のための舞台装置となってしまうんじゃないだろうか。

もうひとつ思ったのは目に見えない凶器で人を殺すという設定があんまり生かされていないもったいなさ。目に見えない凶器での殺人が監視カメラに記録されている……という導入部から個人的に期待したのはそれどうやって立件するの? ということで、逮捕しても監視カメラには佐藤二朗が見えない凶器を振り回すパントマイムをしてる姿しか映ってないんだから、警察は佐藤二朗を逮捕してもどうにもできずに釈放する他ないんじゃないだろうか。けれどもそうはならず、佐藤二朗は単に警察に捕まらない。何も姿を消す特殊能力もあったからとかではなく単に警察に捕まらずにそこらをほっつき歩いて場当たり的に殺戮を繰り返すのである。それなら見えない凶器のスタンド設定は別にいらなかっただろう。途中で拳銃奪ったりするし。

佐藤二朗が人を殺しまくって刑事がそれを追うというたいへんシンプルな81分は50年代ノワールのような面白さもちょっとあったりするのだが、でもそれなら特殊な設定にする意味はないのだから、ここはMEGUMIのドラマを10分追加、佐藤二朗が逮捕されて警察が困る展開を10分追加、の101分にボリュームアップしていたらきっとかなり良い超能力映画とか一種のダークヒーロー映画になっていたんじゃないだろうかと思うと、これはなんだか面白いよりも惜しいという感情が先に来てしまう映画である。

ラストシーンは二通りの解釈ができるだろうが俺は二人の能力者の対決と解釈したので尚更というか……いやつまりですね、警察は佐藤二朗を逮捕する、しかし監視カメラには凶器が映ってないし目撃者も一様にこの人は何も持ってなかったと証言するので、勾留も出来ず釈放するしかない。この法律では裁けない悪をもう一人の能力者がやはり見えない凶器によって法律の外で、社会の外で、「みんな」の外で孤独に討つ……とこんなストーリー展開だったら善とはなんぞや悪とはなんぞやと考えさせられたりもしてかなりアツかったんじゃないでしょうかと思うのだが、でもそれだと『童夢』『いぬやしき』になってしまうな。まぁでも『童夢』か『いぬやしき』になったとしても面白いんならそっちのが良かったんじゃないすか?

もう一つ似たところのある映画を挙げるなら『アンブレイカブル』なのだが、これはどうも日本版『アンブレイカブル』になり損ねた野心作という感じで、まぁ、とにかく、佐藤二朗の怪演は良いし発想も面白いけど、というかそれだけにかえって、いろいろ惜しく見えてしまった気がするなぁ。

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