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昔出てた『ツイン・ピークス』のDVD-BOXはローラ・パーマーの遺影をあしらったジャケットデザインになっていてなかなか洒落ていたのだが、この『グルスポングの奇跡』のポスターも古めかしい女の人の肖像写真をデンと配置しただけのミステリアスなもので、内容はホントに一切知らないかったのだがポスターがカッコイイというそれだけの理由で観に行ったらびっくり、ドキュメンタリーなのに『ツイン・ピークス』もかくやの謎&謎、そしてクセの強すぎる怪しい人々の雨嵐でいったいなんだこれは! 感想というからには以下多少は内容に触れる感じになるが、おもしろ映画アンテナがこの時点で鬼太郎のようにピンと立った人はここで読むのをやめてなんの映画かぜんぜんわからんまま映画館に直行するが吉。たぶんなんじゃこりゃああ! ってなると思う。
さて若干のあらすじを一応書いておこう。ノルウェーに仲良し老姉妹がおった。二人はあるときスウェーデンのグルスポングという町で家を探すことになるのだが、そこで謎の霊感が働いて購入希望を申し出た売家のオーナーを見てビックリ、なんとその老婦人は遠い昔に亡くなった姉にソックリではないか。姉は○○っていう名前なんですけど……と話せばあら偶然、実は私も昔そう呼ばれてました! と老婦人。いくらなんでもこんな偶然があるものだろうかということで遺伝子検査をしたところ更にビックリ、検査および出生記録を確かめた結果、老婦人は老姉妹の亡くなった姉の双子の妹らしいのだ。今まで姉が双子だなんて聞いたこともないのだがいったい何があったのか……ということでこのスゴイ奇跡の出会いを撮ってくれと連絡を受けた監督マリア・フレドリクソンは取材に乗り出すのだが、やがて次々とガチで思いも寄らぬ事態が巻き起こるのであった。
似た感触の映画というと『虚空門GATE』になるかもしれない。UFOビリーバーに密着したこの映画は人間を描いたドキュメンタリーの傑作だと思うのだが、傑作たる理由というのは人間の信用ならなさを克明に(克明すぎて笑ってしまうほどに)捉えていたからだった。人間は信じたいものを信じる生き物だ……などと言えばなんとも手垢の付いたお説教だが、信じられない人々をカメラで撮るこの映画のこともだんだん信じられなくなってきて森達也の言う「ドキュメンタリーは嘘をつく」に到達しているので、ドキュメンタリーは真実を撮るものと一般的には理解され、ドキュメンタリーが政治的メッセージの伝達に利用されることがブームのようになってしまった昨今、こういうドキュメンタリーはまったく刺激的かつ衝撃的である。
まったくどの人も信用できない。最初は単なるイイ人と見えた老姉妹もおかしなところで神様に祈り始めたりしてだんだん少しアレな感じに見えてくるが、一方この老姉妹に姉認定された老婦人も「あの人たちはIQが低いからね。私のIQを知ったら卒倒するよ」「私は軍で中尉だったから怒りを抑制できるけれども、そうじゃなかったらあの人たちを殺していただろうね」とかクーロン黒沢のドキュメンタリーに出てきそうな発言を繰り返す怪人であることがわかってきて、笑ってしまうがわけがわからない。なによりこの人たちは自分で乞うてこのドキュメンタリーを撮らせているのだ。どうもその発言の端々からは演技がチラつき(冒頭のホームビデオじみたシーンは「人はカメラの前で演技をしてしまう」ことを仄めかすものだ)、もはやこの人たちの言う「奇跡」が本当にあったことなのかも怪しく感じられてくるという五里霧中、さながら『羅生門』の如しである。
しかしそれでは終わらない。この映画自体、観客にそう感じるように仕向けている気配が濃厚なのだ。たとえばある人物が20年も前の事件について証言するシーンがある。この証言はなかなか奇妙でミステリー小説的な好奇心をそそられるものなのだが、考えてみれば20年も前の記憶なのだし、人間の脳は古い記憶に関してはどんどん後付けで無意識に改造してしまうものなので、そういうのはぶっちゃけあんまり信用できる証言ではないだろう。けれどもこの映画はその証言の信憑性に関する補足説明を行わない。だからその証言はあたかも奇怪な真実の証言であるように感じられてしまうわけで、こうした編集上のある種のトリックは映画全編に渡って見られる。この映画を観れば劇中で描かれる出来事は謎が謎を呼ぶ奇怪な事件と見えるのだが、もしかするとそれはそう大した話でも複雑な話でもなく真実は存外シンプルな可能性もあるんである。
なんてことをやってたら取材中に家の天井照明が突然落ちてきて監督が死にそうになるという怪奇現象までカメラの前で起こってしまった。これ本当にドキュメンタリーなんですか? THQフィクションとかじゃないの? まったくわからんが、人は自分の信じたいものを信じるというあえて言うなら作品のテーマが、スクリーンを飛び出して観客も巻き込んでいるようで、もはや笑うしかなく、いやぁこれは一筋縄ではまったくいかない見事な怪作ドキュメンタリーだと思います。なにがなんだか最後までわからないが、ミステリアスでサスペンスフルでかつ気まずい人間模様に爆笑できるのですごい面白かったということだけは確か、だと思いたい。