映画『ファンタスティック・フォー』(2015)の感想と共に監督を擁護する

ハリウッドの大資本で映画を撮るっちゅーのはタイヘンですなとゆーのはテリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』(1985)に関わる諸々の製作トラブル、いわゆる「バトル・オブ・ブラジル」(ジャック・マシューズ著『バトル・オブ・ブラジル』に詳しい)でお勉強したので、『ファンタスティック・フォー』を巡る騒動についてのネット記事なんか適当に読むと、その書き方はちょっとヒドくねぇかと思ったりもする。

曰く、ジョシュ・トランクはプロ意識が足りない。
曰く、ジョシュ・トランクは人格的に問題がある。
曰く、ジョシュ・トランクは責任逃れをしているに過ぎない。

『ファンタスティック・フォー』の監督ジョシュ・トランクは前作にあたる低予算POV超能力映画のケッ作『クロニクル』(2012)の成功を受けて引き抜かれたらしいが、断片的に伝わる製作トラブルの数々は単に経験不足の一言で済ませられそうな気がしないでもない。
それをトランク自身がツイッターなんぞで不用意に呟いちゃったからバッシングを受けてんのかもしんないが、なコト言ったら「バトル・オブ・ブラジル」において配給のユニバーサルとの度重なる契約違反の末にユニバーサル批判の新聞広告まで打ったテリー・ギリアムの方がよほどヒドイ事をしている。

プロ意識の欠如? 映画屋なんだから少しでも自分の信ずるイイ映画を撮ろうとすんのは当たり前で、その過程でスタジオ側と衝突するコトだってあんだろうよ。
人格的に問題がある? じゃあポール・ヴァーホーヴェンはどうなんだ。ヴェルナー・ヘルツォークはどうなのよ。アイツら現場で危うく人殺しかけてんだぞ。
責任逃れ? ツイッターなんぞでボソボソと呟くなんて確かに女々しい(しかも該当ツイートを消している)
けれどもクレジットの削除まで要求してるワケじゃないし、ちょっと不満漏らしただけで責任逃れってのは言い過ぎじゃなかろか。

こんな話ゴマンとあるワケで、大幅な予算超過や出演者のスキャンダルに見舞われて撮影が大難航、そのうえ当初ランタイム五時間超だったのに四時間弱に再編集させられちゃったジョセフ・L・マンキウィッツの『クレオパトラ』(1963)とか、天才だったのにセンスが飛びすぎてて興行が振るわず、意に反して大幅に改変されてしまったオーソン・ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)とか、ラストが暗すぎるネェと判断されて即席のハッピーエンドに差し替えられたリドリー・スコットの『ブレードランナー』(1984)とか、そのアオリを食ってこれまたラストを含む大幅な再編集が行われるハメになった『未来世紀ブラジル』とかがパッと思いつく。

果たして、こーいったトラブル&再編集系映画の中に「やっぱり監督の判断は間違ってたな。再編集して良かった!」なんて言われる作品がどんだけあるだろか?
むしろ、後世になって悔やまれるケースがほとんどじゃないのか?

いやまぁジョシュ・トランクとオーソン・ウェルズを同列に並べるコトはできないにしてもだな、『ファンタスティック・フォー』におけるトラブルと作品の出来(ついでにソコに興行成績も絡めて)の責任を一方的にトランクに帰すような論調はどーかと思うぞ。
確かに『ファンタスティック・フォー』はワリとダメな映画だと思うが、トラブルの詳細が明らかになってない以上はその責任がトランクだけにあるのかどーかは定かではないし、んな状況で人格攻撃なんてもってのほかだっつの。

そうそう、「バトル・オブ・ブラジル」でギリアム抜きでの映画の再編集の決断を下したユニバーサル=MCA代表取締役のシド・シャインバーグがメディアに語ったのは、第一にギリアムの人格問題でありましたな。やれやれ。

と、前置きがやたらめったら長くなったが、『ファンタスティック・フォー』観てきたんで感想書く。
あらすじはアレです、ファンタスティックな科学者チームがみんなで頑張って次元転移装置を作ったら、変な異次元世界に繋がっちゃった。
そしたら科学者チームが異世界の影響でミュータントになっちゃってみんな困るっていう、そーゆーハナシです、はい。

いやそれにしてもラスト30分、なんや知らんがスゴいコトになってるな。
なんつーんだろな、なんつーか…よく映画業界内幕もの映画とかでさぁ、バカげた劇中映画が出てきたりすんじゃん、パロディとして。
『ザ・プレイヤー』(1992)の劇中劇の社会派映画(結末に爆笑)とか、テリー・ツワイゴフの『アートスクール・コンフィデンシャル』(2006)でホラー映画オタクの美大生が撮った完全オナニークソ自主ホラー映画とか、まぁなんでもいいんですが。
なんか、そういう感じのラスト30分。こんなんスーパーヒーロー映画のパロディにしか見えんわ。

ラスト30分に何が起こるかとゆーと、ファンタスティック・フォーのかつての仲間Drドゥームがジャミラ化して地球を破壊しようと画策、四人は阻止せんと戦う。
このバトルがまー盛り上がらないとゆーか、燃え男がジャミラなDrドゥームに突撃→返り討ち。透明女が突撃→返り討ち。岩男が突撃→返り討ち。ゴム男が突撃→返り討ち…ってな具合に一人一人順番にお得意の能力を適当に使って立ち向かってくワケですが、ソレがあまりにもぞんざいかつ形式的で軽くビビる。
切り替えしとかあんませんで構図もさして変化しないカメラ一台据え置きみたいな風にダラーっと撮るんで、やってるコトは派手なハズなのに躍動感とか臨場感皆無。『ゴレンジャー』のバトルシーンのがまだ迫力あんじゃないかとすら思えてくるぞ。
(こないだやった『ストレイヤーズ・クロニクル』とイイ勝負である)

かつては仲良しだったファンタスティック四人組はミューテーション後はバラバラになるが、Drドゥームとのバトルを通して絆を回復してく。
いや俺はさ、そこで四人組がDrドゥームに一度敗れると思ってたんすよ。一度は敗れて、でも岩男とかの頑張りでDrドゥームをとりあえず追い払うコトはできた。それで四人組はみんな反省すると。バラバラだからダメだったんだ、力を合わせて戦おう! みたいな。んで再戦して努力・友情・勝利ってなるのかなぁと。

この手の映画だとそーゆーラストに向けてのタメってすげー大事だと思うんだけど、でもそんなの全然無くて、この映画じゃラスト30分で急にジャミラが出てきて急に戦って急に団結して急にジャミラ倒すって展開になる。
Drドゥームと四人の関係も含めて、バトルを盛り上げそうなドラマを全く引っ張らないでこれまた形式的に(どころかセリフ一つで)処理してまうんで、静的な画も相まって盛り上がろうにも盛り上がりようが無いってゆー、なんかそーゆー感じになってんだよ。

なんだろな、映像に遥かにカネかかってなくて地味な『クロニクル』のラストバトルの方が全然アガる感じあった気がしたなぁ。
それってのは多分、そこに至るまでのサイキック少年たちの葛藤と相克のドラマをちゃんとやってたからだろうし、POVをフルに生かしたスマホカメラやら監視カメラ映像やらの多様な視点の導入っていう、画的な面白味もあったからだろうと思う。
『AKIRA』(1988)の鉄雄感漂う鬱屈しまくりなサイキック少年デイル・デハーンくんの(持ってるDVの)主観としてのPOVでハナシが進んで、コレがラストバトルで一気に他者の視点に解放されるっていう仕掛けがなんやダイナミズムを生んでたと思うが…無いんだよな『ファンタスティック・フォー』! そーゆー面白味が!

そんなワケでコト最後30分に限って言えば手抜きお仕事感がハンパなく、出来の悪いパロディみたいな印象を受けちゃったりすんのだった。
なんか週間連載の打ち切り最終回みたいな感じもあるな。

ほんで、じゃあクソな映画かっつーと、いや待てと。むしろ面白いじゃねぇかと。
っていうか最後らへんがダメなだけで、それまではワリとイイ映画なんだよ!

アレだ、なにがイイって画のトーンがイイじゃんよ。ブルーをキーにしたあまり主張しない落ち着いた画作りなんだけど、その抑制されてリアルに繋ぎ止められながらも妙に浮遊感もあるトコのバランス感覚とか素晴しいよ。
最初の方に出てくるナイトシーンの質感なんて現実がいつの間にか非現実に変貌してくコトの見事な表現になってる(そしてちょっとティム・バートンみたいでもあった)と思うし、研究所に構築された異次元転送マシンとか、コレいかにもゴテついた重みのある機械なんだけど、外壁を青く塗ってレゴブロックみたいにも見える造形になってんの。面白いよね!

そーゆーリアルとフィクションの狭間を漂うようなバランス感覚って物語の語り口にも表れてて、わりかし地に足のついたドラマん中に徐々に超能力だの異次元転移マシンだのって要素を入れてくる。
人物にちょっとした深みを与えるよーな微妙で些細な芝居も大事に扱ってたりして、個人的な好みの問題ではあるけれど、俺はすげーイイと思った。
こーゆーのは『クロニクル』同様に平凡な日常の中でいかにヒーローものを語るかみたいな意図なんだろうけど、その点よー出来てるんじゃないかなぁと思うぞ。

だから、アレなんだよ。たぶんジョシュ・トランクはその感じを完遂したかったんだろうなぁと思うワケ。
出来上がったもんだけ見りゃファンタスティック四人組(+1)のドラマを平等に描こうとして失敗してるように思えるし、例のラスト30分はヒデェもんだし、全体としてとても歪でツマンナイ印象を受けるワケですが、果たして当初のビジョンを反映できてればどーなってたコトかと。

結局たらればでしか無いんだけど、俺はでもすげー面白い映画になってたんじゃねぇのって思いますよ。とくに中盤以降はなんや色々と切られてる感あるんで、せめてあと30…いや15分でも付け足せばだいぶ印象変わるんじゃないかなぁ。
後はまぁ、ラスト30分(再撮入ったらしいが、たぶんこのあたりだろう)をなんとかして頂ければ…ってソレもう別の映画になるか。

まぁなんか、そんな感じの、歯痒い感アリアリの映画なのでした。

あぁ、ただ最後にこれだけは言っとくけど、Drドゥームの覚醒する場面、ラストバトルは全く面白くないが、その直前のココはマジでサイコーだった。
『クロニクル』に続いて再び『AKIRA』全開でさ、Drドゥームが研究所を泰然と闊歩しながら道を塞ぐ警備員やら研究者やらをサイコキネシスで吹き飛ばしてく。
色々あって人類を超越してしまったDrドゥームの神としての再誕を告げるこの瞬間…も、燃える! そして超カッチョイイ! Drドゥーム、ぶっちゃけビジュアルは相当ダサい(つーかキモい)と最初見たとき思ったが、その勇姿を目の当たりにして一気に惚れた!
っていうかやってるコトも撮り方も結局『クロニクル』と同じだったりするが、そうは言ってもやっぱグっとくるもんがあんのだ!

こっからどんな大バトルが繰り広げられるんだろうとワクワクMAXだったんでその後の落胆もひとしおだったりするが、コレ見れただけでも良かったと思うよ俺は。

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