『極道大戦争』は大戦争というか大破壊だったという感想書く

《推定睡眠時間:0分》

いや予告編詐欺とかよくあるが、しかしだね、予告編観ると超つまんなそうなのに観てみたら超オモロイという映画もあり、三池崇史監督の『極道大戦争』は間違いなく後者だと思われるが、じゃあ予告編の作りが悪いのかと言われればさにあらずというか、むしろどんな映画かよく伝えてると思うんである。
多少、実際の映画よりポップな映画に見えるが、そのあたり強調せんとこんな映画どう売ったらいいか分かんねぇよみたいなトコもあり、紛うことなき怪作、珍作、三池全開なんであった。

要するにコレは、地下にある秘密のヤクザ編物教室で渡辺哲らヤクザ囚人が編物に勤しむ横で、電車男とヴァン・ヘルシングとカッパがヤクザヴァンパイア撲滅計画を練っているとゆー類の映画であり、いやどんな類なんだと思うが、しかし字面の上ではバカで幼稚でクソ寒いように思えてしまうのは、ごく一般的な見地に照らし合わせれば至極真っ当、当然である。
つまり、予告編から想像される本編がいかに程度の低い映画であったしても、それが予告編の限界、むしろ予告編では決して本質を捉えられぬ『極道大戦争』という映画作品の巨大さを示しているように、我々には思えるのである。

…あのな、言っとくけどこの映画、お前ら(誰?)が思ってる十倍はバカだからな! バカだし壊れてるからな! バカだし幼稚だし寒いし壊れてるからな!
ヤツは本気だぜ! 三池は本気だ! ココ最近ヌルイ映画が続いたが、今回は本気で映画壊しに来たぜ!
ジョーク混じりに「『マッドマックス/怒りのデス・ロード』はストーリーが無い」と言う輩がいる!
だがちょっと待て! ストーリーが無いってのはあーた、『極道大戦争』みたいな映画のコトを言うんだよ!
だってコッチは、そもそもストーリー語る気がねぇからな!

でもあらすじ書くんだよ! カエルッ!

「男ならやっぱヤクザだろ!」
常々そう思っていた市原隼人は、銭湯で出会ったヤクザの親分・リリー・フランキーに一目惚れ。さっそく子分にしてもらう。
だが、リリー・フランキーの正体はカタギの血を吸って生きるヤクザヴァンパイアなのであった。
おりしもヴァンパイア・ハンターがリリー・フランキーのタマを狙って集結、こうして壮絶な戦いが始まるのだった…。

あとのハナシは要約できそうにない

まったく寒いあらすじなのだが(俺の書き方が悪いが)、でもコレ最初の三十分くらいで、後は崩壊の一途なんであった。
ヤクザヴァンパイアがどうとかそんなんどうでも良くなってくるし、(そのまんまの意味で)脳みそが溶けてくる映画である。
その意味ではイヤ死刑…いや、癒し系映画なのだ。
なんか、映画終わった後は世の中の全てがアホらしく思えてきます。

全編ふざけまくった結果クソつまんねぇとゆー事態は三池映画で頻発するが、その点この映画は初めの方はとても真面目なんで、面白いのだ。
Vシネ回帰! を旗印に撮ったらしいが、レイティングなんかも考慮してかバイオレンス成分控えめも、そのあたりワリとヒリついた空気のあるヤクザ映画。
ピエール瀧をブチ殺し、成海璃子は犯される。うわぁ、ヤクザ映画だなぁ。
で、例のヤクザ編物教室が出てきて突如壊れだすんである。

ところでコレほぼ全編セット撮影で、いつもの歌舞伎町を離れてなにやら昭和なというか、いやむしろマカロニ感漂う寂れた架空の町が舞台。
ひたすら汚しに汚し、なんや溝川とか肥溜めの臭いが漂ってきそうなマジスバ(マジ素晴しい)かつ虚構性を隠そうともしない吹っ切れた作り込みっぷりで、そのコダワリは『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)に匹敵すると思われるが、そもそも観てないので比較できないのだった。

落書きとか広告とか看板とか全部手書きなのだが、やたら背景に入り込んできてコレもガチャガチャと画を汚す。ちょっとシリアスっぽいシーンも背景に目をやるとしょうもないコト書いてあったりして、とても力が抜ける。
男なら必見の「野生」シリーズを上映してる汚ねぇ名画座とかクライマックスに出てくるが、看板には「仁義の酒場」とあった。看板絵はもちろん手書きである。
ネタ、仕込みすぎ。セット見てるだけで楽しいぞ。

ちなみに個人的ベスト・オブ・背景の落書きは「とろ」であったが、このシンプルにして強烈な脱力感はそこらの映画に真似できるものではない。
しかしそもそも、バカすぎて真似しようとか別に考えないと思われる。

とろ。

「ココハ秋葉原デシュガァァァ!」

それにしてもバカにバカを重ねたとんでもない映画だが、本気でやるからバカは面白いを証明したのは市原隼人なのだった。
市原隼人、時代錯誤で血気盛んなヤクザですが、いやいやコレが堂に入ってるんだよ! ボコボコに殴られて犯された成海璃子を見る目つきとかさぁ、あぁヤクザだな、ちゃんとヤクザしてんな、って感じで。
こう、カットとか割らないでさ、会話の間で笑わせるっつーとこ結構あるんだけど、そのあたりの間の作り方とか上手いんだよー、この人。
いや正直、こんなに演技出来る人だとは思わなかったぜ。

ちなみに成海璃子は悲劇のヒロインだったが、バカ世界で一人必死に純愛映画演技を貫く姿に笑った。
なんでもかんでも泣きを入れる昨今の邦画のパロディだろか。
カラーよりモノクロのが映えると思われる人なんで、セピア色な例のセットによくマッチ。

しかしアレだな、やっぱ最大のサプライズは『ザ・レイド』(2011)のヤヤン”マッドドック”ルヒアンの登板だよな!
いやデカデカと名前出てるからサプライズでもなんでもないが、市原隼人との格闘シーンは思いのほかガチである。
電車男ファッションのルヒアン、寒いなぁ…と思ったアンタ! そいつぁ単なる先入観だよ! ルヒアンのアクション全開でアツイんだよ!
それにだな、全然意味の無い(いやホントに)電車男っぷりだって笑えるんだぞ!
「ココハ秋葉原デシュガァァァ!」
登場早々そう叫ぶが、こんだけ破壊力のあるセリフは久々に聞いた。

ヤクザの親分で高島礼子とかも出てたな。重要な役柄かなと思ったが、全く意味不明に壊れるだけだった。
そのブロークン高島に翻弄されるのが舎弟の渋川清彦。絶妙にすっとぼけた表情が効いてます。
最近ヤバイ人で定着してしまったでんでんは、やっぱりヤバイ人でした。
ピエール瀧は、開始1分で死ぬ(衝撃である)

要するに、凶悪なバカ映画なのだった

最初だけ真面目で後は壊れるとか書いたが、しかし撮り方の上ではそうでなく、どんなにハナシがぶっ壊れても普通のヤクザVシネとかホラー風の演出なんである。
その肝の据わったすっとぼけ感は『極道恐怖大劇場 牛頭』(2003)を連想させるが、妙に間延びしてるあたり(いつも間延びしてる気もするが)も鑑みると、むしろ映画破壊映画シリーズ『DEAD OR ALIVE』の三作目『DEAD OR ALIVE FILAL』(2001)の方が近い気がしないでもない。

コレ香港の街並みに「西暦2346年 横浜」とテロップが出る冒頭からして盛大にズッコケるが、三池はあくまでそ知らぬ顔でアンドロイド哀川翔とブレードランナー竹内力の戦いをシリアスにダラダラ描き、やっと宿命の二人の対決が始まろうとしたところでチャッチャチャー! ドッキリでしたー! みたいなコトになる、観客にケンカ売ってるとしか思えない凶悪な映画であった。

間延びした感はあっても無意味なギャグいっぱいアクションいっぱいの『極道大戦争』はそこまで凶悪な感じないが、だからと言って関西弁のカッパ(ホントにカッパである)とか空飛ぶカエルの着ぐるみ男とかヤクザヴァンパイアとか出てきて、その全てを更にブチ壊す展開が一部の観客に耐え難い苦痛と怒りをもたらす可能性が無いとはいえない。

ホラー映画のテンプレ惹句で「心臓の弱い方はご遠慮下さい!」みたいのあるが、煽り耐性の無い方は100%ご遠慮頂いた方が良いと思われる。
観客を指差して「バッカでー! こんな映画マジになって観てやんのー!」と大笑いする三池の顔が、スタッフロールに透けて見えたもんな。
に、憎たらしい…!
(ちなみにスタッフロールで遊ぶのも三池の特徴だが、今回も少し捻ったスタッフロールであった)

そう考えると、やはり凶悪(にバカ)な映画である。
しかし散々バカバカ言ってるが、白状する。例の最強の敵が初めて画面に姿を現したその瞬間、俺のソウルは震えたね。
そして市原隼人との死闘の末の驚天動地の結末は、スクリーンにポップコーン投げつけてイエーって叫びたくなる素晴しいモンだった。
こんなに思い切った、こんなに清々しい映画なんて中々ないし、バカを通り越して爽やかな感動すら呼び起こすのが『極道大戦争』なのだ。
デストロイ三池は帰ってきたのだ!

バカとでも幼稚とでもワンパターンとでも、なんとでも言いたまえ。
誰がなんと言おうと、サイコーの映画である。

とろ。

【ママー!これ買ってー!】


DEAD OR ALIVE FINAL [DVD]

しかし『DEAD OR ALIVE FINAL』にしたって、前の二作を踏まえて観るとなにかこみ上げてくるものがあるのだ。
多分勘違いというか、洗脳されてるんだと思うが。

なにはともあれ、ラストに出てくる竹内力と哀川翔の衝撃の会話、
「どういうことだ?」
「わからん」
を聞くためだけにでも観る価値はある!

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