【祝完結&映画公開】小説版『メイズ・ランナー3:最期の迷宮』の感想

《推定読書時間:5時間くらい》

足かけ3年、ようやく完結。長かった。長すぎた。首を長くして待つほどのものではないが俺は待ってましたからね。刊行間隔が空きすぎて(前巻の邦訳が出たのは2015年9月だ…)原作シリーズの前作前々作で描かれたことはあらかた忘れてしまったが!
大丈夫でしたこいつ誰だっけってなる登場人物なんかは主人公トーマスくんの一人称で「あの時に○○と○○したことは忘れられない…」みたいな感じの解説が入ります。親切。

とりあえず率直な感想としては。面白かった。前巻の『砂漠の迷宮』が俺の中では太陽フレア禍クラスの壊滅的な出来だったので(細部は忘れてもその酷さは忘れない)いったいどこまで酷くなるのだろうかと戦々恐々でありましたが面白かったよ。
行き当たりバッタリのご都合プロットとメイズのインパクトを圧倒的に下回る砂漠のゾンビ廃墟とかいう安直な舞台設定、話を転がすためだけにやたらと増えていくが性格付けが曖昧で少しも生きた感じのない無味乾燥な新キャラ群、およびそのチープを全然誤魔化せないザッツ雑筆致…がこっちとしては読むに当たってのスタート地点になってるわけだからそれを考えたらもう雲泥の。感動ですよ。感動すら覚えましたね。

いや別に変わらないんだよ粗雑な読み物であることには。何か起こる度にいちいち「トーマスは不安になった」とか繰り返すボキャブラリーの貧困とポンコツAI並の心理描写には椅子が転げ落ちて爆発するし、偶然が連鎖反応してメルトダウンするご都合主義だって健在なんてもんじゃあないですから。ご都合が主義に留まってないから、ご都合の実践になってるから。ご都合活動家ですよこの作者の人は言うならば。
そうなると逆にもう快感だよね。二三ページで章を割って各章の結部にびっくり展開を一個置く週刊連載的なスタイルは相変わらずだから段々ご都合活動が気持ちよくなってきちゃった。

なにせご都合だからなんでもありだ。ご都合次第でどんな無茶な方向に行っちゃってもご都合一つですぐさま軌道修正可能だから(死んだと思ったら生きてました! とか)次はどんな強引展開持ってくんだろうのワクワク感ありましたよ。
ひとたびご都合を認めてしまえば通らない筋も通るというものだからメイズもフレアも謎組織WICKEDもなんとか全部絡めて最後は堂々と不正に着地する。
なるほどそういうありえないことだったのかぁ! 正規ルート完全放棄のチート的解決はヤングアダルトとはいえ文学良識人の顰蹙を買うに違いないが、無敵コード入れてザクザク敵をぶっ殺したりワープで一気にラストステージまで行くのが楽しいって時もあるんだ。

広告

ざっくり物語にも触れておくと今回は前作のメインステージだった砂漠の廃墟(スコーチ)とは対局に位置するクリーンな隔離都市デンヴァーが主な舞台。
フレア病の蔓延で完全終了したかに思われた人類だったが(ご都合活動によって)まだまだしぶとく文明ともども生き延びていたんであった、というわけでその文明の未来を背負ったレジスタンスと謎組織WICKEDの戦いに我らがトーマスくんやミンホくんも巻き込まれていく。

映画版の2作目を見た人なら気付いたでしょうがこれは展開を先取りする形で映画版2作目に組み込まれた部分。冒頭に置かれたWICKED施設内での攻防もどうも原作3作目の冒頭から取ってきているっぽい。
あんなに駄目だった原作2作目をそれなりに見れる終末ゾンビ映画に脚色した映画版2作目には感心しましたがー、なるほどあれは原作3作目の展開を踏まえて再構成した結果だったわけだ。

ネタバレである。3部作完結+前日譚シリーズが刊行済みの状態で映画が公開された本国と違って、本邦では映画公開のタイミングに合わせて一冊ずつ訳書が出る刊行時差により映画を観ると原作3部作の次の展開がちょっとわかってしまうという落とし穴。
どうせ粗雑な小説だからそれは別に構わないと思いますが週刊連載的な粗雑読書はいくら面白くても記憶が長持ちしないからスピード大事、映画がそうしたようにあの駄目な前巻も最終巻と合わせて読めばそこまで駄目な印象は残さなかったんじゃないかという気もするので、やっぱ前巻からのインターバルはでかかったなと痛感。
映画公開のタイミングで出さないと商売にならないという事情はわかりますが、その消極的なメディアミックス展開は原作読者にとっても映画鑑賞者にとっても不幸だったのでは。

閑話休題。無駄にたくさん出てくる迷宮少年少女+αの中でもぼくの推し少年はフライパンという名前があるキャラの中では一番役に立たない人ですが、『最期の迷宮』はこいつが最初からちゃーんと出てくるのも嬉しかったなぁ。
ちゃんと出てくるけどちゃんと何もしない無駄な存在感。でもいいんだよそれが欲しかったんだよ俺は、映画版の2作目だとほぼ存在が無だったから…そのへんサービス精神に富んでますよね。アクション大増量だし。

旺盛なご都合活動とサービス精神に裏打ちされた波瀾万丈な展開はSF的な想像力こそないけれども往年のB級SF小説の趣もあり(ヴォークトとか、初期ディックとか)、ラスト、今までさんざん粗雑だご都合活動だとこき下してきたわけですが、そういう舐めた態度で読んでる分だけそんなぶん投げラストあるのかっていう衝撃を受けたのでベストセラーは伊達じゃない。
あぁいう振り切れたオチは中々つけられんでしょう真面目な読み物なら。粗悪な読み物の印象は最後まで変わらないが、粗悪品には粗悪品なりの強みも矜持もあるわけですよ。

そういう感じでしたね『最期の迷宮』は、『メイズ・ランナー』シリーズは。完結おめでとう。そしてさようなら。

【ママー!これ買ってー!】


非Aの世界【新版】 (創元SF文庫)

なんかよくわからないがよくわからないまま話だけはあれよあれよとローリング進行していくので巻き込まれると楽しいが巻き込まれない人にはスクラップに見える古典(というところは『メイズ・ランナー』の著者ジェイムズ・ダシュナーにも影響を与えたのでは)

↓その他のヤツ


メイズ・ランナー3:最期の迷宮 (角川文庫)
メイズ・ランナー (角川文庫)
メイズ・ランナー (2) 砂漠の迷宮 (角川文庫)

コメントしてあげる

wpDiscuz