爆食い映画『移動都市/モータル・エンジン』感想文

《推定睡眠時間:20分》

都市が動く。フィリップ・リーヴのSF冒険小説シリーズを原作とする映画だそうで、都市が動くSFというと知ってる範囲ではクリストファー・プリーストの『逆転世界』とか、終末世界を恒久的に走り続ける列車を都市に見立てた『スノーピアサー』とかが頭に浮かぶが、これら移動都市の直接の原型かどうかはともかくネタ元の一つにはなってるらしいのが前衛建築家集団アーキグラムが60年代に考案した“ウォーキング・シティ”で、これはその名の通り都市全体がロボットになって歩き回るんだとか。

量子うんたらみたいな超兵器で合衆国が爆死、迷惑なことにその余波で大規模な地殻変動と致命的な世界大戦が勃発してしまって文明が一旦リセットされた通称“60分戦争”後の未来世界が映画の舞台。
どういうアレかはよくわからないがその世界では生き残った都市がウォーキング・シティ化していてー、都市と都市が至るところで食ったり食われたり同盟を組んだりとまぁウォーキング・シティ版の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』という感じになっているらしい。

ウォーキング・シティの考案された60年代といえばSF的に重要な都市構想がもうひとつあり、首都圏を東京湾に延長・統合してしまおうとする丹下健三の“東京計画1960”のイメージ図はおそらく『AKIRA』のネオ東京のインスピレーション元。
大破壊の後に現実世界では実現しなかった都市構想で再生を遂げる世界、という発想は『移動都市』も『AKIRA』も同様、その『AKIRA』にサイバーパンク的な先鞭を付けた作品として『マッドマックス2』の影響も大と思われるパンクSF『爆裂都市』なんかもやはりあるわけだから、このへんの作品群の都市に対する関心やイメージの共振はなかなか興味深いところ。っていうか『移動都市』は結構『AKIRA』であった(宮崎アニメっぽくもあった)

『移動都市』のストーリーに話を戻すと、これが結構入り組んでいてややこしいのですが、とにかく巨大ウォーキング・シティと化したネオ大英帝国ロンドンが世界中で爆食いしまくっていると。爆食いしながらムスカみたいな腹黒い偉いやつがかつて世界を滅ぼした超兵器を探していると。
で、その超兵器の秘密を握る少女(ヘラ・ヒルマー)を中心に反移動都市同盟の連中とか色んな人がネオ大英帝国ロンドンの爆食い爆走を止めようとするというのがおおまかな筋。

なんと実は世界各国のウォーキング・シティ同士がバトりまくる映画じゃなくてどうやってネオ大英帝国ロンドンを止めるかっていう話だったんですなぁ。うーん、そう来たか。

いや俺は都市が戦う映画だと思ってましたからね。確かにこれ甲殻海上都市(ウォーターランド公国と名付ける)とか空中浮遊都市とか移動昆虫型集落の集まったバザールとか色々出てくるんですけど基本戦わないからあれーってなりましたよ。
とにかくロンドン一強。強すぎて歯が立たないんですよね他の都市は。

唯一ロンドンとまともにやり合ったのは中国というか万里の長城的なグレートウォールで…まぁ、まぁ、あのグレートウォールちゃんと都市機能も付いてるから都市と都市が戦うといえばそうなのですが、ちょっとだいぶかなり、俺の想像してた都市戦闘じゃなかったね。
SFCの『がんばれゴエモン3』のゴエモンインパクトステージでボスが巨大ダムのステージがありますが、あれです。あれですと言われても困るかもしれませんが俺にとってはあれでした…。

とはいえ異世界冒険ものとしては面白かった。シナリオは未整理で破綻気味だし演出はえらい大味なんですが、やっぱこの奇抜な世界観とメカビジュアルね。
都市はさながら生物で人間はそのパーツか細胞。移動都市時代に人権はないのでネオ大英帝国ロンドンの外では人身売買オークションとか人肉食いが横行。ワラジムシ装甲車の下りとかキャラも含めてたいへんよいかった。野蛮感に溢れてて。

主役ポジションの少年少女にあんま演技的な見せ場がない分、ストーリーに大して絡まない上にわりとすぐ画面から姿を消す脇キャラが異様に立っている映画で、ボタンジャケットを着た人身オークション屋なんてワンシーンしか出ないのに無駄に強い印象を残す。
ミシェル・ヨーだ! と思ったらジヘという人だった赤ロングコートの空賊とか最高ですね。厨二的もしくは『男たちの挽歌』的バカカッコ良さ。乗ってるマシンも良かったなー、なんかテントウムシみたいな。

あとオタクね。すごいオタクが出てくるんですよ。ジャンクの山からフィギュア拾ってきて部屋に飾るのが趣味の怪力ロリコン童貞オタクっていう…あいつの最期めちゃくちゃ泣けたな。オタクが(精神的に)死ぬ瞬間をこんなに容赦なく叩きつけてきたSF映画は他にないんじゃないですか!? 別になくて構いませんが…。

世界中を爆走しながら都市という都市を爆食いするネオ大英帝国ロンドンVS反移動都市同盟の砦・中国グレートウォールという構図は帝国主義やグローバル資本主義のアレゴリーとするとあまりにそのまんまであるし中国市場狙ってます感もあまりに露骨。

逆に、面白く感じてしまった。だってこれ原作はイギリスですけどアメリカ映画ですからね。現実世界ではお前らがネオ大英帝国ロンドン以上の爆食い移動都市やろがいみたいなハリウッドアメリカが自分を棚に上げてロンドンを悪者にしつつ、設定上世界をぶっ壊した原因はアメリカにあるのにアメリカがネオ大英帝国ロンドンVS中国グレートウォールの戦いを止める鍵を握るっていう狡猾かつ厚顔無恥っぷり。そこまで正直にやってくれたら面白いです。

という感じで、いやなんというかよくできた映画ではまったくないのですが、移動都市のポストポストモダンな見てくれ同様ゴツゴツした魅力を放つ怪作、色んな意味でたぶん続編はないだろうなと思っているがもしももしも続編があったら個人的には観てみたいとおもう。

【ママー!これ買ってー!】


藤子・F・不二雄SF短編集<PERFECT版>6 パラレル同窓会 (SF短編PERFECT版 6)

藤子・F・不二雄先生もまた自律移動都市を描いていた、というとネタバレになってしまうがその短編『街がいた!!』が収録された本です。おもしろいよ。

↓原作


移動都市 (創元SF文庫)

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