つらかった感想『Vision』(監督:河瀬直美)

《推定睡眠時間:30分》

最初に出てきて以降まったく画面に姿を現さなくなってしまったので(ただし物語の合間合間でおそらくはその猟銃の銃声が聞こえてきたりはする)いったい何者だったんだろうマタギの田中泯、の疑問を小脇に抱えたまま眠り込んでしまったところうぎゃああああの絶叫で覚醒し何事かと画面を見ると田中泯が!

でもまたすぐに消えてしまったので今もって田中泯の存在がよくわからない。寝ている間に物語に入ってきていた森山未來もよくわからない。夏木マリもよくわからない、永瀬正敏もよくわからない、岩田剛典もよくわからない、ジュリエット・ビノシュもよくわからないのでつまり全部わかりません。

でもなたぶんな俺が思うにこれは考えるな感じろ式の映画だ。大事なのは体系的な解釈じゃない、感じることだ!
見たまえあのジュリエット・ビノシュを! 感じている! 常に感じている! 木々に! 土に! 風に! 雨に! 火に! 感じている!
この感応作用を信じよう。ジュリエット・ビノシュが呼吸を司るなら私が司るのは眠りである。必然なのだ。全ては在るべくして在ったのだ…。

なにを言っているのだ。それもわかりませんが別に構わないのではないのかな絶対わかってないから、エグゼクティブ・プロデューサーのHIRO氏だって絶対試写で見せられてわけわかんなかったと思うんです。
でもね! 身体でわかったよ! 身体で! ソウルで! 交感! 感応! 身体の躍動が! ソウルの牢獄を融解する! これが愛! ブゥゥゥゥゥン!

たぶんそんな感じで納得したなHIRO氏。HIRO氏をなんだと思ってるんだという話ですがいや別に馬鹿にしてるわけじゃないですから…世の中には身体と意識を他者を巻き込んで直結できる統合タイプの人がいて…他方で身体と意識の分裂を他者との間に入った亀裂としてのべつまくなく経験している分裂タイプの人もいて…HIRO氏にせよ夏木マリにせよ森山未來にせよジュリエット・ビノシュにせよ河瀬直美にせよ前者の側だと思いますが…僕は一点の曇りもなく後者なので…そういう風にしか見れないわけですよ…。

だから僕にしてみればこれは宇宙的な映画というほかなく、惨めな地球尺度では測れないから良いとも悪いとも判断しようがない。観ながら自分が何を感じたかも整理しないとよくわからない始末であるからマインドインポも甚だしい。

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要するにスピリチュアル純度が高すぎて着いていけなかったという話。日仏合作だそうでジュリエット・ビノシュが主演だそうで製作がエグザイル事務所だそうで…というすごい越境シネマなのですが、越境人と円環的時間の中で流転する生命を繋ぐのが自然信仰と自由な身体というわけで、マリが舞えばビノシュも舞う、森山未來だってアースを感じながら舞い踊るとこうなる。

河瀬直美&HIRO氏VSジュリエット・ビノシュの組み合わせがにわかには信じがたいが、ダンスの映画なら別にそこに齟齬生じないよなって感じだ。
いや俺はそこらへん頭では理解できても感覚的にはまったく理解できないところなのですがそれはほらマインドインポだから…セックスの映画だから、これスピリチュアルセックスの映画だからマインドインポとの距離は見ため以上に激遠いですよ。

なんだ「円環的時間の中で流転する生命を繋ぐ」って。いや、それは俺が勝手に書いたことではあるがこの映画を理解しようとしたらそういう電波立った文章を書かないといけないんじゃないかと思って…だからそこですよそこが遠いんですよ。
霊験あらたかな大森林が放射するそのスピリットを皮膚で受信できる人が作ってる映画なわけじゃないですか…受信できない貧弱な肉体の人としてはもうなんとも。

キツかったのは映像美の映画じゃねっつーか、河瀬直美は美の対象として自然を見てる感じじゃないのでたとえば『レヴェナント』みたいに美的に自然を消費させてくれない。
人為的に構築された理想的な自然の像というものではなくて…自分もその中に入って中から自然を見ているか見ようとしているようなので、そのような視覚的快楽の方にどうも興味が行かない(あえて予算や技術的な制約などは考えないことにする)。

なんなら視覚を身体を束縛するものとして嫌悪しているフシもあるがそれはともかくとして。
キツかったポイントとしてもう一つ挙げておかなければならないのはジュリエット・ビノシュの演技で…わりと昔から俺はこの人の過剰な…なんていうんだろうな情動っていうか…強すぎるんだよセックスの匂いが、他者と繋がろうとする、他者に入っていこうとする、他者に感じ入って同化しようとする、みたいな感じが。

それが昔から苦手で…なんならもう『汚れた血』だってそのへんが苦手なくらいで…でそれが上手い具合に河瀬ワールドとフィットしてしまっているの。
これは映画として幸福なことなんだろうけれども、馴染めない人からしたら限りなく拷問に近い出会いでありまして…今日の感想がいつにも増して散漫なのはそのブレインダメージが尾を引いてるからだと思ってください。

【ママー!これ買ってー!】


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お話の形としてはほとんど一緒のように思える(これも願いを叶える植物を巡る現地人と異邦人の…)が大幅に異なるのはやはりやはりその捉え方で『彷徨える河』は文化人類学的な視座に立つわけである。

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