リアル山火事映画『オンリー・ザ・ブレイブ』の感想

《推定睡眠時間:0分》

実話の映画化の前情報ぐらいは知っていても予告編なりポスターなりから脚色の範囲およびレベルまでは窺い知ることができないのであのホットショットとかいう森林火災のエキスパート集団(通常の森林火災消防隊より一段上の権限が与えられているらしい)の白さが極めて不自然に見えてしまった。

公式サイトに「消防の世界のネイビーシールズ」と書かれているのが言い得て妙という感じがあるが、描かれる対象が消防だろうと警察だろうとこういう物語類型を取る時にアメリカ映画は十中八九軍隊のアナロジーに落とし込むもので、その映画内軍隊の典型的イメージを構成する重要ポジションといったら陽気なムードメーカーの黒人。

それがいない。ムードメーカーであろうとなかろうと隊員はおろかその関係者に黒人がひとりもいない。エンドロールに入ってこのアリゾナ州プレスコットのホットショット隊は実際にそのような人種構成であったと分かったのでその点は解消されたわけですがー、いやしかしそれにしてもエキストラまで真っ白いのはいったいどういう…とやはり不自然な印象は払拭しきれない。
俺の目などアテにはならないがエキストラに確認できた黒人はたった一人。もう一人だけ出てくる黒人はバーの用心棒で、この人には台詞があったがその台詞といったら一言、ヘーイガイズ! 的なやつであった。

PCPC小鳥みたいにやかましいアメリカ映画界で、また人種問題で揺れる中でこの業界不文律を破った配役。そりゃあなんらかの政治的な意図を読み取る方が自然な鑑賞態度というものでしょうがと言い訳しておくが、そんな込み入った話ではなくこのハリウッド映画的不自然の理由は単純で、なぜこんな白い画になったかと言えばプレスコットの人種構成における黒人の比率は1%にも満たないからなのだった。
そりゃ住んでないなら画面にも出てこないよな。あの白い画はリアリズムだったのか。なんかだいぶズレたところからの感想になってますがへぇってなったので書き記しておきますよそこは。

そういう背景トリビアは頭に入れて観た方がおもしろかったかもしれない。読んでないから原作ノンフィクションとの比較はできませんがたいへん真摯&丁寧に紡がれた物語の印象はあったりし、これをオブラートをひん剥いて表現するとめっちゃ地味ということになるが、それを更に換言するとプレスコットのホットショットを襲った悲劇をプレスコットの町とキッチリ紐付けて映画的な飛躍を抜きにして云々と言えそうなのでつまり、要するに、生真面目な実話映画だったので。

本当にでもアメリカ広いな。こんなところまだ残ってるんですよちゃんと。すごいの。完全に西部劇の世界。みんなテンガロンハット被って馬駆ってカントリー歌ってる。そして家を守る気丈な女と土地を守る頑固な男…の図。
映画的誇張というのもあるのかもしれませんがでも郷土映画が郷土イメージを根っこから偽る理由がないからな。実際そういう精神風土なんだろうプレスコット。

でその西部開拓時代から連綿と続く深アメリカの風景を守ろうとこのホットショットの人たちは粛々と消火活動に勤しむわけです。その粛々に敬意を表してかどうかは知らないが撮る側も粛々と撮るから森林火災と聞けばアメリカンなダイナミズムを想像するがそういうのはなかったです。
最初の森林火災のシークエンス、居住地方向に延焼してしまって地元住民が慌てて避難というパニック映画的風景が挿入されるが状況説明程度のもので、逃げ惑う人々を俯瞰で捉えたかと思えばパっと場面が変わってもう鎮火。

この書き方だと分かりにくいがこれはジョシュ・ブローリンが隊長を務めるホットショット隊(この頃はまだホットショット認定を受けていないが)+αの有能を誇示しているのではなくてプレスコットの森林火災の日常性と無常感を焼きつけているわけで、森林火災あんま馴染みない勢からすると拍子抜け感すらあるが、逆に言えば拍子抜けするぐらいに森林火災はどうしようもないのだった。
地震にでも置き換えてみればいいのか。そうすればもう少し理解の距離が近くなる。職場の外人がちょっとの揺れで驚いていた的な自虐的日本スゴイ話をその外人の視座に立って聞かされるような映画体験といえよう(言えるか?)

げに恐ろしき森林火災に対してはパっと見セガールみたいになったジョシュ・ブローリンも延焼方向を読んで先に火の進路を焼いてしまう程度の防火活動しかできない。航空機からの散水等々あるとしても基本はそれぐらいしか打つ手ないんだろう大規模な森林火災。
というわけで掘る、焼く、観測する、を粛々と続ける。同じ風景の中で同じ訓練を粛々と反復する。保守というのはこういうイメージ連関に対して言われる言葉なんだろうと思い、ぼく個人としてはそのようなものはあまり好まないが、いかようにもグローバルかつ派手に出来そうな題材をあくまで地元リアルと実際の出来事に即して描き出そうとするその生真面目な保守性と、地域の出来事を語り継ぐことの意志には頭が下がる思いではあった。

【ママー!これ買ってー!】


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でも俺はお子様ですからやっぱり派手なほうが燃えるわけでこの映画も森林火災消防隊が主人公であったが敵は森林火災+凶悪脱獄犯グループという派手な無茶盛り、『クリフハンガー』とか『フラッド』とか自然災害に犯罪集団を付け足す90年代アクション映画の安直定番路線の一本と言ってしまえばそれまでかもしれないが!

森林火災に乗じた脱獄を目論む凶悪犯が部下に森林放火を指示、するとおもむろにデヴィッド・ボウイの『Cat People』が。
獄中でタバコに火を点ける凶悪犯。不敵な笑みを浮かべてタバコを放ったその瞬間、燃えさかる森への場面転換に合わせて”I’ve been putting out the fire with gasoline”
たとえベタと言われてもこんなの超かっけぇのでもうもう堪えられないわけですよ。

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