蘇る英国オムニバス・ホラー『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』の感想

《推定睡眠時間:0分》

オムニバス・ホラーというのが好きで、『VHSシンドローム』とか『ABC・オブ・デス』みたいなコンセプト先行型のインディペンデント映画は稀にあるにしてもホラー映画のサブジャンル的には絶滅危惧種なものだから、こういう奇を衒わない正調オムニバス・ホラーを映画館で見ると無条件で尻尾を振る。

何をもって正調オムニバス・ホラーと言っているかというと各エピソードともに画的に地味めっちゃ地味。怖くない怖いけど別にそんな怖くない。血とか出ないすごく出ない穏当。大どんでん返しが用意されてたり、みたいなサプライズは無い。淡泊。
なんかディスっているような気がしてくるがいやでもそれ(オムニバス・ホラーを牽引した)英国産オムニバス・ホラーの常道じゃないですか。バラエティ豊かなショック描写とかじゃなくて、どうせ短編だからみたいな無茶で大袈裟なオチとかじゃなくて、すげぇ淡々とオチも定まらないような奇妙な味や仄かな悪意を食わせてくみたいな…つまりはストーリー先行型の観るアンソロジー的な。

俺それ好きなんすよねぇ…『魔界からの招待状』とか『夢の中の恐怖』とかあぁいう。でパンフレットの監督インタビューを読んだらそのへん影響受けたよねみたいなことを言ってるから作ってるやっぱ側も意識してんですよ地味で淡泊な英国オムニバス・ホラーっていうのを。
英国オムニバス・ホラーっていうか英国性みたいなものか。そのへん裏テーマにして作ってたんじゃないすかね、という感じがあるなこれは。

回想シーンに出てくる壁の落書きにNF81と見える。たぶんこれはプレ・サッチャー時代に急成長を遂げた極右政党イギリス国民戦線(British National Front)の略称で、主人公のインチキ霊媒バスター、グッドマン教授はユダヤ人であるから、国民戦線的なものが幅を利かせていた80年前後がこの人にとってたいへん暗い時代であったことを示しているんじゃなかろうか

英国の暗い近過去。暗い過去の記憶は何もせずともただそこに立っているだけで人を狂わせる、みたいなのは『回転』に代表されるような英国幽霊映画の基本的な考え方だなぁというわけでスピリチュアルとは一線を画すサイコドラマ的幽霊譚で幽霊大国の面目躍如、そいでもって英国オムニバス・ホラーの地に足の付いた現代風バリアント、由緒正しい英国映画の装いを纏いつつ英国らしさに疑いの目を向けるソフト社会派な面もあるのだから、巧みよね。

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オムニバス・ホラーというがプロローグとエピローグの間に15~20分程度のエピソードが三つしかないのでわちゃわちゃと色んな変なエピソードが出てくるわけではなかった。
幽霊とか幽霊に属する何かの恐怖をテーマとしてまとめられてるから散々オムニバスオムニバスと言っておいてあれですが枠組みはオムニバス・ホラーでもオムニバス・ホラー的な面白みはあんまない。
すごい手のひら返しに自分でも驚くがしょうがないですよ、自分のことは自分で思うほど知らないんですから自分は…。

いちばん怖かったのは最初のエピソード。廃病院の警備員が夜勤で経験する恐怖という書いているだけで既に怖い感ありありのお話。
いいんですよね恐怖演出が。反復と仄めかしを駆使した強迫的精神蝕み系。何度も落ちる照明。そのたびに電源を元に戻しに行くがそこには誰もいない。あぁこれは警備室戻ろうと振り返ったらぎゃーってなるやつ…と思いきやお化け出てこない。

なんだろうと思いながら警備室で再びゆっくり。するとまた照明が。戻しに行く。振り返る。お化け出ない。再び警備室に戻ると…やっぱりお化け出ない。
でも段々と警備室の様子がおかしくなってくるわけです。戻る度にコップの位置が動いてたりとか、ラジオが急に聞こえなくなったりとか、無線で連絡を取っていた移民の同僚の声が急に消え…怪談的語り口が実によいかったなこれは。我慢できずにすぐお化けを出しちゃう米国ホラーとの格の違いを見せつける幽霊大国の余裕だ。

そのオチがまたメンタル的にゾゾっとくるのでこれはやばいぞと思って身を乗り出したセカンド・エピソード、しかしこれがなんかよくわからんうえに別にこわくない…あとなんか『死霊のはらわた』オマージュが入ってる…。
内容的にはひとけのない夜道を走る車に何かが、みたいな定番ものなのですがとにかく全てが不明瞭なまま終わってしまうから。なんなんだって感じになる。さっきのはあんなに怖かったのに。

三つのエピソードは霊媒バスターが薫陶を受けた先輩バスターから授けられたものだった。老齢に達して先輩バスター急に転向、やっぱ幽霊いるわみたいな戯れ言をのたまう。
その証拠がこの三つだからお前体験者に直に会って話聞いてこいよというわけでグッドマン教授は怪談収集に出かけるがそれで聞かされるのがこんなつまらん、怖くもないしひどく凡庸なお話だったので俺もえーって思ったがグッドマン教授も同じようにえーっであった。

だがえーってなるということはそこに何かを求めていたのだろうかグッドマン教授は。なにを。お化けの存在することの証明か。お化けの存在しないことの証明か。先輩バスターが提示した謎の答えか。先輩バスターが謎を提示したことの謎の答えか。その凡庸な怪談の裏に何が隠されているとおもったのか?

15~20分程度のエピソードが三つで上映時間98分ということは要するに怪談話はミステリーの前振りなのだった。元は舞台劇というがさもありなん、確かに舞台劇っぽいダイアローグとか場面転換だった気がするよ特に最後の謎解きパートな。それを、また、ひとつの仕掛けとして使っているのだから巧み巧み。比較的先の読める展開だとは思うが気持ちよくどんでん返されましたよ。

『霊的ボリシェヴィキ』とか『ウィンチェスター・ハウス』とか恐怖とは何かを問う系の思索的ホラーが今年はなぜか多い。これもその一本ですが比較的直球でそのテーマを出してきた前二作と違って随分と変化球気味の凝った、多方面から恐怖の正体を見定めようとする作りには、確かに英国オムニバス・ホラーの精髄が詰まってるなと再びの手のひら返しで感想を終える。

【ママー!これ買ってー!】


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影響を受けたと言われれば確かにそうだろうなという感じの英国オムニバス・ホラーの古典。悪夢的な腹話術人形とか疾風怒濤の混乱ラストが精神をごっそり削る。

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