映画感想『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』

《推定睡眠時間:0分》

感情が昂ぶると人物の描線が乱れる。水墨画みたいな平面的に抽象化された絵を予告で見て静寂に包まれた諦観漂うアート系アニメだろうかと思っていたがそんなではなくて荒々しいタッチのむしろアグレッシブアニメ、ぐにゃんぐにゃん崩れていく形態と枠から外れて独立した力強い塗り、ネオンカラーとか使っていたりして動く水墨画というか動く精神的フォーヴィスムの色が濃かった意外。

音楽だって情熱的なチャンチャカチャンチャカいうフラメンコみたいのがかかったりしてなんか熱いぞ。エンディング曲もマカロニウエスタンみたいな曲調だし。あれは、モリコーネかなんかサンプリングしてるのかもしれませんが。

悪魔に唆された親父がまぼろしの黄金と引き換えに娘を悪魔に捧げようとして両手をちょん切ってしまうというお話。娘はガン切れして家出、食わなければ死んでしまうのでそこらへんに生えてたナシを食おうとしたら王子様と電撃遭遇、するが。

コンビニの雑誌コーナーの下の方に置いてあるクソ分厚いのにいくら殴っても人が殺せなさそうな質量のレディコミみたいになった邦題の「大人」の部分というのはあけすけな性描写というか受難と表裏一体の純潔の拒絶、みたいなところで、この少女ときたらオナニーはするし悪魔の憑いた犬どもにチーと小便垂れたりする。

領土と黄金の魅惑にヤラれた男どもの心の隙間に入り込む生娘至上主義の悪魔というわけで資本主義的欲望が女の純潔と隷属を要求するの図。
そんな世の中には乗らねぇよってことで少女は王子様にもらったうつくしい黄金の義手を投げ捨てたりする。邪魔だこんなもの! ストリート(お城の外)じゃクソの役にも立ちやしねぇ! なんかパンクパンクしている。パンクフェミニズム。

こんなお話にしてこんな荒々しい絵。全部一人で描いたというから感情の奔流が云々とか言いたくなるがレイヤー重ね系の手法は怒りをたぎらせつつも相当冷静に絵を組み立てているし、この薄幸のマカロニ的パンク少女というのも生き延びるために何が必要か、何をすべきか冷静に現状を把握しているからこそ木の上から小便を垂れるとかそういう感じなので、結構戦略的な映画(戦略的ではない映画なんて無いと思いますが…)

一見エモそうなアートアニメですが詩情よりもそういう知性の方を強く感じてしまったので絵そのものの面白さが俺の中では意外と意外と後景に退く。
悲劇の少女のエモ消費は女の劣位の消極的肯定になるのだぐらいなことはこの意識の高い作り手の人は考えていそうなのでなるほど確かにそうかもなぁと思うが、娘を売って魂を失った親父とか妻を失って(またか)彷徨う王子の姿が帯びる悲愴な詩情にグっと心惹かれるところもやっぱりあるわけです。

あと少女が気の遠くなるようなやり方で種を植えるところ、ストレートな生への執着と称揚っぷりがすげぇくてよかったです。

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色彩系アートアニメといってもこっちはもっとやわらかい世界観。

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