【アマプラ】『ロア~奇妙な伝説~(シーズン2)』の感想

《推定ながら見時間:全6エピソード中120分》

これ配信直後に最初のエピソードだけちょっと観たんですけどそこで一旦積読カテゴリーに入っちゃって今まで放置してたんですが、何故かというとシーズン1のオカルト系バラエティ的なコンセプトが破棄された。

具体的に前作からどう変わったかというと、各エピソードのネタになってる歴史上の事件・人物とそれに関する現代のイメージとか都市伝説を結びつけるイントロ、それからナビゲーターを務める原作者アーロン・マーンケのナレーションが無しになって純粋にドラマだけになった。

もうがっかりですよ。それじゃあ単なる実録系のミニドラマシリーズじゃないですか。『ロア』である意味がなんもないじゃないですか。『奇跡体験アンビリバボー』からビートたけしが居なくなったようなものですよこれは。
人気が今ひとつのオリジナルドラマなんかはたとえ未完のままでもすぐ打ち切りにするアマプラですけど、こんなバッサリしたテコ入れあるんだなぁ…それで興ざめになっちゃって観るの止めちゃってたわけです。

とはいえようやく立ち直って観てみるとまぁそんなに悪くもない。ドラマオンリーに方向転換した手前当たり前といえば当たり前なのですが、画作りはシーズン1より気合いが入っていて、いかにも再現ドラマ然としていたシーズン1より単純に映像に見応えがあった。
コンセプトのシーズン1と映像のシーズン2か。工芸品的な手触りの美術や衣装なんかは良かったですね。基本的にはコスチューム・プレイだからそういうところ大事。

美術が良いっつっても予算的にはそこまで潤沢じゃない従来型のドラマだから作り込みの範囲は限定的で、エピソードによっては相当苦しい感じもあったりする。
『ゲースロ』とか『ウエストワールド』みたいな超大作と比較してはいけないが、まぁテレビ時代劇と時代劇映画みたいにあくまで別枠として…みんながみんなお金があるわけじゃないんだよ! 誰に対して怒っているんだ。

そこらへんはいいとして。あと残念だったのはシーズン1でいくつか脚本書いて製作総指揮にも名を連ねていたグレン・モーガンが抜けちゃったことですね。これコンセプトの大胆変更とも何かしら関係があるんじゃないすかねぇ。
ジャンル系ドラマのベテランの不在は結構大きく、映像美は増したがケレン味は確実に減った。

ようするに、めちゃくちゃ普通のシリーズになってしまったのが『ロア~奇妙な伝説~(シーズン2)』だったので、これはこれでそこそこな感じに面白かったが次シーズンはもういいやっていうか、たぶんこれで終わりなんでしょね。なんかシコリを残す終わり方ですが…。

以下各エピソード雑感。並びは順通り。

シーズン2のオープニングを飾る『バークとヘア:医学のために』はロバート・ワイズのRKO時代の佳作『死体を売る男』とか、あと最近だとサイモン・ペッグが出てジョン・ランディスが監督した『バーク・アンド・ヘア』のネタにもなった19世紀エディンバラの貧乏殺人鬼コンビもの。

お金がないから盗んだ死体を検体として医学の進歩に邁進するお医者さんに売りつけたバークとヘア。検体の状態が悪いと安く買い叩かれたのでじゃあと生きの良い死体を持ってくことにする。かくして二人は墓荒らし業から殺人業へ転身、気付いたら殺害数で当時最強クラスの連続殺人鬼に堕ちていたのだった。

人を食った用語解説とかパブにたむろするそこらのモブ人間に被さる値段テロップが面白い趣向のブラックユーモア編で、やさぐれたオープンセットや長い絞殺シーンも生々しくて良い感じ。
シナリオはとくに捻ったところのないストレートなものなのでお話としては別にそんなに…感はあるが皮肉が効いててそれなりに笑えるし、あとシナリオが単調で面白くないというのはわりとどのエピソードにも共通なのでとくにこのエピソードの難点ではない。

『エリザベート・バートリ:鏡よ、鏡』もよくフィクションでネタにされるヴラド公と並ぶもう一人のリアル吸血鬼のやつ。なんか処女の血を浴びて若返ろうとした人ですね。
『バークとヘア:医学のために』は小1時間ぐらいは尺があったがこれは30分強とかなのでもう、こんな人いたんだなぁぐらいしか。
お城ロケとかアニメーション演出は良かったか。あとこれも人の死に方が厭な感じでしたね。全体的に人が厭な死に方をするシーズン2。

『ヒンターカイフェック:屋根裏の幽霊』、これは知らなかった。テロップによれば戦間期ドイツの寒村で起きた有名な未解決事件だそうで、屋根裏部屋に隠れ潜んでいた(?)何者かがツルハシで一家を惨殺した、という話。日本でいったら青ゲット事件みたいなものか。
こういう話ならホラー的には『暗闇にベルが鳴る』が連想不可避なので、作り手も意識したのかかなり『暗ベル』風。イコール怖い。まだジタバタしてる被害者をツルハシ刺したままズズーっと雪の上を引っ張っていくところとか超おぞましいかった。

予算の都合をひしひしと感じる貧相な絵面も未解決事件ゆえの起伏のなさもこの場合はホラー演出としてプラスに働く。
音楽も神経を逆なでする実に厭な…もうだって、最初っからこの家族みんな死ぬんだなぁって思いながら家族のドラマ見させられるわけですから、それはもう厭なエピソードですよ。めちゃくちゃ厭でおもしろかったですね。

『プラハの天文時計:オルロイの呪い』はシリーズの中ではオカルト度と創作度の高いエピソードで、ペストの蔓延するプラハの街で壊れたまま動かない大時計を修理しようとする兄弟の話。
これは人食い大時計の機構美術の魅力がすべて。シーズン2の美術志向が最大限発揮されたエピソードじゃないすか。チープな聖人像も気持ち悪いことこの上なし。

ただしそこ一点集中で時計塔の外はほぼカメラに映らないので予算面の厳しさもまた最大限の観がある。
苦しかったんだろうなぁ。創作度が高いからストーリーも例外的に起伏に富んでスケール大きめになってんですけど、予算の限界にぶち当たってるのが露骨にわかるんでなんか面白がるっていうか辛い感じになってしまった。

『メアリー・ウェブスター:ハドリーの魔女』はセーラムの魔女裁判のちょっと前に起きた別の魔女事件ネタで、魔女を生み出す心理と社会状況がテーマになってるという点でシーズン1の『さらわれる女たち』と近いところがある。
これは前のエピソードとは逆に映像は充実してんですけど時間が短いのでっていうタイプで、ちょっとこの話を30分強に収めるのは無理があった。
魔女として村を追放された女の哀しさとか魔女を糾弾する少女の葛藤と贖罪を描いたりして良い話だと思うんですけど、その内面のドラマあと1時間ぐらい尺足りてないと思う…。

シーズン2のフィナーレは『ジャック・パーソンズ:悪魔と神』、俺は知らなかったんですけどこのパーソンズという人は界隈では有名な人っぽい。
これはもう題材勝ちですよね。後にNASAに組み込まれるジェット推進研究所(JPL)の主要メンバーでアレイスター・クロウリーの信徒、幼少期にジュール・ヴェルヌを読んで科学に開眼し黒魔術で宇宙の神秘を解き明かそうとした中世と近代と現代のクロス・ホエンに位置するヴィクター・フランケンシュタイン的な謎人物。キャラが強すぎるだろう。

フィナーレだけあってこのエピソードはよく出来ていて、まぁ舞台が1922~1952年と現代に入ってくるのでそこまで衣装なんかに気を配る必要もなかったとかそういう事情もあるんでしょうが、絵面に他のエピソードからは香った貧乏感がない。
シナリオも面白くて今際の際のジャック・パーソンズが長いとは言えない人生を大急ぎで回想するのですが、浮かび上がる挿話がいちいち突飛で意味不明、呆気に取られつつも笑ってしまう。

アイロニカルなストップモーションやウディ・アレン風のジョークが効いたシーズン2の白眉。
シーズン1に比べてなかなかエピソードに統一感を感じないシーズン2だったが、最終エピソードでようやくシーズン1と共通する「未知のものと既知のものの交差点」がそれぞれのエピソードを貫く軸になっていることが明確になり、その意味でも重要なエピソード。なにやら変人奇人列伝的な様相を呈しておりますが(シーズン3があるとしたらそっち方向に舵を切りそうな気もする)

【ママー!これ買ってー!】


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シーズン2もシーズン1のコンセプトのままやってくれたら良かったのに。誰なんですか無粋な変更を強いたのは…。

↓作品ページ


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