のんびりビッグフット生活映画『サスカッチ・サンセット』感想文

《推定睡眠時間:0分》

いったい俺は何を観ているんだ! なんか昔こういうコントが『ダウンタウンのごっつええ感じ』かなんかにあったような気がするのだが、アメリカの山奥に住むビッグフット=サスカッチの家族的な群れをジェシー・アイゼンバーグやライリー・キーオといったハリウッドスタアが『猿の惑星』みたいな全身特殊メイクで演じ人語のセリフはゼロ、草食ったり交尾したりウホウホ言い合ったりなんかするだけの日々を描いた映画がこの『サスカッチ・サンセット』である!

似たような趣向の映画としてジャン=ジャック・アノーの『人類創世』があるが(こっちの映画は原始人)、『人類創世』が一見キワモノっぽくも大真面目な映画だったのに対して『サスカッチ・サンセット』の方は明らかにバカ。こどもビッグフットが川縁で見つけたスッポンに舌を噛まれたので年長ビッグフットがスッポンをケータイみたいに耳に当ててウホウホと亀に説教をするとか、初めて知った道路の存在に驚愕すると同時に憤慨し自らのナワバリを示すために怒りの放尿脱糞をするとか、そのシーンではついでに母乳まで絞って噴出するとか、いったい大金をかけて何をやっているのか。いや大金かかってないかもしれないけどそうだとしても何をやっているのか。

…うん、イイですね! こんなもん笑っちゃうもんね! 『不思議惑星キン・ザ・ザ』が人生ベスト映画候補の俺なので、こういう真顔で本気のバカをやる映画なんか大いにツボ。とにかくホントに88分間ウホウホ言ってるだけなのだが、そのウホウホがもうバカバカしくてですね…でもそのバカバカしさの中に自分で自分の陰部をさすってニオイを嗅いで「クサッ!」ってなりつつまた嗅いじゃうとか(どうもこのニオイで妊娠を判断してるらしい)、ほじった鼻くそを興味本位でつい食べちゃうとか、人間と通じるところが見えるのはバカだけど単なるバカ映画ではないということ。一人のビッグフットは最近数を数えることにハマっていて、このビッグフットは4までは数えられるのだが5を数えようとすると忘れてしまって先に進めない。ここ、グッと来ましたね。人間になるかならないかのその境界線をこの人は今まさに超えようとしている…! が、あとちょっとのところで超えられない…人生だなと思いましたよ。そうだよね俺の人生もそうだよいつもあと一歩のところで挫折するんだよ…!

野生界と人間界の間に位置するこんなビッグフットたちを見ているとなんだか「しょせんお前ら人間も動物だろうが!」とでも言われてるようである。そういうのは大脳新皮質だけに仕事を押しつけようとするシティ派人間がさまざまな問題を起こしている現代社会に対する批判でもあるよな。映画の前半はわりとウホウホ生活をしているだけだが開発と人間の痕跡が徐々に徐々にビッグフットの生息地域を狭めていく後半は社会批判の色を増しちょっとかなしい。ビッグフットビッグフットと人々は騒ぎ立てるがビッグフットをビッグフットにしたのは人間ではないか。もともとは野山にたくさんいたかもしれないサスカッチの生息地域を奪って「幻のビッグフット!」にした人間たちがその希少性に浮かれる自覚の無さの滑稽。

いや、もともとってもともとビッグフットいないと思うんですが、まぁともかく、そういうところもこのウホウホ言ってるだけの映画にはあるのだ。お前ら人間だってしょせんは動物だろうが、なんじゃい自分たちは動物なんかとは違うんだいと威張りくさって、文明化の錦の御旗の下で身勝手に自然破壊なんか進めおって…思い出せ! お前たちは動物だ! ビッグフットなのだ! 世の中いろいろたいへんですが、そう自覚すれば何か肩の荷が下りて、ご飯食べるとかウンコするとかそんな他愛ない日々の営みも楽しくなってきたりするのかもしれません。

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