オタク寄席映画『タヌキ社長』感想文

《推定睡眠時間:0分》

いやすごいよ、俺これ公開してすぐに観に行ったんですけどその時点で一日一回上映で、その一日一回の客入りが俺含めて7人。7人て! 映画の興行として成立してないだろそれは!? 元からニッチもニッチな河崎実映画の中でもここまで客の入らない映画は珍しいのではないかと思うが、でもたぶんこんな入りでも河崎実的には問題ないんすよね。これ河崎実の他の最近の映画と同じようにクラウドファンディングで制作費集めてて、今見たら120万ぐらいはクラファンだけで集まってんの。120万集まったら河崎実映画の予算としては充分だよね。

出演者は若手芸人とか歌手とか10人程度で屋内撮影が基本の会話劇だから金のかかる撮影はしないしそこに拘束一日どころか数時間みたいな大物ゲスト(吉田照美とモト冬樹が大物ゲストと呼べるかどうかはわからないが!)突っ込んで多少の映画的ゴージャスさをまぶしたら一丁上がりってなもんじゃないですか。しかもこれクラファンのページみたら総定尺30分って書いてあって完成版は73分だからむしろちょっと予算余ったんじゃねぇかぐらいな感じで。

だから客が一日一回の上映で7人しか入らなくても別に誰も損しない。クラファンのリターンで最低額の出資でもDVD贈ってるから出資側も損した気にならないし。作ってる側は映画作れて楽しいし。出てる側もまぁ安い仕事かもしれないけどその分過度な要求をされることもなく歌とか漫才とか各々の技芸を披露して宣伝になってるわけだから悪い仕事じゃないよね。劇場はまぁ「いやもっと客来いよ!」って思ってるかもしれませんが所詮一日一回上映で一週間限定とかそんなもんだから損ってほどでもないでしょ。

こういうの、ある意味理想の映画作りだよな。河崎実はバカ映画の巨匠って(自分で)いいますけど映画作りのシステムは実に賢く練られてますよ。この映画の前に撮った『メグ・ライオン』だってあれ450万とかの福袋売ってさ、それは買った人を主演にして映画撮りますっていう福袋…っていうかそのまんま出資だよね。その買った人は河崎実の濃いファンらしいんですけど、ファンを作ってファンと繋がってファンの出資で映画作ってファンに届けるっていうサイクルができてるんですよ河崎実映画は。どうせ広く訴求しても今以上に売れる作風じゃないわけだからファンから離れないでニッチで商売するっていうのは完全に正しいよね。はいここまで映画の内容の言及なしだって語る内容なんかないよこんなの!

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なんかね社員6人の酒造メーカーの社長がでかいキンタマぶらぶらさせた着ぐるみのタヌキなんです。それでその部下の町あかりという人が社長のこと大好きなんです。どうにかして社長を振り向かせたいなと思っているところで会社に事件発生、掟ポルシェ率いるライバル会社の汚い妨害工作で新製品の納入内定が反故にされそうになってしまう。はたしてタヌキ酒造は新製品を世に送り出すことができるのであろうか、そして町あかりの恋の行方は…まぁストーリーで河崎実映画を見る人はいないからこんなものはどうでもいいな。

この映画のみどころはエンターテイナーたちのネタ披露です。あタヌキじゃねぇんだタヌキ社長ってタイトルなのに! 主演のシンガーソングライター・町あかりは持ち歌をフルコーラスで2曲歌い、お笑いコンビ・ショウショウの昭和漫才は映画開始即始まって数分間続く(ワンカットだ! 長回し!)し接待場面でもう一回ある(余興で接待するという設定なのだ!)。もう一組のお笑いコンビ、レインボーのクズ男コント(これは笑った!)もしっかり2回トータル10分(推定)、掟ポルシェの何が面白いんだかよくわからない食べ物を粗末にするだけの芸もノーカットでお届け!

寄席だねこうなると。漫才、コント、歌、着ぐるみタヌキのキンタマ掬い(ドジョウ掬いのキンタマ版)、食べ物浪費、そこにモト冬樹と吉田照美が顔を出すわけだから豪華な寄席だな~と思わず錯覚してしまう。加えて河崎実の代表作『電エース』はレインボーの二人が『電エース』好きという無茶な設定により記念すべき第一作目がフルでセルフ引用されるお得感だ。『電エース』見ながら「斎藤工も出てるからね、『電エース』「えそうなの?」「そうだよそうだよ、庵野秀明も『電エース』見て斎藤工を『シン・ウルトラマン』に抜擢したと思うんだよね」なーんて会話をしておりました。しょうもない脚本を書くなぁ!

でもこれ観て思ったんですが『シン・ウルトラマン』みたいなマニアックな作りの映画って本来はこの映画くらいの予算規模と興行規模でやるもんだよね。すごいニッチなもので一般客にそうそう届くものじゃないし、オタクの常識で作ってるからそれが一般客には非常識に映ることもある(例のセクハラ論争がそうですよ)。河崎実と樋口真嗣と庵野秀明って映画でやろうとしてることがそう違うわけじゃなくて、ただ違うのは河崎実は特撮はニッチな趣味っていう意識があって、樋口と庵野は特撮を一般に通じる趣味として伝道しようとしているところじゃないかと思う。

俺はやっぱですね河崎実の方に好感を持つわけですよ。なんか嫌じゃないですか趣味の伝道って、趣味をやる楽しさよりも政治的な動機の方が前に出てて。政治的な動機の方が前に出てるから自然と摩擦も起きますしね。ツイッターの特撮オタクたちがウルトラマン趣味を継承するために子供たちにウルトラマンを見せていかねばならない的なことを大真面目に語っているのを俺なんか気持ち悪かったですよ。趣味なんて自分で選んで楽しむものなのにこの人たちは自分の仲間を増やしたいだけで子供のことなんか考えてないんだよ。そんな趣味をいいなって思えないでしょ普通。

河崎実の映画はいつもしょうもないけどそういう押しつけがましさがないから素直に楽しめる。政治的思惑抜きで楽しんで作ってるんだろうなっていうのが見えるからしょうもないけど幸せ感があるんですよ。ただね、しょうもない。本当にしょうもないけどね!

【ママー!これ買ってー!】


私はいかにして30年、一度も自腹を切らずに「電エース」を作り続けられたのか

河崎実のたぶん自伝的な本。タイトルはアメリカの低予算映画王ロジャー・コーマンの自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』のパロディとオタク丸出しです。

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