映画感想文『クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』

《推定睡眠時間:0分》

ハリウッドのSFXアーティストと80年代ファンタ系の映画監督を中心にインタビューを録ったドキュメンタリーですけどインタビュー映像がやけに古くさく見えるなと思ったらこれ2015年の製作らしく、進歩も退歩も日進月歩のハリウッドだから今観るといろいろこみ上げてくるものがある。ギレルモ・デル・トロなんかまだ『パシフィック・リム』とか『ヘルボーイ』の監督の肩書きで出てきたりするからな。そうだよな~まだ『ナイトメア・アリー』も『シェイプ・オブ・ウォーター』も撮ってないからオスカー監督じゃなくてオタク監督の枠内に留まってたんだよな~。

それぞれ『ハウリング』と『狼男アメリカン』で狼男像を一新したジョー・ダンテとジョン・ランディスは仲良く二人で登場、こっちが先に企画してたのに頓挫しちゃったからリック・ベイカーが変身特撮アイディアをダンテの方に持ってっちゃって…と笑いながら話すランディスとその横でいたずらっ子のような笑みを浮かべるダンテの図は涙が出るほど微笑ましいが、二人とも最近はもう本当に監督の仕事がなくなっちゃってあの人は今状態だから微笑ましくも寂しい。

リック・ベイカーは結局ダンテの『ハウリング』ではなくランディスと共に『狼男アメリカン』を手掛けることになったがその際に仕事を引き継いだのが弟子筋のロブ・ボッティン。そういえばロブ・ボッティンて今なにやってるんすかねと思ったらリック・ベイカー曰くSFXの時代が終わるとさっさと引退して別業界に行ってしまったらしい。リック・ベイカー自身も現在は本業といえるSFX仕事はやっておらず俳優としてのゲスト出演なんかが中心だそうな。

ダンテもランディスもベイカーもボッティンも一時代を築いた少なくともアメリカ映画史には刻まれる大人物のはずなのにどうしてこんなことに…といえばそれはやはりCGの登場が大きかったらしい。この映画では1993年の『ジュラシック・パーク』をCGとSFXが併用された最後にして最高の特撮映画と位置づける。以降CGが優勢となり現代の大作ジャンル映画ではSFXは使われるとしても極めて限定的にしか用いられなくなってしまった。インタビューに応じるSFXアーティストが口々に言うその身も蓋もない理由はコストパフォーマンスである。そうですよねSFXコスパ悪いもんね…。

でも、ボッティンがSFXを手掛けた『遊星からの物体X』が今でも観られ続けているのはそのコスパの悪さ故なんじゃないか、とも俺は思う。CGは楽しいしスゴイし便利だし今更否定論をぶつ気は毛頭無いのだが、たぶんCGは作り手が作りたいものを無駄なく作れすぎて、観客に引っかかりを残しにくいんじゃないだろうか。SFXは無駄が多く不完全だが、だからこそその試行錯誤の形跡が観客の心に引っかかる。SFXに限らずそんなものを現代社会はあまり積極的には評価しないのかもしれない。何事にもスマートな即戦力人間が求められ、要領は悪いが味のある人間の居場所は隅の方の決まった区画にしかない。一芸に秀でていれば他がダメでも賞賛された時代のなんと遠いことだろう。基礎科学への投資は年々減って地道な実験を尊ぶ風潮は廃れるばかりだ。

ハリウッドのSFX栄枯盛衰ものがたりは映画を超えてそんなことも思い至らせる。アレック・ギリス、スティーヴン・キオド、クリス・ウェイラス、マット・ウィンストン(スタン・ウィンストンの息子)、ミック・ギャリス、グレッグ・ニコテロ、フィル・ティペット、ケヴィン・スミス…と、時代を彩ったかつてのオタクスタアたちのありがたいあの頃話を聞かせつつ、現代社会の在り方にも一石を投じる(かもしれない)ドキュメンタリーがこの映画だったと俺は思う。おもしろかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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『クリッター』の時にスティーヴン・キオドに作ってもらったクリッターのゴムモデルをいじりながら「これはもう古くなって口は開かないんだよ」と語るミック・ギャリスにちょっと泣けてしまう。

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