《推定睡眠時間:0分》
かつてアミカスを筆頭にイギリス映画界でブームとなったオムニバスホラーという形式は劇場用映画としては廃れたもののアメリカでは『VHSシンドローム』シリーズや『ABC・オブ・デス』などのヒットシリーズが新世紀に入っても生まれているし日本では『世にも奇妙な物語』のようなテレビ番組や『ほんとにあった呪いのビデオ』みたいなOVで定着して今に至っているがそういえば韓国ではそういう話をとくに聞いたことはない。にも関わらずここ一年の間に『怪談晩餐』そしてこの『呪儀 BODY PARTS』とオムニバス・ホラー映画が二本も日本で公開されているので詳しい事情はよくわからないが今、韓国ではオムニバス・ホラーが密かにアツいらしい。韓国といえばインターネット先進国。ウェブトゥーンつまりウェブマンガも人気でそれを原作とする『整形水』のようなホラー映画も結構あるようなので、サクッと読めるウェブトゥーンに親しんだ若者層を取り込むために一編一編が短いオムニバス・ホラーが求められているのかもしれない。
さて『呪儀』ですが不穏なサブタイトルが示すようにこれは肉片の映画である。韓国のあるところに謎の「お父様」を崇めるカルト教団があり、狂言回し役の人が雑誌の取材かなんかでそこに潜入すると、いつまでもお目覚めにならないお父様を覚醒させるために信者たちがお父様代理のお母様に貢ぎ物を献納するところであった。この貢ぎ物というのが耳・鼻・目玉などといった人間の肉片、その肉片それぞれがどのようにして生まれたか…ということが全5エピソードで描かれていくのだ。
肉片テーマなので当然グロめではあるが全てのエピソードがグロ寄りという感じではなく、てか幽霊ものが3編とデスゲームものが1編とあとなんだったかなあと何かなのでグロよりもオカルト成分の方が強め。呪いの香水を使ってしまったことで世の中が急にめちゃくちゃ臭く感じてしまう人が出てくるエピソード、幽霊が見えるというが会社の同僚に信じてもらえずイジメという名のリンチ犯罪を食らっている男が「そんなに見たいなら見せてやんよ…」と本気を出すエピソード、安い部屋を借りたら案の定曰く付きだったエピソード、目が覚めたら隣の部屋の人と首がワイヤーで繋がってた人のエピソード、という感じでオムニバス・ホラーだから出オチ系のネタが多い。
そのわりにはシナリオがそう巧くなくテーマを消化しきれてないエピソードが多い気がするが、とはいってもしょせん長くて15分程度、どれもサクッと気楽に観られて良かったんじゃないでしょーか。個人的なお気に入りは幽霊が見える人がリンチされてるエピソード2。これは幽霊が見える人の面構えがいかにも陰気でとてもよい。なんとなく槇原敬之にも似ていた。この人の顔がよかったとそれだけではさすがにホラーとしてどうなのかと思うが背がやたら高い幽霊や首吊り状態で襲ってくる幽霊など『13ゴースト』を思わせる個性派幽霊が次々現れ物理で殴ってくるスピーディ&ゴリ押し展開はエピソード尺の短さを逆に利用した格好で、シンプルながらこれがなかなか見せるエピソードとなっていた。
次点は目が覚めたらデスゲームのエピソードですかねぇ。これはエピソードの完成度がそれほど高いというわけではないのだが、幽霊ものが続く中に一編だけデスゲームが混ざっているとなんとなく得した気分になる。まぁ全体としてはB~C級の取るに足らない暇つぶしホラーでしかないかもしれないが、こういう何のタメにもならない暇つぶしホラーが映画館で観られるというのは実に幸せで贅沢なことです。なぜかネットでの評価が異様に低いのだが、配信で観ればもう少し面白く感じられるのではないか、こういう暇つぶしホラーは。