気分はなんだかバイオ4映画『ゼイ・ウィル・キル・ユー』感想文

《推定睡眠時間:40分》

美学研究者のノエル・キャロルは『ホラーの哲学』という本の中でロラン・バルトのサスペンス論を発展させ、人はフィクションのどのようなものにサスペンスを感じるか理論化しているのだが、それによればサスペンスは「鑑賞者がフィクションの登場人物に悪い結果が降りかかる確率が高いと予期したときに生じる」ものらしい。たとえば手に巨大なナタを持った殺人鬼が夜道を眺めているショットが入り、続いてその夜道を殺人鬼の存在に気付かない人がヘラヘラと笑いながら歩いているショットが画面に現れるとすると、その映画の観客は「うわ~、これはこの人絶対殺されるわ~」と悪い結果を予期してサスペンスを感じるというわけで、この理論はいわゆるお笑いの天丼の場合にも適用できてしまうことから(その場合は「絶対また穴に落ちるじゃん!」みたいな悪い結果の予期が笑いを生むのである)若干の修整が必要に思われるが、それでも登場人物が崖から落ちそうな時とか爆弾が爆発しそうな時とかさまざまな場面に当てはまることから、有用な理論ではないだろうか。

そのような観点から言えば『ゼイ・ウィル・キル・ユー』はほとんどサスペンス要素がない映画だった。主人公は何か目的があって『バイオハザード』みたいな仕掛けのある高級マンションに使用人として雇われるのだが、さんざん宣伝で言ってしまっているから別にネタバレにもならないだろう、この主人公単なる使用人と見せかけて正体は『ジョン・ウィック』級の殺しのプロ、そして高級マンションはリメイク版の『ツールボックス・マーダー』のような邪教の館で邪教徒が使用人を生け贄に捧げたりしている魔の館だったのだが(だから『バイオハザード』みたいな仕掛けがあったのだ!)、邪教徒は殺しのプロと知らずに主人公を生け贄に選んでしまったので逆に殺されまくるという次第である。

この邪教徒は邪教に身を捧げているので不死身の肉体を持っていた、というホラー設定があるのでジャンル的にはホラーに一応分類されるだろうとしても、この映画が怖いか怖くないかで言えばまったく怖くない。なぜなら主人公が鬼強い上に殺しの一つや二つまったく気に掛けない超人的な殺しのプロだからである。観ているコチラは主人公が邪教徒をバッサバッサとぶった斬りながら秘密の隠されたマンションのたぶん最上階に上っていくのを『ザ・レイド』の如く眺めるわけで、そんなものは爽快感こそあれ恐怖感はゼロだろう。

もちろんそれは映画として失敗しているのではなく作り手の狙い通りのことなのである。すなわちこの映画は正義の超人的殺しのプロが悪の邪教徒を無数の返り血を浴びながら斬り殺し、斬り殺し、斬り殺し、斬っても斬っても相手は不死身なので再生してしまうのでまた斬って殺す、というその過程を『バイオハザード4』的に見せていくホラーテイストのアクション映画なわけで、観客の方もまぁ楽しめる人はその爽快ぶっ殺しアクションを楽しむんである。似た趣向の映画としてはニコラス・ケイジが殺人ロボット相手に無双する『ウィリーズ・ワンダーランド』などが挙げられるかもしれないし、セガール映画にも近いと言えなくもないかもしれない。

アメリカ映画だが監督はキリル・ソコロフというロシアの人である。どうも、世の中にはロシアン・バイオレンスという流派があるようで、『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフ、『Mr.ノーバディ』のイリヤ・ナイシュラー、そしてキリル・ソコロフが今回その系譜に新たに連なったわけだが、多くは亡命して(?)ハリウッドで撮っているこの流派の特徴はVFXを多用しての殺しの軽さと数の多さ、そしてそれが生み出す非現実的なゲーム感覚にあるように感じられる。事実イリヤ・ナイシュラーがロシアで撮り上げた『ハードコア』は原作こそ無いものの「もしもFPSゲームを映画にしたら!」という発想のPOVアクションだったわけで、この流派の先達となったベクマンベトフも華麗なVFXアクションで注目されたのであった。

面白くないんだよなぁ、そういうの。いや、最近丸くなってきたベクマンベトフは面白いんだけどナイシュラーとかなぁ、ホントに人死にが軽くて……人死にが軽い映画なんて大好きといつも言っているような気がするので矛盾しているような気もしなくもないのだが、なんでしょうな、なんかね、ロシアン・バイオレンス派の映画ってマッチョ思想が強い気がしてさ、なんかそれが嫌。それをすごい軽く無邪気にやってる感じがあるんすよ。そんなこと言ったらおめーが大絶賛してる『ウィリーズ・ワンダーランド』も同じだろうと言われそうだが『ウィリーズ・ワンダーランド』はギャグとしてやってるわけじゃん。やってることは爽快アクションだけど演出がそれをギャグ的に捉えてるからジャンルはコメディなんですよ。暴力の過剰を笑いにしてるわけ。でも『ゼイ・ウィル・キル・ユー』はそうじゃない気がするな。笑えるところもあるけどやっぱり基本は爽快アクションで、人をぶっしゃぶしゃとどうせこいつは悪人だし不死身だからと殺しまくることをストレートな快楽にするわけ。それがマッチョな感じがしてうーん、俺の世界ではねぇな、とまぁそう感じるわけです。

まぁ単純にずっと殺してるだけだから展開にメリハリがなくて面白くなってのもあるよ。だって主人公は超人的な殺しのプロだし相手は不死身だしで、そしたらどっちも何されても基本死なないから、先に書きましたけどサスペンスなんかないよね、サスペンスなくコメディでもなく延々スカスカ殺し合いをやってるだけったら、それはちょっと映画として芸がないんじゃないすかねぇと思ってしまう。でも俺は『ジョン・ウィック』シリーズが面白くない人間なので、世間的には『ゼイ・ウィル・キル・ユー』も痛快アクションとして面白いんじゃないだろうか。まぁ、こんなことを言いながら『血戦 ブラッドライン』は大いに燃える人殺しアクションだったと喜んだりする俺なので、人間の映画の好みなんていいかげんなものである。

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