平成フォーエバー幸福映画『影を売る女』感想文

《推定睡眠時間:20分》

お馴染み幸福映画の最新作とつい言いそうになるが大川総帥の死後、幸福映画の製作本数は激減。かつての幸福映画といえば宏洋や咲也加といった大川総帥が後継者指名をした教団幹部が制作に全面的に関わるものだったのでそれなりに重要性もあったのだが、今やそういうこともなくなってしまい、この『影を売る女』もデカデカと名前が出るのは原作でクレジットされている大川隆法のみ、その他のスタッフは教団内の知名度はわからないが一般的には無名といえる人たちであった。こうなるともはやお馴染みのとは言えまい。なんだかちょっと寂しいような気もしないでもない。

影を売るというのは比喩ではなくそのままの意味である。主人公の会社員はなんかデカめの広告代理店っぽいところで働いているので給料は良さそうだが出世の兆しもなく恋愛とかの楽しいイベントもなくわりあい空虚な日々を送っていた。そんなところでたまたま立ち寄った辻占いに今日このあと最初に出会う人があんたの運命を大きく変えると告げられる。果たしてその最初に出会う人とかなんか吸血鬼ドラキュラみたいな明らかに街で会ったら関わらない方が良さそうな風貌の人であった。明らかに関わらない方が良さそうだが主人公がグイグイそいつに突っ込んでいくと、ドラキュラ(風)は影と引き換えに願いを叶えてやろう的なことを言う。ということで主人公は影を売ってみたところ、さまざまな偶然が重なりあれよあれよという間にお金持ちになってしまう。しかし影を売ることにはもちろん代償があり……。

自分の影を売ることで望みを叶えるという物語はファウスト伝承を下敷きにした古典怪奇映画『プラーグの大学生』を思わせるところがあり、さすが幸福映画だけあって良いか悪いかは別としてセンスが古い。主人公の勤める広告代理店っぽいところも原作が大川隆法のため(だけではない気がする)女はお茶出しとか出世した上司にみんなでネクタイをプレゼントとかかなり濃密に漂う平成感なのだが、今回は今までの幸福映画と違ってお仕事コメディのテイストなので、それもまた『ショムニ』『ナースのお仕事』などなど平成のレガシードラマを彷彿とさせるのであった。毎度欠かさず流れる隆法作詞作曲ソングも「高収入、高学歴、高身長のイケメンいないかな~」と主人公の心情を歌い、とにかく至る所から平成一桁イズムが溢れ出す映画である。

それにしても科学の進歩は著しく、幸福映画の前作『ドラゴン・ハート』では生成AIに地獄風景を作ってもらっていたため幸福映画にあるまじきクオリティに(一部だけ)なっていたのだが、これも生成AIの力を借りたのか、タイトルなんかはプリセットの動画編集ソフトで作ったようなチープさでありつつ、例の影を売るシーンは壁に投げかけられた影がうまいことベリっと剥がれてなかなかのクオリティ。その後たびたび出てくるみんなには影が出ているのに主人公だけ影が出ていないというシーンは合成が丸出しなので一転して安っぽいが、とはいえ、そうしたシーンを見せ場として要所要所でキッチリ出す作りには古典的なトリック映画の興趣も漂い、幸福映画でそんなものを感じたくはあまりない気もするが、なにやら映画の本質的な面白さを感じさせなくもない。

もっともストーリーの方はそうした表現上の面白さに追いついておらず、とくに終盤の盛り上がりに乏しい点はちょっとどうかと思ってしまう。これは衝撃的だったのだが従来の幸福映画はクライマックスにゴッド隆法の長い長い説法が入ったり至上神エル・カンターレの奇跡パワーを見せつけるのが常だったが、なんと今回は説法も奇跡もなく、「人間、やはり欲を見ないで平凡に生きるのが一番ダナァ」なんていう一般的な結論に落着してしまうのである。『愛国女子』のような強い右翼的政治主張もなければ『呪い返し師 塩子誕生』(塩子ってなんだよ)のようなスピリチュアルもない。これを見てあぁやっぱり幸福の科学って素晴らしいなとかこれは幸福の科学に入信しなきゃと思わせるところがないのだ。いや、それはある意味従来の幸福映画にも全然なかったのだが。

やはり総帥の死が教団に与えた影響は大きいようで、ここから見えるのはもはや政治的野心も持たず勢力拡大の意思もなく、ただただ身内で結束して今までの「幸福」を維持し続けようと教団の姿ではないだろうか。スマホもパソコンも出てこないこの映画の中ではすべてが1990年代で止まっているが、90年代こそは幸福の科学の黄金時代であり、その影響力は間接的にとはいえあの岡本喜八を教団周辺映画『遠い海から来たクー』に巻き込んだほどであった。もちろんその頃は敬愛すべきみんなの総帥も健在だったわけで、あぁ、あの頃に戻りたい……信者たちのその感情ばかりが透けて見えるのだから、作っている方は意図するところがゼロだと思うが、なんだか少しだけ切なくもなってしまう今回の幸福映画なのであった。ほんの数年前までは「エール・カンターレ・ファイト!」と叫んでファンタスティック魔法パワーで悪魔と戦っていたことが信じられませんよ!

※大川総帥は右翼なので幸福実現党も新自由主義右派の政党に分類できるが、右派なら自民党に迎合的とは限らないとはいえ(「もっと右になるべきだ!」という主張から対立していたりする)、高市政権をあてこするような場面がちょいちょいあったことにはやや驚いた。教団の実権を握る人が穏健派になったのだろうか?

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