渋々ノワール『マザーレス・ブルックリン』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:2分》

だいたいタイトルからして最高である。『マザーレス・ブルックリン』ときましたよ。こう、なんとなく反対側ロサンゼルスと対になるような! 陽光降り注ぐ開放的なロスに対して薄暗くて孤独なブルックリンですよ! これはもう中二中二と人々から後ろ指を指されてもマイ邦題『ブルックリンに母はねぇ』に決定じゃないですか。でもこっちを指して嗤う暇がある人なんて本当はいないから逆にダメージだよな。孤独! これがブルックリンの孤独…。

ブルックリンというのはエドワード・ノートン演じる探偵のあだ名みたいなやつ。探偵といってもフィリップ・マーロウ型ではなくコンチネンタル・オプ型なので同僚探偵が何人もいる。こいつら全員ブルックリンの同期。探偵事務所のボスのフランクが部下にすべく孤児院からピックアップしてきた。ちなみにフランク役はブルース・ウィリスなのでポスターとかに超ビッグに名前載ってますが開始5分ぐらいで死ぬので助演ではなくカメオに近いゲスト出演。

びっくりしたよねその急救急展開。しかしまぁ、親代わりとしてフランクを慕っていたブルックリンが彼の死を契機に単身ニューヨークの闇に踏み込んでいく、というのかざっくりあらすじなので、いかにも頼りがいのありそうガイなウィリスがあっさり死んじゃった! という衝撃は映画に必要なものだった。それがあるからこそわれわれお客もブルックリンの視点でニューヨーク暗黒悲話を体験できるというもの。

ところでブルックリンには持病があり、この人はチック症なので自分の意に反してバイク事故後のビートたけしみたいに首が動いてしまったり何らかの刺激(言語刺激含む)に反応して連想的に言葉を発してしまう。およそ探偵には向かなそうな感じではあるがブルックリンは人並み外れた記憶力を持っていた。フランクはその能力を買ってブルックリンを探偵事務所に招いたわけで、持病により社会のアウトサイドに置かれた孤児院内の更なるアウトサイドで生きることを余儀なくされていた自分にインサイド復帰のチャンスをくれた、ということからブルックリンはひとかたならぬ恩義をフランクに感じている。

いやいやいや~、このタイトルにしてこの設定、もうこの時点で勝ったよね。ノワールはキャラと設定と音楽と撮影が9割。しかも時代は戦争の傷跡もまだ残る50年代ときたもんです。それはそれぐらい足したらわりとどんな映画でも作品の9割ぐらいにはなるだろ! というのは自分でも思いますがいやつまりね、つまりですよ! 超ムーディー最高。それが言いたかったのだ!

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しかしエドワード・ノートンが『ファイト・クラブ』で鍛えた1人1.5役、こんなところで生きてくるとは思わなかったすよねぇ。あの上司の部屋で自分で自分ぶん殴る場面とかね。あれの延長線上に今回のチック症の発作芝居があるんです。なんか知らんが感慨深いな。
そのチック症の発作が非常によい効果を上げていて、ブルックリンが発作を起こす度に節が付くというか、淀みなく流れていた空気に亀裂が入る。これが映画に独特のリズムと緊張感を与えているわけです。

ジャズクラブに行ったブルックリンが黒人ジャズマンと共鳴するという場面も出てくるように、発作をある種ラップ的な即興音楽として捉えている。これはすばらしい発想。エドワード・ノートン出演だけでなく製作も脚本も兼任してる熱の入れようなんですが、この発想を実現するために原作を映画化しようとしたんじゃないかってぐらい。どこで飛び出すか分からない発作を抑えるためにブルックリンはガムを食みマリファナを喫む。そこに絡むトム・ヨークの痛ましい哀惜ソングとダニエル・ペンバートンのツイステッドな懐古シネジャズ。足を引きずった殺し屋の足音さえも音楽になる。とても繊細で音楽的な映画だと思いましたねこれは、このノワールは。

映像も隅々まで作り込まれていてよかったなー。旧ペンシルバニア・ステーションを再現した特殊効果もすごいが撮影ディック・ポープ、この人の近年の活躍っぷりは『風をつかまえた少年』『ピータールー マンチェスターの悲劇』『レジェンド 狂気の美学』と直近の三作を並べればどれも破格の映像美で魅せる映画であったのでわかろうものですが、ここでも冷たい無機質な世界に投射される光と影の綾がうつくしく…エドワード・ホッパーの絵がそのまま動いているかのようだ! もう、感嘆符とか惜しげもなく付けてしまう。

外見の話ばかりするのもあれなので物語の感想もちょっとだけ書くと、もう、王道。王道のフィルムノワール。とにかくやたらめったら入り組んで回りくどい、そのくせ事の真相はめちゃくちゃ単純。ただ『マザーレス・ブルックリン』が巧いのはその回り道が単なる往年のノワール・スタイルの模倣とか借用じゃなくブルックリンの成長と親離れの過程になっているところで、彼が行く先々でフィリップ・マーロウの如くボコられるのも(小説の方だとマーロウも結構ボコし返しますが)通過儀礼的なイメージを帯びてくる。

直球のリバイバルでありつつそこに違和感なく現代的解釈を施す手並みの鮮やかさ。建物や死体に仕込まれたちょっとしたシュルレアリスティックな味わい。エドワード・ノートン、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォー、いずれも実に含蓄のあるノワール的屈折。ノワールの墓標にその名を刻む「ローラ」を演じるググ・ンバータ=ローは捻れ歪んで欲望する男たちの世界の中で唯一理性で動く正常な人だったが、その醒めた芝居の行間からほのかな悲壮を匂わせるあたり「ローラ」なのだった。

何度か挿入される一人称視点は全編一人称視点の実験ノワール『湖中の女』のオマージュか。最後らへんは『大いなる眠り』を彷彿とさせて、ロバート・ミッチャムがマーロウを演じた1978年版の映画ではマーロウが野球ファンの設定だったから、『マザーレス・ブルックリン』にドジャースの話題が出てくるのもそれを意識したものだったのかもしれない。
いやぁ、見所いっぱい、渋みいっぱい。昔のハリウッド・ノワールだったら144分も引き延ばさないで89分ぐらいで終わらせるだろ、とかそういうのは一応あるが、ありますが、この世界だったら何分浸っていても別に構わないと思わせてくれたので、非常にとてもまったくよい映画でしたね~。

【ママー!これ買ってー!】


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『ファイト・クラブ』、ノートンにとっても大きい存在だったんだなぁ。

↓原作

マザーレス・ブルックリン (ミステリアス・プレス文庫)

5 Comments
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さるこ
2020年1月16日 6:32 PM

こんにちは。
貴レビューで知り、見に行きました。
良かったあ!
ロング・グッドバイとか死刑台のエレベーターとか、思い出しました。
主演をサム・ロックウェルだと思っていた私…

さるこ
Reply to  さるこ
2020年1月16日 6:35 PM

ウィリアム・デフォー、名前はポールではなくゴッホじゃないですか!ビックリ!

さるこ
Reply to  さわだ
2020年1月17日 8:08 AM

あ!ごめんなさい。デフォーさんです↓
https://gaga.ne.jp/gogh/
この撮影現場からそのまま来たのかと思うくらい。

探偵事務所のタバコの煙とか黒電話の音とか、写真現像する暗室とか…好物ばかりでした(^^)。