米国老人理想郷映画『チア・アップ!』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

このような場所が日本にあるのかないのか知らないがアメリカにはシニアタウンというのがあるようでこれはシニア専用のゲーテッド・コミュニティのような場所、老人ホーム(今はそう呼ばないのだろうか)の拡張版のようなものだが実際はともかく映画の中ではシニアが住みシニアが学びシニアが働きシニアが娯楽に興じるひとつの街で、日本の老人ホームだって必ずしも退屈な場所とは限らないだろうがやはりスケールが違うので…アメリカの老後暮らしは湿っぽさがなくのびのび愉快でいいなと思ってしまう。こんな理想郷が仮に現実にあるとしてもお金持ちしか入れないんでしょうがね。

それでそこではこれもアメリカを強く感じるところですがクラブ活動がたいへん盛ん。大小様々なクラブがあってやりたいのがなかったら自分で立ち上げることもできる。月一ぐらいで街全体のクラブ発表会があるのでやりがいバッチリ、第二第三の人生感抜群。新規クラブの審査であるとか施設の使用許可を出すのも街に住むシニアから成る管理組合なのでいや~、なんていうかアメリカ的独立マインドよね~。

驚いたことに保安官すら街のシニアです。つっても銃を携帯する本物の保安官ではなくこれも一種のクラブ活動というか、ボランティア活動というか、騒いでるシニアがいたら注意するとか喧嘩の仲裁をするとかそういう役割らしい。でもアメリカだから本人たちは自分の活動に誇りと責任を持ってるんだな。自分の仕事は自分で決めて、その仕事を通して社会の中に自分の存在意義を見出す。シニアタウンというのは受動的に静かな余生を送る場所ではなくて(まぁそういう人も中にはいるのでしょうが)、能動的に終末期の自分の居場所を作るための場所であるようだ。

さてそこに引っ越してきたのが末期がんのダイアン・キートン。子供もいないし夫もいないしなにか熱中できる仕事や趣味があるわけでもない、遺すものなんか別にないので辛いだけの化学療法なんかやめてもう静かに死んじゃうかってなわけで都会のアパートを引き払ってシニアタウンにやってきた、が、そこに待ち構えていたのはババァのくせしてヤンキー20代ばりにアクティブな迷惑隣人ジャッキー・ウィーヴァー。

はじめはウィーヴァーをうっとうしく思うキートンだったが無理矢理いろいろと付き合わされているうちに意気投合、ウィーヴァーの影響で自分がやってみたかったことをふと思い出す。それはチアリーディングであったというわけでキートンとウィーヴァーはチア部を結成、まぁなんかアメリカ映画的なイベントがいろいろ起こるのであった。

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それにしてもダイアン・キートンはかっこいいねぇ。この人はもう年齢70オーバーですが歪みのないスラリとしたシルエットが美しいしシンプル&フォーマルなファッションも実にキマッている(ワイシャツのボタンは一番上まで全締めだ)、元教師の知性は未だ錆びず自分の面倒は自分で見るタイプのカクシャク老人なので死期を悟るやあえて抵抗せず死を自分一人だけで処理しようとする強い意志を持つ。イーストウッド的な老人ヒロイズムがアリアリ。がんに罹患する以外はまことに理想の老後像だ。

シルエットにも性格にも歪みのないキートンが主演かつ製作総指揮であるからストーリーも歪みがなくベタついたところがない。そこも気持ちイーストウッド風味で、なにか劇的なことが起こるわけでもなければ大笑いできるようなところも大泣きできるようなところもない、ま、どうせ人間いつかは死ぬんだからこんな風に晩年を過ごせたらいいじゃない、という感じでなんだか爽やかコミカルにハードボイルド。キートンの「葬儀」なんか粋でしたな。

キートンの立ち振る舞いはひとつの見所ですがやはり老人ともなると一挙手一投足にドラマが宿る、チア部員オーディションで部員候補生のシニアたちがそれぞれの得意とするダンスや体技を老人速度と老人重量で披露する場面の滑稽味と滋味は若造どもが絶対に会得することのできないものであろう。ちなみにその一人はパム・グリアなのだが驚きましたよえらい恰幅がよくなっていたのですがその恰幅が単に贅肉に侵食されたというものではなく体幹がしっかりしてるので完全にバトル用の恰幅、その衰えぬ戦闘力に興奮してしまった。人間いろんな歳の取り方がある。

キートン&ウィーヴァーのチア部活動はやがて街を飛び出して悩める若造どもに居場所を見つけさせたり退屈な人にはやっぱ退屈だった街に活気をもたらす。このへんの展開は定石だが、ようやく事件らしい事件に巡り会えた老人男性保安官(70)の一世一代の大活躍(この人もおそらく保安官にずっと憧れていたのだろう)っぷり、老人男性保安官の後釜を虎視眈々と狙う老人女性保安官見習い(90)のファッキンかつキューティーなダーティっぷり、いい歳こいてクイーンビーを気取る老人女性管理組合長(75)の早く死んで欲しいけどうそうそ冗談だからまぁ可能な限り生きてくださいねっぷりなどなど、シニアタウンのほどよい毒気を帯びたユーモラスな人間模様がベタなストーリーの嫌味を消して独特の彩りを添えていた(※各キャラの年齢は推定です)

共感するでもなく嘲笑うでもなく飄々と老人生活を笑いつつ死の現実を軽やかに老人速度で通り過ぎていくその手並みは円熟の職人芸を思わせたが監督、劇映画はこれがはじめての人らしいですよ。人間、いくつになっても遅すぎるチャレンジというものはないね。まぁこの監督は若い人っぽいが。

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ソニックユースとか歌うロック老人コーラス隊に取材したドキュメンタリー。アメリカの老人活動は多彩ですな。

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