好き嫌いしなさすぎ映画『Swallow/スワロウ』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

マット・ジョンソンの珍名一人バンドThe Theが好きでその初期の曲「This Is the Day」が主人公ヘイリー・ベネットが異食趣味をスタートすると流れ出すんですが主人公の心境に合わせた選曲だからとちゃんと和訳が付いていてちょっとグッときちゃったよね。日本のスクリーンでたぶん初でしょThe Theに和訳が付くとか。

微妙だよね。ポストパンクの中では取り立ててマニアックな人じゃないしかといってめちゃくちゃメジャーな人でもないし初期はミュージック・コンクレートとかダブっぽいのとかいかにもポストパンクらしい曲も作っていたがその後は曲作りがどんどん穏健化して英国的な屈折と憂愁そして強烈な反骨精神を湛えつつも曲自体は愚直なロックンロールという感じになって…The The、立ち位置が微妙! そんな人の歌にちゃんと和訳字幕が付いたわけです。祝(でもジョニー・マーが参加したアルバムだってあるんだぞ)

でこの「This Is the Day」はルー・リードの「Perfect Day」が映画のBGMで使われる時の用法で使われます。「Perfect Day」が本当にパーフェクトなデイのシーンで流れることは絶対にないという映画トリビア。対置法としてむしろ最悪な状況で流れまくるわけですが『スワロウ』の「This Is the Day」もそんな感じで…だって異食だからね。どことなくキンクス風のキラキラ憂愁メロディに乗せてマット・ジョンソンが今日から君は変われるからね~みたいに歌ってるところでヘイリー・ベネット本読みながらページ破ってむしゃむしゃ食う。このマット・ジョンソンの歌がまたいいんですよね芯の太いパワフルな歌声なんだけれども祈るような嘆くような調子で…ってじゃあ対置法じゃないじゃん。ま、そのへんはなんとなく言いたいことを感じ取ってください、フィーリングで。

でヘイリー・ベネットは最新リメイク版の『透明人間』に出てきたのと同じようなガラス張りの豪邸に住んでます。なんでアメリカのお金持ちってやたらガラス張りの家に住みたがるんでしょうね。あんなん実用性ゼロでしょ。見えるし。エロビデオとか見てたら見えるし。そういう問題でもないのであろうが…まぁそんなことはどうでもいいとして、『スワロウ』のタイトルは籠の鳥を暗示したものかもしれないし、籠に収まらない鳥を暗示したものなのかもしれない、ということがこの舞台設定からわかる。

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この家を持ってんのは見てくればかり気にするろくでなしのスーパーリッチ夫。こいつがヘイリー・ベネットをガラスハウスに飾ろうとする。結婚とは名ばかりで、というか、スーパーリッチ夫とそのスーパーリッチ家族は結婚を箔付けだと思ってるので、どうせ箔ならキレイな方がいいっていうかむしろキレイなだけでいいよねってことで貧乏家庭出身のヘイリー・ベネットとの超絶格差婚実現。

余談ながらこのヘイリー・ベネット、仕事の名目で自分はどこでも好きなところに行けるスーパーリッチ夫に専業主婦を命ぜられ(とはいえ本人もまんざらでもない)ずっと家に籠もらされているのであるが、家事の合間に手持ち無沙汰になると大豪邸なんだから他に娯楽はたくさんあるのにとりあえずスマホを出してパズドラみたいので時間を潰す…というのが貧乏家庭出身者であることを端的に示していて大変よかった。

そうなんですよね、貧乏人はメンタルも貧乏だから自由時間もらっても何して暇つぶしたらいいのかわかんないんすよね。貧乏暇なしという言葉もあるが暇になると貧乏人はむしろ不安と焦燥感に駆られたりしてどうでもいいことに浪費したりしてしまいがちというこの切なさ…そういう映画ではないのだが。

さて、しかし妻に華だけ求めるスーパーリッチ夫と結婚に相互理解とかベッドの上だけではない共同作業を求めるヘイリー・ベネットでは絶望的に噛み合わない。抑圧ストレスがマックスを超えたヘイリー・ベネットはガラス球とか画鋲とかをガンガン食ってく一人電撃ネットワークと化す。異物を食いながらシリア難民の家政夫とか精神科医と低温コミュニケーションを重ねて明らかになるのはヘイリー・ベネットの色々と自己決定権のなかった人生であった。

開放感を得るためにリストカットをやるやつもいるし、こんなことできちゃう私ってすごく(病んで)ない? 的にリスカ画像を誇示するかのように送ってくるやつとかもいるし、自傷もまたひとつの自己決定というわけで、ヘイリー・ベネットも異食を通して自己を解放していく…というか、映画の最後に出てくるティーンエイジャーのような出で立ちのヘイリー・ベネットを見るに、他人に押しつけられた大人の仮象を捨てて新しい自己を確立していくのであった。

異物を食べてしまうというのも乳幼児の無差別的な食体験の追体験ということだろう。幼児期を追体験することで人生を生き直す。選択できなかったものを選択し直す。他人には自傷としか映らなくても本人的には別の自分になるための通過儀礼だったりするもんな、ああいうの。俺にも痛々しいティーン時代にセルフ根性焼きでニコニコマークを腕に作った暗黒歴史があるが…。

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良い映画でしたね。ネタはゲテモノ風でも中身はスノッブな舞台劇風。豪邸ビジュアルとかもそうですがお話からキャラクターから見事にミニマル美学で貫かれてて美しさがあった。ヘイリー・ベネットの少女のまま外見だけ大人になってしまったような演技も良いしチラ見えする谷間も最高。そういう下卑た感想を垂れるんじゃないよこういうフェミニズム系の映画で…すいません(でも本当に最高なので…)

端正に作られすぎて取り付く島がないようなところもあるし省略の激しいカッティングにも関わらず何が目に飛び込んできても案外驚けない(こういう作風の作品だからな、と引いた目で見ちゃうわけです)ようなところもあるが、まぁ現代アート置いてる美術館で展示品を眺めるような感じで楽しんだらいいんじゃないの。個人的にはもっと腑に落ちなさとか割り切れなさを残した映画の方が好きですが、こういうパズル的な映画もそれはそれで面白いものです。

なんか前向きな感じだしね。あのオチで前向きなのって思う人もいるかもしれませんが生き直しについての映画と考えればピッタンと合点が行くんじゃないすか。シリア難民のエピソードもヘイリー・ベネットの親父のエピソードも生き直しについてのものですしね。やろうと思えば人間いつでも何度でも生き直すことができる。なにもその方法が異食じゃなくてもいいだろとは思うが、フェミニズム的な女の抑圧から始まって普遍的な生き直しの物語に着地するのだから見事な曲芸よね。

あと豪邸の窓越しに見える森林とくねった川、あれ印象的だったな。イギリス風景画っぽいんですよね。ミニマル美学にしてもひねたシナリオにしてもそう言われればイギリス映画的な気がしないでもないし、The The使ってるぐらいだから結構イギリス趣味の映画だったんじゃないだろうか。抵抗としての自虐っていう屈折も。

※予告編見ててそうだそうだと思い出したんですが食べ物を全然美味しくなさそうに撮るのも面白いところだった。ヘイリー・ベネットが根性食いする異物の方が美味そうに見えるんだよな。味わい深い倒錯。

【ママー!これ買ってー!】


Soul Mining

「This Is the Day」の入ったやつ。

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