フレコメ二本立て感想文『キャメラを止めるな!』『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』

フランス映画といえばゴダールだのトリュフォーだのアニエス・ヴァルダだの…という時代はもう古い、今のフランス映画はアート映画ではなくすっかり大衆喜劇の花盛りです。まずっとそうだったのかもしれませんけど日本に入ってくるフランス映画がアート映画中心だった時代はあったわけですからなにか隔世の感がありますね。というわけでフレンチ・コメディの新作がここ日本でもめでたく二本公開されたので合わせてレビュウ!

『キャメラを止めるな!』

『カメラを止めるな!』まさかの仏語リメイクは逆に驚くオリジナルに忠実な作り。ということは知ってるネタ振りがされて知ってるネタ回収がされるわけで、これが初見の人ならいざ知らずオリジナルを観ている俺としてはわりとそんなに面白く感じられなかった…。

それを抜きにしてもあまり感心しないリメイクで、とくにロケ地がよくない。オリジナルのロケ地はは鬱蒼とした森の中にある浄水場みたいなところでちゃんとホラー的に不気味な感じがあって、俺はオリジナルの何が良かったってネタ回収の部分よりも冒頭30分のワンカット低予算ゾンビ映画のパートが安いゾンビ映画として完成されているところに良さを感じたものだったので、そりゃ国が違えば同じロケ地は望めないにしても日当たり良好な広大なショッピングモールの廃墟を舞台にしちゃったらゾンビ映画として成立しないじゃんとか思う。

演出的にも冒頭30分をホラーとして撮っているか完全にネタ振りとして撮っているかはオリジナルとこのリメイク版を分かつところで、オリジナルのゾンビ芝居はとくにADの人が素晴らしかったのだが、リメイク版のゾンビ芝居は作り手にホラー映画の適性がないとしか言えない手抜きっぷり。いや手抜きというかだから完全ネタ振りとして撮ってるのであえて「これはネタなんですよ」的なゾンビ芝居にしているのはわかるが、ホラーからコメディへというジャンルの転調が『カメラを止めるな!』という映画の面白さのひとつなのだから、そこは捨てないでほしかった。

そうした点を除けばそれなりに工夫は感じられる映画で、オリジナルと基本同じ展開というのも劇中で理由が説明されるメタ構造になっていたり、冒頭30分のキャストの顔合わせシーンをワンカットの長回しで撮っていたり、しっとりとした人間ドラマの部分はオリジナルよりも説得力があったりして、そこらへんはよかった。冒頭30分は(オリジナル同様に)生配信映画の設定ゆえDJ的な音楽担当の人が新キャラとして入ってきて、台本を逸脱した撮影状況に困惑しながら音を付けていく…とかも面白いのだが、ただそのためにテンポは少し悪くなって笑いどころを逃してしまうようなところもあり、これは一長一短という感じ。

ゆーてフランス映画界がリメイクしたらオリジナルなんか余裕で超えるだろと思っていたが、そんなわけで意外にもオリジナルの方が全然いいじゃんと思ってしまったな俺は。

『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』

日本公開された代表作『BABYSITTING』シリーズ2作目が『世界の果てまでヒャッハー!』という超訳邦題になったことから「ヒャッハー!」の監督として日本で知られることになった(または実写版『シティーハンター』の監督・主演として)フィリップ・ラショーのスーパーヒーローパロディ映画。売れない俳優のラショーのもとになんとスーパーヒーロー映画『バッドマン』の主演オファーが舞い込んでくる。明らかに『バットマン』の便乗作品だがそれでも大役と気合いを入れて撮影に臨むラショー。だが撮影帰りの自動車事故で一時的に記憶を失ってしまい、彼は自分の正体を本物のスーパーヒーローだと思い込んでしまうのであった…。

自分をスーパーヒーローと思い込んだ男が巻き起こす騒動を描いた抱腹絶倒コメディと思いきや案外そんな感じではなく、本筋とはあまり関係のない小ネタ下ネタパロディネタが映画のメイン。主人公と仲間たちがマーベル&DCのパロディ合同チームを組んでリアルヴィランに立ち向かうシーンは大笑いしたが全体的にはちょっと笑えてちょっとホロリのパロディイイ話として小さくまとまってしまった映画の観がある。といっても主人公の悪意なきおっちょこちょい行動によりまったく無関係の人が甚大な被害を被るラショー映画の黄金パターンにより周囲は大変なことになっているわけですが(隣のスタジオで撮影してた某ハリウッド・スタアの巻き添えっぷりには爆笑)

こういうパロディ映画は一昔前ならハリウッドがよく作っていたが最近はなんだかとんと見なくなってしまったなぁ。いつの間にか欧米コメディの中心地はハリウッドからフランスに移ってしまったのかもしれん。バカでブラックで脳天気。久々の気楽に観て気楽に笑えるパロディ映画ってことで、良かったです。ちなみにいちばん好きなネタは主人公の友人が薬の副作用で母親と親友がペッティングしている幻覚を見まくるやつ。

【ママー!これ買ってー!】


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『ヒャッハー!』シリーズで共同監督を務めたニコラ・ブナムが贈るフレンチコメディ版の『狂った野獣』みたいな楽しい映画。こっちにも『アイアンマン』パロディが意味も無く出てきたりします。

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